黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・連衡記 2

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    フォコの話、159話目。
    たそがれた王家。

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    2.
     ベール王国とレヴィア王国の戦争が起こったのは、305年のことである。
     その2年前、セヤフ海戦において、海賊に扮したレヴィア軍を破って勝利を収めたベール王国もまた、大国の驕りがあった。
     その驕りと、彼らをはるかにしのぐレヴィア軍の装備とが、305年の決定的敗北を生んだ。たった2ヶ月の戦争で、ベール王国は自国の領土、ベール島東側の制海権と領土半分を失い、島の西側へと敗走することとなった。
     ベール宮殿も追われた王族たちは現在西側の街、トリペに館を構え、そこに蟄居(ちっきょ)していた。



    「君が、シルム代表か。うわさには聞いているよ」
     フォコたちを出迎えたのは、クリオの友人だったセノク卿である。
     彼の姿を見て、フォコたちは5年前の戦争が、いかに一方的だったかを感じさせられた。
    「はは……、この義耳が気になるかね? それとも眼帯かな」
    「あ、……すみません」
    「いや、いや。そう気にしないでいい。終わった話だからな。
     それよりも、何故今になって私を訪ねて来たのか、聞かせてもらえないか?」
    「あ、はい。実はですね」
     フォコはセノクに、ロクシルムとベール王国とで連携を取り、南海全域でスパス産業・レヴィア王国と対抗する構想を伝えた。
    「なるほど……。話はよく分かった。
     だが、残念ながら協力はできないな」
    「何故です?」
     セノクは先端の千切れた自分の尻尾を撫でながら、その論拠を語った。
    「君が思うほど、ベール王国の権力は残っていないからだ。
     5年前の戦争で敗北して以来、我々ベール王族の権威は失墜の一途をたどっている。まあ、当然と言えば当然。主な収入源が無い我々は、持っていた資産を食い潰すままの生活を送っているからな。
     軍の規模も、全盛期の3分の1になっている。到底、対抗できる力は無い」
    「では出資しましょう。何としてでも、僕たちはあなた方の協力を得なければ行けませんから」
    「君も分からん奴だな。出資したところで、我々に付いてくる人民など……」「います」
     セノクの弁を遮り、フォコは反論する。
    「あなたが思っている以上に、南海の皆がベール王国にかけている期待は大きい。ここで立ち上がればきっと、いや、間違いなく賛同する人間は大勢現れます。
     それに今、人々はヒーローを求めています。レヴィア王国に支配されたこの南海を救ってくれる人物を、人々は求めています」
    「それに、我々がなる必要はない。君たちがなれば……」
    「言葉を返します。あなたも、分かってない」
     一歩も引かないフォコに、セノクも段々と苛立ってきたらしい。残った左目で、ギロリとにらみつけてきた。
    「分かるさ。もう民は、我々に期待など寄せてはいない。
     昔は街を歩けば皆、ひれ伏したものだ。だが今はどうだ、目も向けようとしない。特に私など、目を引くような醜態だと言うのに」
    「そんなん、あなたたちが何もしてへんからですよ。何かしら、威厳を示す行動を執っていれば、付いてくるはず……」「いい加減にしてくれないか」
     まくし立てようとしたフォコを先制し、セノクは立ち上がった。
    「私にはもう何かを成そうと言う気概は無い。今の私は敗残した将、牙を抜かれた獣だ。これ以上何かを唱えられても、私にはただの雑音だ。
     帰ってくれ。これ以上、話すことは何もない」
    「……分かりました」
     なびく気が微塵も無いと感じ、フォコは話を切り上げた。

     館を後にしつつ、アミルがぼそ、とこぼした。
    「ホコウ、彼の……、セノクさんの名誉のために言っておくけれど、彼は優れた将軍だったんだ。ベール王族のご意見番でもあった。だからこそ、おやっさんも……」「ええです、もう」
     フォコは悔しげに、こう吐き捨てた。
    「過去がなんですか!? 過去がすごかったから、今も優れていると? じゃあ今ここで縮こまっとる皆さんは、今も偉い人たちなんですな!?」
    「いや、それは、その……」
    「誰からも見向きもされてへん、最早ちょっとばかしの金とプライドしか持ってへん皆さんが、今も王族やと、そう言うんですな!?
     どこが!? どこが、王族やって!? あれのどこに、人を引き付けるものがあるっちゅうんや! ここにおるんは今を、自分たちのみじめさを直視でけへん軟弱者や!
     期待して損したわ! さっさと帰るッ!」
     フォコの剣幕に、付いてきた者たちは臆し、何も言えない。
    「ランニャちゃん……、あいつ、あんなに怖ええ奴だったのか?」
    「昔からさ。でもちょっと、度が過ぎるかも。よっぽどショックだったんだね」
    「ショック?」
    「フォコくんの考えだと、ここで王族を担ぎ上げて、さらに勢力を拡大するのが狙いだったんだろうけど、もうそれ、ダメになっちゃったわけだし。
     あーやって叫んでないと、多分めげそうなんだ……」「やかましわ、ランニャ!」
     あまりにも苛立っていたためか、フォコはつい怒鳴ってしまった。
    「……あ、いや、……その、ごめん、ランニャちゃん」
    「……うるっ」
     謝ったが既に遅く、ランニャはボタボタと涙を流し始めた。
    「いや、その、悪かった、ホンマ、……あの」
    「ひっ、ひどい、よ、フォコくん、……うえぇぇん」
     泣き出すランニャを、フォコとアミルは慌てて抱え、宿に連れて行った。
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