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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・炸略記 5

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    フォコの話、157話目。
    カトン島再襲撃。

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    5.
     一方でまた、レヴィア王国も行動を始めていた。
    「またこの島に来るとは……?」
    「どうして今さら、この島を制圧するんです?」
    「陛下に廃棄するよう命じられてから、もう3年も経過しているのに……?」
     アイシャの指示により、レヴィア軍はかつて自分たちが制圧した島へと舞い戻らされていた。
     前述の通り、これはロクシルム商業連合の生命線である、非常に安価な資源・原料の供給源を断つための軍事行動である。
     しかし、現場の兵士たちにはそれが伝えられていないために、誰もが困惑した表情を浮かべている。
    「とにかく、これもまた、女王陛下のご命令だ。従わないわけには行かない」
    「分かりました……」
     いまいち士気の上がらない兵士たちを見かね、指揮官はこう言葉を投げかける。
    「何の意図があるにせよ、この任務は非常に楽な方だ。かつて我々が支配していた島を、もう一度支配するだけなのだからな。
     それに今度は、抵抗する者も、あの『砂嵐』も居はしない。その一事を考えるだけでも、これは簡単すぎる任務だ」
    「確かに……」
    「まあ、軍事予算を使ったバカンスみたいなもんさ。気楽に行こう」
     指揮官のその言葉に、兵士たちの緊張が緩む。
    「なるほど、バカンスか……」
    「そりゃいいな」
     兵士たちの間に、のんきな空気が流れだした。
     そうこうしている間に、船は目的地、カトン島が見える程度まで進んでいた。
    「お、見えてきた見えてきた」
    「へー、本当に綿花、復活したんだな」
    「そう言えばあれ、また刈り取るんでしょうかね?」
     兵士たちは緊張感の欠片もない会話をだらだらと続けながら、島の様子を伺おうと単眼鏡を取り出した。

    「……ん?」
     真っ白な綿花畑の前、海岸線に、ぽつぽつと黒い影が見える。
    「あれは……?」
    「ロクシルム、とか言う奴らか?」
    「おいおい、まさか迎え撃つつもりじゃないだろうな? 俺たちに敵わないって、まだ分かんねーかなぁ……」
     兵士たちは薄ら笑いを浮かべつつ、岸辺に立つ影を眺めた。
    「……なんだ?」
     ボン、と何かが勢い良く弾けたような音が、その岸辺から響いてくる。
    「何だ、今の音? まるで……」
     飛んできた音が気になり、兵士全員が顔を見合わせた。

     次の瞬間――船が大きく揺れる。
    「ぎゃ……っ!?」「げぼ……」
     大量の木屑と共に、兵士たちがなぎ倒される。
    「……えっ」「……まさか?」
     この光景を、兵士たちは知っていた。だが、今この時まで、その身に刻まされたことは無い。
    「……!?」
     いつの間にか、船の甲板には大きな穴が空いていた。
    「……そんな、バカな」



    「思い出すなぁ、ホコウ。まさかまた、こうしてここで戦うなんて思わなかったぜ」
    「僕もです。……いや、ここを買った時に、予想はしてましたけどね」
     カトン島の海岸に立っていたフォコとアミルは、ずらりと並べられた大砲の後ろに立ちながら、ファンの私設軍へ命令する。
    「次、準備してください!」
    「了解しました!」
     兵士たちは大砲に火薬を詰め、立て続けに砲撃を重ねていく。
    「……流石に船1隻に、8門は構え過ぎだったかなぁ」
    「いや、いい牽制になりますよ。もう火薬や大砲はあいつらの専売やないんやと、これで思い知ることになるでしょう」
     3順ほど砲撃を行ったところで、敵船が向きを変え始めた。
    「横向かせて、砲撃し返してくるつもりやな……! でも、させたらへんぞ!」
     フォコは魔杖を構え、大規模な水の魔術を唱える。
    「大雨降らしたる……、『スコール』!」
     次の瞬間、快晴だった空に、モクモクと黒い雨雲が沸き立つ。
    「敵を知れば、……や。もうその兵器の弱点、バレとるわ!」
     やがて雨雲から大量の雨が流れ出し、敵船を覆った。

     突然の雨に、レヴィア兵たちは呆然としている。
    「あ、雨だと……!?」
    「さっきまであんなに晴れてたのに!?」
    「や、やばい! 火薬が!」
     兵士たちは慌てて火薬の入った樽をしまおうとしたが、もう遅い。
    「……くそっ、水浸しだ!」
    「畜生、これじゃ使えないぞ!」
    「うわ……! また砲撃してきたぁ……っ!」
    「汚ねえ、汚ねえぞ……! 何でお前らだけ使えるんだよぉぉー……ッ!」
     船の周りだけを覆う集中豪雨の中、レヴィア軍は成す術もなく砲撃を受け続けた。



    「報告します! 再占領に向かわせた船16隻、……すべて全滅、撃沈されました!」
    「……なんじゃと!?」
     真っ青な顔で敗北を伝えた伝令に対し、アイシャは久々に、臣下の前で大声を上げた。
    「何かの間違いではないのか?」
    「いいえ、敗走し戻ってきた兵士たちから、同様の報告が次々に寄せられております!」
    「我々の軍はもはや最強となったはず! どこに敗れ去る理由があると言うのじゃ……!?」



     この日から、レヴィア王国の絶対的地位は崩れ去った。
     各地でのレヴィア軍敗北のうわさはすぐに、南海中に広まった。そして、撃退したのがロクシルム商業連合である、と言ううわさも。
     フォコの狙い通り、南海の人々はこの痛快な話に歓喜し、ロクシルムに対し絶大な信頼を寄せるようになった。
     そしてここからが南海戦争――ひいては、後に「黒白戦争」と呼ばれる大戦時代の、幕開けとなった。

    火紅狐・炸略記 終
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