「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・再築記 3
フォコの話、150話目。
豹変した女王。
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3.
ハイミン島に、織機の音が響き渡る。
「ふんふん、ふふーん……」
2か月前に生まれたばかりの我が子を膝に乗せ、マナは楽しそうに機を織っていた。
「よっ、ただいま」
と、そこにアミルが帰って来る。
「あら、おかえりなさい。お店、どうだったの?」
「順調さ。まったく、ホコウはすげーよ。あいつにかかれば、不可能なんてないって思っちまうよ」
「良かったじゃない。じゃあ、あたしが織った布も売れたの?」
「おう。……っつっても、どれが誰のか分かんねーけど、……ま、全部売れたからさ。間違いなくお前の、売れてるから」
「うふふっ」
309年の暮れには既に、フォコは開店資金の1500万クラムを8割方、使い切っていた。
だがそれを半年足らずで補えるほどの収益を収めており、砂嵐商店は今や、サラム島で知らぬ者はない、有数の人気店となっていた。
「今日の売上は?」
「はい、合計約130万ガニーになりました」
「えーと、大体10万クラムちょい、かな。順調やね」
黒板にカツカツと数字を書き込みながら、フォコはにっこりと笑う。
「……んー」
が、黒板に書かれた業績を眺めるうち、フォコは顎に手を当ててうなり出す。
それを見て、アミルが声をかけた。
「どうした? 何か問題が……?」
「ああ、いえ。店がちゃんと回転するところまで来たんで、そろそろ次の策を進めとこかな、と思て」
「次の策?」
フォコは黒板に南海地域の地図を貼り、その南東にあるレヴィア王国の辺りを指差した。
「今んところ、動き出してはいませんけども、そろそろ僕たちの動きに気付いてもおかしくないはずです。調べたら、僕らが廃棄した島で原料を集めとることは、すぐ分かることです。
せやから、向こうさんが動き出す前に、先手を打っておこうかな、と思いまして」
レヴィア王国、城内。
「うふふ、ふ」
2つ並んだ子供用のベッドを眺め、アイシャ・レヴィア女王は微笑んでいた。
「かわええのう」
ベッドにいるのは、言うまでもなくアイシャとケネスの子供たちである。
「そう思わぬかえ、アズラ」
「はい。かわいいです、おかあさま」
そして抱えているのも、同じくアイシャの、1人目の子供である。
その様子だけでは、彼女が南海の征服に躍起になっている暴君であることなど、微塵も感じさせない。
「妾は幸せ者じゃのう、こんなにも可愛く素晴らしい子らに囲まれておる。
その上巨万の富と強大な軍勢、この『砂と海の世界』を統べる絶大な権力を併せ持つ、真に恵まれた、王者」
アイシャは抱えたアズラに頬ずりしながら、さらにこう付け加える。
「もっとじゃ、もっと。もっと攻めるのじゃ。
この海で誰も、我が一族に刃向う者が無いように」
「刃向う者がまだ、根強く残っておるようじゃな」
大臣や将軍たちを集め、アイシャは冷徹かつ、冷静に言い放った。
「ベール王国をはるか西に退け、他の小国を蹴散らした今、妾こそがこの海の王者。にもかかわらず、なお抵抗を試みる者がいること。嘆かわしいこと、この上なし。
して、お前たち。その愚かな者共、潰す算段は整えておるのかの?」
女王の冷たい視線に射抜かれ、大臣たちは恐る恐る資料を見せる。
「はっ……。まず、南海に駐留する西方商人たちの中で非スパス系の人間、つまり我々と協力関係にない者が、まだ何名かおります。
中でもロックス鉱業の主、ファン・ロックス氏は、ここ数年で蓄えた資金を背景に私設軍隊を構え、ダマスク島を中心に勢力を伸ばしているとか」
「ふむ。どう攻める?」
「我々の主力兵器、大砲は、海上の船を攻めるにはこれ以上なく効果的な兵器ですが、残念ながら、彼らの砦にしている鉱山は、岩の塊。これを攻めるのは至難の業であり、また、兵士による上陸作戦も……」
「結論を述べよ。妾は延々と、お主の能書きを聞くつもりはないぞ」
ギロリと冷たくにらまれ、大臣は額の汗を拭う。
「……失礼しました。軍を使っての直接的な侵攻は、効果が無いでしょう。
なのでスパス氏と連携を取り、西方でロックス氏を締め出す作戦に出ようかと。どれほどの産出があろうと、買い手を失い、市場から追い出されれば、商人の命脈は尽きます」
「なるほど。それで進めて参れ。他には?」
淡々と会議を進めていくその姿に、かつての彼女を知る者たちは皆、ただただ感心するしかなかった。
(昔は我がままで手の付けられないお方だったが……、お世継ぎを得てから、ガラリと変わられた。
母は強し、と言うことか)
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豹変した女王。
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ハイミン島に、織機の音が響き渡る。
「ふんふん、ふふーん……」
2か月前に生まれたばかりの我が子を膝に乗せ、マナは楽しそうに機を織っていた。
「よっ、ただいま」
と、そこにアミルが帰って来る。
「あら、おかえりなさい。お店、どうだったの?」
「順調さ。まったく、ホコウはすげーよ。あいつにかかれば、不可能なんてないって思っちまうよ」
「良かったじゃない。じゃあ、あたしが織った布も売れたの?」
「おう。……っつっても、どれが誰のか分かんねーけど、……ま、全部売れたからさ。間違いなくお前の、売れてるから」
「うふふっ」
309年の暮れには既に、フォコは開店資金の1500万クラムを8割方、使い切っていた。
だがそれを半年足らずで補えるほどの収益を収めており、砂嵐商店は今や、サラム島で知らぬ者はない、有数の人気店となっていた。
「今日の売上は?」
「はい、合計約130万ガニーになりました」
「えーと、大体10万クラムちょい、かな。順調やね」
黒板にカツカツと数字を書き込みながら、フォコはにっこりと笑う。
「……んー」
が、黒板に書かれた業績を眺めるうち、フォコは顎に手を当ててうなり出す。
それを見て、アミルが声をかけた。
「どうした? 何か問題が……?」
「ああ、いえ。店がちゃんと回転するところまで来たんで、そろそろ次の策を進めとこかな、と思て」
「次の策?」
フォコは黒板に南海地域の地図を貼り、その南東にあるレヴィア王国の辺りを指差した。
「今んところ、動き出してはいませんけども、そろそろ僕たちの動きに気付いてもおかしくないはずです。調べたら、僕らが廃棄した島で原料を集めとることは、すぐ分かることです。
せやから、向こうさんが動き出す前に、先手を打っておこうかな、と思いまして」
レヴィア王国、城内。
「うふふ、ふ」
2つ並んだ子供用のベッドを眺め、アイシャ・レヴィア女王は微笑んでいた。
「かわええのう」
ベッドにいるのは、言うまでもなくアイシャとケネスの子供たちである。
「そう思わぬかえ、アズラ」
「はい。かわいいです、おかあさま」
そして抱えているのも、同じくアイシャの、1人目の子供である。
その様子だけでは、彼女が南海の征服に躍起になっている暴君であることなど、微塵も感じさせない。
「妾は幸せ者じゃのう、こんなにも可愛く素晴らしい子らに囲まれておる。
その上巨万の富と強大な軍勢、この『砂と海の世界』を統べる絶大な権力を併せ持つ、真に恵まれた、王者」
アイシャは抱えたアズラに頬ずりしながら、さらにこう付け加える。
「もっとじゃ、もっと。もっと攻めるのじゃ。
この海で誰も、我が一族に刃向う者が無いように」
「刃向う者がまだ、根強く残っておるようじゃな」
大臣や将軍たちを集め、アイシャは冷徹かつ、冷静に言い放った。
「ベール王国をはるか西に退け、他の小国を蹴散らした今、妾こそがこの海の王者。にもかかわらず、なお抵抗を試みる者がいること。嘆かわしいこと、この上なし。
して、お前たち。その愚かな者共、潰す算段は整えておるのかの?」
女王の冷たい視線に射抜かれ、大臣たちは恐る恐る資料を見せる。
「はっ……。まず、南海に駐留する西方商人たちの中で非スパス系の人間、つまり我々と協力関係にない者が、まだ何名かおります。
中でもロックス鉱業の主、ファン・ロックス氏は、ここ数年で蓄えた資金を背景に私設軍隊を構え、ダマスク島を中心に勢力を伸ばしているとか」
「ふむ。どう攻める?」
「我々の主力兵器、大砲は、海上の船を攻めるにはこれ以上なく効果的な兵器ですが、残念ながら、彼らの砦にしている鉱山は、岩の塊。これを攻めるのは至難の業であり、また、兵士による上陸作戦も……」
「結論を述べよ。妾は延々と、お主の能書きを聞くつもりはないぞ」
ギロリと冷たくにらまれ、大臣は額の汗を拭う。
「……失礼しました。軍を使っての直接的な侵攻は、効果が無いでしょう。
なのでスパス氏と連携を取り、西方でロックス氏を締め出す作戦に出ようかと。どれほどの産出があろうと、買い手を失い、市場から追い出されれば、商人の命脈は尽きます」
「なるほど。それで進めて参れ。他には?」
淡々と会議を進めていくその姿に、かつての彼女を知る者たちは皆、ただただ感心するしかなかった。
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そうじゃない奴もたまにいるようですが。