「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・連衡記 3
フォコの話、160話目。
次なる望み。
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3.
「ぐすっ、ぐすっ……」
宿に入ってから1時間余り経って、ようやくランニャは泣き止んでくれた。
「ホコウ、こればっかりは俺の方が先輩だから、言っとくけどさ。……泣かせちゃダメだ、女の子は」
「すんません……」
交渉に失敗したこともあり、三人の間に流れる空気は異様に重苦しい。
「……とにかく、軌道修正せなあきませんな。
僕たちはあくまでも商人、経済面で動く人間です。政治にも少なからず影響を及ぼす存在ではありますけども、あくまで地盤は経済活動です。僕らだけで、その地盤を維持しながら政治面にまで手を伸ばしたら、これはもう手に負えへんようになるのんは目に見えてます。
政治面を全面的に任せられる人材、組織が無ければ、僕たちの組織は無理がたたって、崩壊はしないまでも、弱体化は避けられへんでしょう。
そうならないためにも、……ベールさんとこ、訪ねたんですけどねぇ」
「あそこまで頑なに拒否されるとはなぁ」
「どうしようもありませんな。他、当たるしかありません」
と言って、他にレヴィア王国と張り合えるだけの歴史と威厳を持った国は無い。
「ここからさらに西の、ペルシャーナ王国は?」
「遠すぎますて。影響力もそんなにありませんし、行き来しづらい地域です。はっきり言って外様も外様、役に立ちません」
「じゃ、北西のモラット王国は?」
「まだ建国から40年ちょっと、レヴィア王国より歴史の短い新興国です。南海全域に渡るような統治能力は無いでしょう」
「逆に南のアリバラク王国とか」
「なお悪いですわ。『悪の巣窟』とか言われとるとこですで。金が無いから主立った行動してませんけども、手ぇ組んだらどんな無茶をするか、分かったもんやないです」
「……じゃあ俺が王様に」
「何言うてるんですか……。それこそレヴィア王国の踏襲ですて。『ならず者が何を勘違いしてるんだ』とか言われてけなされるのんがオチですわ」
「……だよな」
色々と検討するが、いい案は出て来ない。
「やっぱりベール王国が、地理的にも歴史的にも、丁度ええところなんですけどねぇ」
「もう一回、頼みに行くか?」
「そうですなぁ。今度はセノクさんやなくて、別の人に頼んでみましょか」
そうまとめ、立ち上がりかけたところで――。
「失礼、こちらにシルム代表はおられるか?」
部屋の扉がノックされ、若い男性の声がかけられた。
「シルムはこちらに居てはりますけど、どちらさん?」
フォコが扉越しにそう声を返すと、今度は別の声――こちらも若い、女性の声で応じてきた。
「その声……、屋敷で散々怒鳴っていた狐獣人、ですか?」
「ええ、そうですけども。……屋敷っちゅうことは、もしかしてベール王族の方?」
「ああ。……君は誰だ? 屋敷で話していたのも、シルム代表ではなく、君だったようだが」
声の主たちは扉越しに、フォコへ質問してくる。
「シルム代表の顧問、と思ってくれればええです。……と、先程はお屋敷で、えらい失礼しまして」
「いえ、……あなたの言うことも一理あります。確かに臆病者扱いされても、文句は言えないでしょう。不甲斐ない限りです」
「そこで……、もう一度、今度は私たちと話をしてくれないだろうか?」
フォコたちを訪ねてきたのは、20代半ばくらいの猫獣人の男性と、短耳の女性だった。
「申し遅れた。私はメフラード・キアン・ベール。現ベール王族の長、シャフル・キアン・ベールの息子の一人だ。隣は妹の、マフシード・キアン・ベール」
「それぞれ、メフル、マフスと愛称で呼ばれています。よろしければあなた方も、そうお呼びください」
「ども。ほな、僕のことはホコウと」
フォコが軽く会釈したところで、メフルは話を切り出した。
「君たちの話は、セノク叔父から聞いた。叔父は渋っていたが、我々は是非とも協力したい」
「そうですか。……失礼ですけどもな」
フォコは率直に、こう尋ねた。
「あなた方お二人がベール王族だと言う証拠は、お見せいただいでもよろしいでしょうか?」
「何?」
メフルは憮然とした顔になり、聞き返してくる。
「我々を疑うのか」
「ええ。何しろ、一族の渉外役になってはる『セノク叔父さん』が断ったっちゅうのに、何故甥、姪のあなた方がやって来たのか。それが気にかかりますし、我々も敵は多い。
窮したところに偽の助けを差し伸べて、後で一網打尽にされる、……なんてことも、されかねませんしな」
「……では、こちらで」
マフスが胸元から、紋章の付いたペンダントを出した。
「ベール王家であることを示す、黄金と緑玉髄で作られたペンダントです。……兄さんも、見せて」
「……分かった」
メフルも渋々、同様のペンダントを懐から出した。
「ふむ。……確かに、セノク卿も同じものを持ってはりましたな。ではとりあえず信じるとして」
「とりあえず、とは何だ!」
二度も疑われ、メフルは立ち上がってフォコを怒鳴りつけた。が、それでもフォコは疑いの姿勢を崩さない。
「金も玉髄も確かに貴重ですけども、お金とコネがあれば買えますしな。彫られとる紋章も、腕のいい職人を抱き込めばできる話ですし。
あくまでも『とりあえず』程度の証明にしかなりません」
「疑い深い奴め……!」
憤慨するメフルに対し、マフスは冷静に返した。
「では、どうすれば信じていただけますか?」
「そら、屋敷に案内してくれはりませんと、どうにもなりませんな。お屋敷の中に入れる権利を見せてもろたら、信じないわけには行きません」
「……では、そちらに場所を移して話をしましょう」
「お手数かけますな」
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次なる望み。
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「ぐすっ、ぐすっ……」
宿に入ってから1時間余り経って、ようやくランニャは泣き止んでくれた。
「ホコウ、こればっかりは俺の方が先輩だから、言っとくけどさ。……泣かせちゃダメだ、女の子は」
「すんません……」
交渉に失敗したこともあり、三人の間に流れる空気は異様に重苦しい。
「……とにかく、軌道修正せなあきませんな。
僕たちはあくまでも商人、経済面で動く人間です。政治にも少なからず影響を及ぼす存在ではありますけども、あくまで地盤は経済活動です。僕らだけで、その地盤を維持しながら政治面にまで手を伸ばしたら、これはもう手に負えへんようになるのんは目に見えてます。
政治面を全面的に任せられる人材、組織が無ければ、僕たちの組織は無理がたたって、崩壊はしないまでも、弱体化は避けられへんでしょう。
そうならないためにも、……ベールさんとこ、訪ねたんですけどねぇ」
「あそこまで頑なに拒否されるとはなぁ」
「どうしようもありませんな。他、当たるしかありません」
と言って、他にレヴィア王国と張り合えるだけの歴史と威厳を持った国は無い。
「ここからさらに西の、ペルシャーナ王国は?」
「遠すぎますて。影響力もそんなにありませんし、行き来しづらい地域です。はっきり言って外様も外様、役に立ちません」
「じゃ、北西のモラット王国は?」
「まだ建国から40年ちょっと、レヴィア王国より歴史の短い新興国です。南海全域に渡るような統治能力は無いでしょう」
「逆に南のアリバラク王国とか」
「なお悪いですわ。『悪の巣窟』とか言われとるとこですで。金が無いから主立った行動してませんけども、手ぇ組んだらどんな無茶をするか、分かったもんやないです」
「……じゃあ俺が王様に」
「何言うてるんですか……。それこそレヴィア王国の踏襲ですて。『ならず者が何を勘違いしてるんだ』とか言われてけなされるのんがオチですわ」
「……だよな」
色々と検討するが、いい案は出て来ない。
「やっぱりベール王国が、地理的にも歴史的にも、丁度ええところなんですけどねぇ」
「もう一回、頼みに行くか?」
「そうですなぁ。今度はセノクさんやなくて、別の人に頼んでみましょか」
そうまとめ、立ち上がりかけたところで――。
「失礼、こちらにシルム代表はおられるか?」
部屋の扉がノックされ、若い男性の声がかけられた。
「シルムはこちらに居てはりますけど、どちらさん?」
フォコが扉越しにそう声を返すと、今度は別の声――こちらも若い、女性の声で応じてきた。
「その声……、屋敷で散々怒鳴っていた狐獣人、ですか?」
「ええ、そうですけども。……屋敷っちゅうことは、もしかしてベール王族の方?」
「ああ。……君は誰だ? 屋敷で話していたのも、シルム代表ではなく、君だったようだが」
声の主たちは扉越しに、フォコへ質問してくる。
「シルム代表の顧問、と思ってくれればええです。……と、先程はお屋敷で、えらい失礼しまして」
「いえ、……あなたの言うことも一理あります。確かに臆病者扱いされても、文句は言えないでしょう。不甲斐ない限りです」
「そこで……、もう一度、今度は私たちと話をしてくれないだろうか?」
フォコたちを訪ねてきたのは、20代半ばくらいの猫獣人の男性と、短耳の女性だった。
「申し遅れた。私はメフラード・キアン・ベール。現ベール王族の長、シャフル・キアン・ベールの息子の一人だ。隣は妹の、マフシード・キアン・ベール」
「それぞれ、メフル、マフスと愛称で呼ばれています。よろしければあなた方も、そうお呼びください」
「ども。ほな、僕のことはホコウと」
フォコが軽く会釈したところで、メフルは話を切り出した。
「君たちの話は、セノク叔父から聞いた。叔父は渋っていたが、我々は是非とも協力したい」
「そうですか。……失礼ですけどもな」
フォコは率直に、こう尋ねた。
「あなた方お二人がベール王族だと言う証拠は、お見せいただいでもよろしいでしょうか?」
「何?」
メフルは憮然とした顔になり、聞き返してくる。
「我々を疑うのか」
「ええ。何しろ、一族の渉外役になってはる『セノク叔父さん』が断ったっちゅうのに、何故甥、姪のあなた方がやって来たのか。それが気にかかりますし、我々も敵は多い。
窮したところに偽の助けを差し伸べて、後で一網打尽にされる、……なんてことも、されかねませんしな」
「……では、こちらで」
マフスが胸元から、紋章の付いたペンダントを出した。
「ベール王家であることを示す、黄金と緑玉髄で作られたペンダントです。……兄さんも、見せて」
「……分かった」
メフルも渋々、同様のペンダントを懐から出した。
「ふむ。……確かに、セノク卿も同じものを持ってはりましたな。ではとりあえず信じるとして」
「とりあえず、とは何だ!」
二度も疑われ、メフルは立ち上がってフォコを怒鳴りつけた。が、それでもフォコは疑いの姿勢を崩さない。
「金も玉髄も確かに貴重ですけども、お金とコネがあれば買えますしな。彫られとる紋章も、腕のいい職人を抱き込めばできる話ですし。
あくまでも『とりあえず』程度の証明にしかなりません」
「疑い深い奴め……!」
憤慨するメフルに対し、マフスは冷静に返した。
「では、どうすれば信じていただけますか?」
「そら、屋敷に案内してくれはりませんと、どうにもなりませんな。お屋敷の中に入れる権利を見せてもろたら、信じないわけには行きません」
「……では、そちらに場所を移して話をしましょう」
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