「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・再築記 4
フォコの話、151話目。
武装商人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「他に議題がなければ、会議を終わる。何ぞないか?」
アイシャの質問に、大臣の一人が恐る恐る手を挙げた。
「その……、まだ確実、と言うわけではないのですが」
「なんじゃ。はっきり申せ」
「『砂嵐』の残党、アミル・シルムが、サラム島に店を構えた模様です。経済的には中立地帯のため、スパス系による包囲もできません。どう致しましょうか……?」
この報告に、アイシャの冷たい目に、困惑の色が浮かんだ。
「なんじゃと? 海賊が店を? ……捕まえてくればよかろう」
「いえ、それがですね、本人は姿を現さず、商店主の名義だけがある状態ですし、確実に本人なのか、それとも人気取りのために、有名な人物の名を騙っているのか、判断が……」
「疑わしきは罰せよ。構わぬ、襲え。……と、それはできぬ決まりになっておったな」
「はい。スパス産業との取り決めにより、サラム島など、商業の活発な島とその近辺での軍事行為は自粛してくれ、と」
「分かっておる。……ふうむ」
アイシャが考え込んだところで、別の大臣が案を出した。
「調べましたところ、彼らの製品はスパス系に比べ、非常に安価なものでした。と言って、質が劣るわけでもなく」
「それとこの件が、何の関係があるのじゃ?」
「上質の原料を安価で仕入れられるルートを持っている、と言うことです。
さらにこれを調べましたところ、どうやら3、4年前、南海東~中央地域を征服し終えた後に軍を撤退させ、廃棄した拠点を買い付け、そこに残っていた原料・資源を使っているようです」
「ほう。……そう言えば綿花やら香辛料やら出る島を潰して、基地にしておったのう。
旦那様から『今さらこんなところを抑えても、軍事予算の無駄遣いだ。基地は捨てておけ』と命じられ、権利を手放しておったが……、ふむ」
アイシャはこの情報を受け、手を打ち出した。
「ならばその島々を潰すか奪うかしてしまえば、奴らは身動きできなくなる、か。
そのシルムを騙る奴か、シルム本人かは分からぬが、とにかくいずれ、妾やスパスに楯突く存在になるのは目に見えておる。早々に、その芽を摘まねばな」
一方、フォコはアミルとランニャを連れ、南海北東地域の島、ダマスク島を訪れていた。
「ここって確か、ロックス鉱業が買った島だったよな。何でも、キルク島の権利でロックス氏が揉めて、こっちに移ったとか聞いたけど」
「らしいですね。ここにも鉄を初めとする重金属の鉱山があるらしいですし、ゴールドマン商会と手を切っても、十分利益が出とるみたいです」
「ゴールドマン商会って言ったらホコウ、お前の実家だったよな」
「と言うても、今は無関係ですけどな。
まあ、聞いたところによれば、エンターゲート氏が商会を乗っ取った後、レヴィア女王と結婚してくらいから、ロックス氏との関係が悪化しとったらしいですわ。
知っての通り、レヴィア女王は南海各地で侵略を繰り返しとりましたし、ロックス氏はそれに反発し続けとりましたけど、その相手と契約元が結託したら、ロックス氏がレヴィア王国に従わさせられるのんは目に見えてますし、事実、そう言う動きもあったそうです。
そんなことになったら、今まで散々守ってきた資源や利益を、最も渡したくない相手に取られることになる。
それを回避しようと、ロックス氏はゴールドマン商会との契約を解消。それまで得た利益を元に、自分で軍隊を組織して、このダマスク島に本拠地を移した、っちゅうことらしいですわ」
「軍隊、ねぇ」
確かにダマスク島には、それらしい設備や人間が、あちこちに並んでいる。この島に入るのさえ、散々打診と交渉を重ねたほどである。
「しかし、敵はレヴィア軍なんだろ? あいつらの攻撃に耐えられるとは……」
「木造の船とか、漆喰の壁とかやったら耐えられへんでしょうけども、ここの砦は岩の中、鉱山ですからね。いくらなんでも、島ひとつ跡形もなく消せるほどの威力は無い、っちゅうことでしょうね」
「ま、そりゃそうか。そんなもんがあったら、とっくに世界征服してらぁ」
兵士に先導される形で、フォコたちは物々しく防御を固められた屋敷に通された。
「息が詰まりそうだよ」
小声でそうつぶやくランニャに、フォコも小声で返す。
「ごめんけど、我慢してや」
「分かってる、分かってる」
応接間に通された三人の前に、すぐに壮年の兎獣人がやってきた。
「お待たせいたしました。私がロックス鉱業の主、ファン・ロックスで……」
と、お辞儀をしかけたファンが、フォコに目を留めた。
「……?」
「なんでしょう?」
ファンはいぶかしげにフォコを見つめ、やがて何かを思い出したような、驚いた声を挙げた。
「……ぼっちゃん!?」
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武装商人。
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「他に議題がなければ、会議を終わる。何ぞないか?」
アイシャの質問に、大臣の一人が恐る恐る手を挙げた。
「その……、まだ確実、と言うわけではないのですが」
「なんじゃ。はっきり申せ」
「『砂嵐』の残党、アミル・シルムが、サラム島に店を構えた模様です。経済的には中立地帯のため、スパス系による包囲もできません。どう致しましょうか……?」
この報告に、アイシャの冷たい目に、困惑の色が浮かんだ。
「なんじゃと? 海賊が店を? ……捕まえてくればよかろう」
「いえ、それがですね、本人は姿を現さず、商店主の名義だけがある状態ですし、確実に本人なのか、それとも人気取りのために、有名な人物の名を騙っているのか、判断が……」
「疑わしきは罰せよ。構わぬ、襲え。……と、それはできぬ決まりになっておったな」
「はい。スパス産業との取り決めにより、サラム島など、商業の活発な島とその近辺での軍事行為は自粛してくれ、と」
「分かっておる。……ふうむ」
アイシャが考え込んだところで、別の大臣が案を出した。
「調べましたところ、彼らの製品はスパス系に比べ、非常に安価なものでした。と言って、質が劣るわけでもなく」
「それとこの件が、何の関係があるのじゃ?」
「上質の原料を安価で仕入れられるルートを持っている、と言うことです。
さらにこれを調べましたところ、どうやら3、4年前、南海東~中央地域を征服し終えた後に軍を撤退させ、廃棄した拠点を買い付け、そこに残っていた原料・資源を使っているようです」
「ほう。……そう言えば綿花やら香辛料やら出る島を潰して、基地にしておったのう。
旦那様から『今さらこんなところを抑えても、軍事予算の無駄遣いだ。基地は捨てておけ』と命じられ、権利を手放しておったが……、ふむ」
アイシャはこの情報を受け、手を打ち出した。
「ならばその島々を潰すか奪うかしてしまえば、奴らは身動きできなくなる、か。
そのシルムを騙る奴か、シルム本人かは分からぬが、とにかくいずれ、妾やスパスに楯突く存在になるのは目に見えておる。早々に、その芽を摘まねばな」
一方、フォコはアミルとランニャを連れ、南海北東地域の島、ダマスク島を訪れていた。
「ここって確か、ロックス鉱業が買った島だったよな。何でも、キルク島の権利でロックス氏が揉めて、こっちに移ったとか聞いたけど」
「らしいですね。ここにも鉄を初めとする重金属の鉱山があるらしいですし、ゴールドマン商会と手を切っても、十分利益が出とるみたいです」
「ゴールドマン商会って言ったらホコウ、お前の実家だったよな」
「と言うても、今は無関係ですけどな。
まあ、聞いたところによれば、エンターゲート氏が商会を乗っ取った後、レヴィア女王と結婚してくらいから、ロックス氏との関係が悪化しとったらしいですわ。
知っての通り、レヴィア女王は南海各地で侵略を繰り返しとりましたし、ロックス氏はそれに反発し続けとりましたけど、その相手と契約元が結託したら、ロックス氏がレヴィア王国に従わさせられるのんは目に見えてますし、事実、そう言う動きもあったそうです。
そんなことになったら、今まで散々守ってきた資源や利益を、最も渡したくない相手に取られることになる。
それを回避しようと、ロックス氏はゴールドマン商会との契約を解消。それまで得た利益を元に、自分で軍隊を組織して、このダマスク島に本拠地を移した、っちゅうことらしいですわ」
「軍隊、ねぇ」
確かにダマスク島には、それらしい設備や人間が、あちこちに並んでいる。この島に入るのさえ、散々打診と交渉を重ねたほどである。
「しかし、敵はレヴィア軍なんだろ? あいつらの攻撃に耐えられるとは……」
「木造の船とか、漆喰の壁とかやったら耐えられへんでしょうけども、ここの砦は岩の中、鉱山ですからね。いくらなんでも、島ひとつ跡形もなく消せるほどの威力は無い、っちゅうことでしょうね」
「ま、そりゃそうか。そんなもんがあったら、とっくに世界征服してらぁ」
兵士に先導される形で、フォコたちは物々しく防御を固められた屋敷に通された。
「息が詰まりそうだよ」
小声でそうつぶやくランニャに、フォコも小声で返す。
「ごめんけど、我慢してや」
「分かってる、分かってる」
応接間に通された三人の前に、すぐに壮年の兎獣人がやってきた。
「お待たせいたしました。私がロックス鉱業の主、ファン・ロックスで……」
と、お辞儀をしかけたファンが、フォコに目を留めた。
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