「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・連衡記 5
フォコの話、162話目。
プリンシプル。
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5.
フォコは淡々と、自論を述べる。
「確かに殿下の仰る通り、南海を良くしよう、とは考えています。ですが、それは通過点に過ぎません。僕の目指すものは、もっと先にある。
僕はここに来る前、北方にいました。そこもここ同様、少数の人間が富む一方で、大勢の人間が貧窮にあえいでいました。それを見て、僕はとても嫌な気分になりました。何故、同じ人間でこんな差があるのか、と。
確かに人間の能力や運勢は千差万別ですし、最終的なゴール、一生に得られる幸せの差はあるでしょう。でも、だからと言って、幸せになる機会を一生得られない人間の、何と多いことか。いくらなんでも、自然にそこまでの差が出るとは、僕には思えません。
その、圧倒的な差が生じる原因は、持てる者――少数派の中でもさらに少数の、最も富と名声を得た者の強欲にあると、僕は考えています。富める者はさらに富を求め、もとより富のない人たちから、搾りに搾り取ろうとする。
自分たちが、自分たちだけが豊かに過ごそうと、他の大勢を虐げている。だからこそ、この差が、自然の成り行きでは生じえないこの差が生まれているのだと、僕はそう考えます。
僕はそんな風にありたくない。僕は、この世の皆が等しく、幸せになる機会、チャンスを享受できるような世界を作りたいんです。それが僕の望みであり、今やっていることは、そこへ到着するための通過点でしかありません。
僕の目標はもっと先、もっと高いところにあるんです」
「……」
フォコの言葉に、メフル兄妹は口を閉じ、押し黙る。
「……悪かった」
しばらくして、メフルがぼそ、とそうつぶやいた。
「私は……、なんて矮小なことを考えていたか。誰も彼も、欲望のまま生きていると、そう思っていた。
王族の私でさえ、機あらば再び大成しよう、もう一度華々しい暮らしに戻ろうと、己のちっぽけな欲に駆られていた。
だが君はどうだ……! 一商人、一平民と言うのに、その崇高な理念! 私は今、猛烈に自分を恥じている」
「いや、そんな……」
謙遜するフォコに対し、マフスも深々と頭を下げる。
「目の覚めた思いです。ホコウさん、あなたは紛れもなく、我々を正しく導いてくれる方です」
「ホコウ君。改めて、依頼しよう。我々に、力を貸してくれないだろうか?
我々は君の、その素晴らしい考えに、とても感動した。是非ともその考えを見習わせ、この南海において達成させてほしい」
「……勿論です。そのためなら、僕たちはどんな協力も厭いません」
フォコとメフル兄妹は、がっちりと握手を交わした。
ようやく本題に戻り、フォコたちは現状を検討し始めた。
「まず、現在最も懸念すべきは、ベール王家の弱体化ですな」
「ああ。叔父も嘆いていたが、今やベール王族への信用は地に墜ちている。その最たる理由は、本土決戦における敗走だ」
「南海最強と謳われたベール軍が、自分たちの本拠において大敗を喫したのですから、仕方のないことではありますが……」
落ち込むメフル兄妹に、フォコは明るく声をかける。
「それやったら、もっかい戦って勝てば、挽回できますな。そしてそれは同時に、我々の宣伝にもなります」
「宣伝? 商売のか?」
「ちゃいますて。この連合が、いかに強大で正義のために動いている組織であるか、と南海全域に広く報せることができる、っちゅうことです。
なんぼ大組織化したかて、我々にできることは限られます。神様や悪魔やないんですから、世界全体の意識、方向性を捻じ曲げることなんか、どんな力技を使たって、できるわけもない。
本当にこの世界を変えるのんは、この世界に住む一人一人です。皆が『いい暮らしをしたい』と考え、努力すれば――例えば、今まで一日1000、2000ガニー稼いでた人たちが努力し、1500、2500稼げるようになれば、1000人が住む島であれば、50万ガニーもの経済成長を遂げることになる。ここ、5万人余りが住むベール島が同じ努力を重ねれば、それは2500万になるでしょう。
僕たちが戦いに勝ち、皆が拠り所にできる正義、主張を堂々と示せば、皆はきっと動いてくれます。そうなれば、レヴィアとスパスが相手にするのんは、たかだか10万人規模の我々、ロクシルム―ベール連合やありません。
南海に住む100万、200万もの人間を相手にすることになるんです。そんな膨大な相手に、誰が勝てますか?」
「200万、……対、レヴィア王国の10万か。なるほど、そう考えれば、勝てる気もしないことはない。
だが、ホコウ君。君は大切なことを忘れている」
まだ渋い顔をするメフルに、フォコは軽く首をかしげた。
「何でしょう?」
「レヴィア軍は、圧倒的に強い。5年前まで最強だった我々ベール軍を、2ヶ月で攻め落とすほどの力を持っている。
そんな相手に、力も装備も持たぬ200万が敵うと思うか?」
「なるほど。……まあ、その問題があるからこそ、我々はあなた方に今、コンタクトを取ったんですけどもな」
「うん……?」
怪訝な顔を返したメフルに、フォコはニヤリと笑って見せた。
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フォコは淡々と、自論を述べる。
「確かに殿下の仰る通り、南海を良くしよう、とは考えています。ですが、それは通過点に過ぎません。僕の目指すものは、もっと先にある。
僕はここに来る前、北方にいました。そこもここ同様、少数の人間が富む一方で、大勢の人間が貧窮にあえいでいました。それを見て、僕はとても嫌な気分になりました。何故、同じ人間でこんな差があるのか、と。
確かに人間の能力や運勢は千差万別ですし、最終的なゴール、一生に得られる幸せの差はあるでしょう。でも、だからと言って、幸せになる機会を一生得られない人間の、何と多いことか。いくらなんでも、自然にそこまでの差が出るとは、僕には思えません。
その、圧倒的な差が生じる原因は、持てる者――少数派の中でもさらに少数の、最も富と名声を得た者の強欲にあると、僕は考えています。富める者はさらに富を求め、もとより富のない人たちから、搾りに搾り取ろうとする。
自分たちが、自分たちだけが豊かに過ごそうと、他の大勢を虐げている。だからこそ、この差が、自然の成り行きでは生じえないこの差が生まれているのだと、僕はそう考えます。
僕はそんな風にありたくない。僕は、この世の皆が等しく、幸せになる機会、チャンスを享受できるような世界を作りたいんです。それが僕の望みであり、今やっていることは、そこへ到着するための通過点でしかありません。
僕の目標はもっと先、もっと高いところにあるんです」
「……」
フォコの言葉に、メフル兄妹は口を閉じ、押し黙る。
「……悪かった」
しばらくして、メフルがぼそ、とそうつぶやいた。
「私は……、なんて矮小なことを考えていたか。誰も彼も、欲望のまま生きていると、そう思っていた。
王族の私でさえ、機あらば再び大成しよう、もう一度華々しい暮らしに戻ろうと、己のちっぽけな欲に駆られていた。
だが君はどうだ……! 一商人、一平民と言うのに、その崇高な理念! 私は今、猛烈に自分を恥じている」
「いや、そんな……」
謙遜するフォコに対し、マフスも深々と頭を下げる。
「目の覚めた思いです。ホコウさん、あなたは紛れもなく、我々を正しく導いてくれる方です」
「ホコウ君。改めて、依頼しよう。我々に、力を貸してくれないだろうか?
我々は君の、その素晴らしい考えに、とても感動した。是非ともその考えを見習わせ、この南海において達成させてほしい」
「……勿論です。そのためなら、僕たちはどんな協力も厭いません」
フォコとメフル兄妹は、がっちりと握手を交わした。
ようやく本題に戻り、フォコたちは現状を検討し始めた。
「まず、現在最も懸念すべきは、ベール王家の弱体化ですな」
「ああ。叔父も嘆いていたが、今やベール王族への信用は地に墜ちている。その最たる理由は、本土決戦における敗走だ」
「南海最強と謳われたベール軍が、自分たちの本拠において大敗を喫したのですから、仕方のないことではありますが……」
落ち込むメフル兄妹に、フォコは明るく声をかける。
「それやったら、もっかい戦って勝てば、挽回できますな。そしてそれは同時に、我々の宣伝にもなります」
「宣伝? 商売のか?」
「ちゃいますて。この連合が、いかに強大で正義のために動いている組織であるか、と南海全域に広く報せることができる、っちゅうことです。
なんぼ大組織化したかて、我々にできることは限られます。神様や悪魔やないんですから、世界全体の意識、方向性を捻じ曲げることなんか、どんな力技を使たって、できるわけもない。
本当にこの世界を変えるのんは、この世界に住む一人一人です。皆が『いい暮らしをしたい』と考え、努力すれば――例えば、今まで一日1000、2000ガニー稼いでた人たちが努力し、1500、2500稼げるようになれば、1000人が住む島であれば、50万ガニーもの経済成長を遂げることになる。ここ、5万人余りが住むベール島が同じ努力を重ねれば、それは2500万になるでしょう。
僕たちが戦いに勝ち、皆が拠り所にできる正義、主張を堂々と示せば、皆はきっと動いてくれます。そうなれば、レヴィアとスパスが相手にするのんは、たかだか10万人規模の我々、ロクシルム―ベール連合やありません。
南海に住む100万、200万もの人間を相手にすることになるんです。そんな膨大な相手に、誰が勝てますか?」
「200万、……対、レヴィア王国の10万か。なるほど、そう考えれば、勝てる気もしないことはない。
だが、ホコウ君。君は大切なことを忘れている」
まだ渋い顔をするメフルに、フォコは軽く首をかしげた。
「何でしょう?」
「レヴィア軍は、圧倒的に強い。5年前まで最強だった我々ベール軍を、2ヶ月で攻め落とすほどの力を持っている。
そんな相手に、力も装備も持たぬ200万が敵うと思うか?」
「なるほど。……まあ、その問題があるからこそ、我々はあなた方に今、コンタクトを取ったんですけどもな」
「うん……?」
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