「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・再築記 5
フォコの話、152話目。
真の経営とは。
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5.
ファンは後ずさり、がばっと頭を下げた。
「ど、どうされました、ロックスさん? ぼっちゃんて、僕ですか?」
面食らうフォコに、ファンは泣きそうな顔でまくしたてる。
「ゴールドマンのぼっちゃんでしょう? 見覚えがあります! 覚えていらっしゃいませんか!?」
「へ? え?」
「ほら、10年ほど前! 私、カレイドマインのお屋敷にお邪魔したことが!」
「10年前? ……あっ?」
フォコの脳裏に、ふっと記憶がよみがえる。
「……耳を触らしてもろた、ロックスさん?」
「ええ、ええ! その通りでございます! ……ああ、まさか生きていらっしゃったとは!」
ファンは感極まったらしく、フォコの手を握って泣き出した。
「ご両親が亡くなられ、どこかへと連れ去られたと聞いていましたが、まさか今、こうしてお目にかかれるとは!
おお……! 何と言う奇跡だ!」
予想外の状況に、フォコは出鼻をくじかれてしまい、しどろもどろになる。
「えっと、あのー、まあ、……びっくりです、ですけども、ロックスさん」
「はい、なんでしょう?」
「とりあえず、その、お話の方、させていただきたいんですけれども」
その話を終え、フォコは改めて、ファンに自分の遍歴を語った。
「やはり、エンターゲート氏がご両親を……」
「ええ。そして今、奴は世界全域に、その根を拡げています」
「南海事情が一変したのも、その一端なのですな。我々の方もそのために、難儀しているのが現状です。先程の申し出が無ければ、我々は早晩立ち枯れることになっていたでしょう。
……本当にぼっちゃんは、ご立派に成長なされた。ご両親もさぞや、喜んでいらっしゃることでしょう」
「はは、ぼっちゃんは勘弁してください。今の僕は、ただの三流金貸しですよ」
フォコたちの話を横で聞いていたランニャが、そこで口をはさむ。
「金貸しとしちゃ、確かに三流だよね。自分の儲け、まーったく考えてないもんな」
「あははは……」
「ですが、商人としては超一流ですよ。あなたに比べれば、エンターゲートなど二流もいいところだ。
彼は結局、自分の利益のみを追求する金の亡者だが、あなたは違う。あなたは皆の利益を第一に考える、真に世界を豊かにしてくれる商人です」
「なんぼなんでもほめすぎですて、もう」
顔を真っ赤にして照れるフォコに、ファンは真面目な顔でたたみかけた。
「いやいや、そんなことは無い。
事実、あなたは困窮していたシルムさんご夫妻とその仲間を救い、北方においても悲劇を防ぎ、そして今、我々の商会を助け、さらには南海の安定と平和のために動いてくれている。
ニコルぼっちゃん。これまで私は、数多くの商人を見てきましたが、その中であなたは、最高、最良の、高潔で凄腕の商人だ」
「……はは」
散々にほめちぎられ、フォコは困った顔をするしかなかった。
一方、その頃。
「ふーん……?」
央中、クラフトランドに戻り、ギルド経営に復帰していたルピアが、レヴィア王国が使っている兵器についての調査報告を、弟のポーロから受け取った。
「ボッラ島、ねぇ」
ボッラ島と言うのは、央中東部沖、央中湾岸の外れにある、全長4キロ弱の島である。
「確か火山島だったよな、そこ」
「ああ。最近になってまた噴火しそうだから、中央政府が売値を下げたんだが……」
「それをゴールドマン商会が買った、と。
その島から出るのって言ったら、硫黄くらいだったよな。良質のが出るってのは聞いたことがあるが、それでも噴火寸前の島を買うなんて、どう言うつもりだ?
産出するモノに対して、リスクが高すぎる。元が取れるとは到底思えないが……」
「意図までは分からない。ただ、この件が進む直前から、イーストフィールドに建てられてた『秘密工場』がフル稼働し始めたらしい」
「『秘密工場』……、南海へ送ってるって言う、謎の兵器を作ってるところか。
関連付けて考えれば、硫黄を大量に手に入れて、その工場で加工してるってことになるな」
「ああ。……後、これに並行して、食品業界筋から、これまた妙な報告がある」
「何だよ、みょんなことばっかり」
「肉の保存、塩漬けに使われている硝石の相場が、2倍以上に値上がりしたそうだ。ボッラ島の購入と、ほぼ同時期に」
「……関係があるのか?」
「重ねて言うが、分からん。ただ、硝石を大量に買い付けたのはやはり……」
「ゴールドマン商会、と」
ルピアはそれを聞いて、デスクから立ち上がる。
「うちにもストックはあったな、その2つ。試しに混ぜてみよう」
「ああ」
2時間後、クラフトランドで小火騒ぎが起きた。
火元はネール職人組合の工房であり、その際、ルピア・ポーロ姉弟が軽い火傷を負ったと言う。
その後数日、クラフトランドでは「ネール姉弟が経営難を苦に心中を図ったのでは」などと言うデマが流れたが、当の本人たちはなぜか上機嫌だったと言う。
フォコの経営戦略と、ルピアの発見。
両者の努力と調査によってこの二つが実った時点から、南海の情勢は大きく動き出すことになる。
火紅狐・再築記 終
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真の経営とは。
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ファンは後ずさり、がばっと頭を下げた。
「ど、どうされました、ロックスさん? ぼっちゃんて、僕ですか?」
面食らうフォコに、ファンは泣きそうな顔でまくしたてる。
「ゴールドマンのぼっちゃんでしょう? 見覚えがあります! 覚えていらっしゃいませんか!?」
「へ? え?」
「ほら、10年ほど前! 私、カレイドマインのお屋敷にお邪魔したことが!」
「10年前? ……あっ?」
フォコの脳裏に、ふっと記憶がよみがえる。
「……耳を触らしてもろた、ロックスさん?」
「ええ、ええ! その通りでございます! ……ああ、まさか生きていらっしゃったとは!」
ファンは感極まったらしく、フォコの手を握って泣き出した。
「ご両親が亡くなられ、どこかへと連れ去られたと聞いていましたが、まさか今、こうしてお目にかかれるとは!
おお……! 何と言う奇跡だ!」
予想外の状況に、フォコは出鼻をくじかれてしまい、しどろもどろになる。
「えっと、あのー、まあ、……びっくりです、ですけども、ロックスさん」
「はい、なんでしょう?」
「とりあえず、その、お話の方、させていただきたいんですけれども」
その話を終え、フォコは改めて、ファンに自分の遍歴を語った。
「やはり、エンターゲート氏がご両親を……」
「ええ。そして今、奴は世界全域に、その根を拡げています」
「南海事情が一変したのも、その一端なのですな。我々の方もそのために、難儀しているのが現状です。先程の申し出が無ければ、我々は早晩立ち枯れることになっていたでしょう。
……本当にぼっちゃんは、ご立派に成長なされた。ご両親もさぞや、喜んでいらっしゃることでしょう」
「はは、ぼっちゃんは勘弁してください。今の僕は、ただの三流金貸しですよ」
フォコたちの話を横で聞いていたランニャが、そこで口をはさむ。
「金貸しとしちゃ、確かに三流だよね。自分の儲け、まーったく考えてないもんな」
「あははは……」
「ですが、商人としては超一流ですよ。あなたに比べれば、エンターゲートなど二流もいいところだ。
彼は結局、自分の利益のみを追求する金の亡者だが、あなたは違う。あなたは皆の利益を第一に考える、真に世界を豊かにしてくれる商人です」
「なんぼなんでもほめすぎですて、もう」
顔を真っ赤にして照れるフォコに、ファンは真面目な顔でたたみかけた。
「いやいや、そんなことは無い。
事実、あなたは困窮していたシルムさんご夫妻とその仲間を救い、北方においても悲劇を防ぎ、そして今、我々の商会を助け、さらには南海の安定と平和のために動いてくれている。
ニコルぼっちゃん。これまで私は、数多くの商人を見てきましたが、その中であなたは、最高、最良の、高潔で凄腕の商人だ」
「……はは」
散々にほめちぎられ、フォコは困った顔をするしかなかった。
一方、その頃。
「ふーん……?」
央中、クラフトランドに戻り、ギルド経営に復帰していたルピアが、レヴィア王国が使っている兵器についての調査報告を、弟のポーロから受け取った。
「ボッラ島、ねぇ」
ボッラ島と言うのは、央中東部沖、央中湾岸の外れにある、全長4キロ弱の島である。
「確か火山島だったよな、そこ」
「ああ。最近になってまた噴火しそうだから、中央政府が売値を下げたんだが……」
「それをゴールドマン商会が買った、と。
その島から出るのって言ったら、硫黄くらいだったよな。良質のが出るってのは聞いたことがあるが、それでも噴火寸前の島を買うなんて、どう言うつもりだ?
産出するモノに対して、リスクが高すぎる。元が取れるとは到底思えないが……」
「意図までは分からない。ただ、この件が進む直前から、イーストフィールドに建てられてた『秘密工場』がフル稼働し始めたらしい」
「『秘密工場』……、南海へ送ってるって言う、謎の兵器を作ってるところか。
関連付けて考えれば、硫黄を大量に手に入れて、その工場で加工してるってことになるな」
「ああ。……後、これに並行して、食品業界筋から、これまた妙な報告がある」
「何だよ、みょんなことばっかり」
「肉の保存、塩漬けに使われている硝石の相場が、2倍以上に値上がりしたそうだ。ボッラ島の購入と、ほぼ同時期に」
「……関係があるのか?」
「重ねて言うが、分からん。ただ、硝石を大量に買い付けたのはやはり……」
「ゴールドマン商会、と」
ルピアはそれを聞いて、デスクから立ち上がる。
「うちにもストックはあったな、その2つ。試しに混ぜてみよう」
「ああ」
2時間後、クラフトランドで小火騒ぎが起きた。
火元はネール職人組合の工房であり、その際、ルピア・ポーロ姉弟が軽い火傷を負ったと言う。
その後数日、クラフトランドでは「ネール姉弟が経営難を苦に心中を図ったのでは」などと言うデマが流れたが、当の本人たちはなぜか上機嫌だったと言う。
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