「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・連衡記 6
フォコの話、163話目。
戦争ヒーローショー。
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6.
2年前にベール島東側を占領したレヴィア軍は、そのままベール宮殿のある首都、ビブロンに居座っていた。
南海の方々で悪逆非道の限りを尽くした彼らは、この街においても乱暴に振る舞っていた。
「お願いです……! もう二度と近寄りませんから……!」
「どうか、どうかお慈悲を……!」
磔(はりつけ)にされ、泣き叫ぶ住民たちの前には、大砲が並んでいる。
それを背に、レヴィア軍の将校が居丈高に怒鳴る。
「いいか! こいつらは愚かにも、我々レヴィア軍の軍事物資を盗み出そうとした! その罪がどれだけ重いか、この目でよく確かめるがいい!」
「だから、そんなことしてません! たまたま袖が、木箱に引っかかっただけなんです……!」
弁解する民に目もくれず、将校は兵士たちに命じる。
「撃て!」
「はっ!」
兵士たちは砲台から伸びる導火線に、火を向けようとした。
ところが――。
「……ん?」
ぽつ、と将校の頬に、水滴が落ちる。
「雨、……か?」
見上げてみると、空にはどんよりと黒ずんだ雲が、一面に張り付いていた。
間もなく、ボタボタと雨が降り出し、導火線はびしょびしょに濡れてしまう。当然、大砲は使用不可能になる。
「……くそ。……ええい、大砲処刑は中止だ! 斬れ!」
「は、……ん?」
将校に応じ、兵士たちが曲刀を抜きかけたところで、遠巻きに見ていた民衆の中から、黒いローブを来た者たちがぱらぱらと現れる。
「なんだ、お前たちは……」
将校が尋ねかけたところで、黒いローブの一人が何かを投げつけた。
「……っ、な、にを?」
将校の膝が、がくりと抜ける。その胸には、ナイフが突き刺さっていた。
「……!?」
「き、貴様!?」
突然の襲撃に、兵士たちは慌てふためくが、それもあっと言う間に鎮圧されてしまった。
「誰……?」
「レヴィア軍が、手も足も出ないなんて……」
「……まさか?」
民衆がざわめき出したところで、ローブを着ていた者たちは一斉に、そのローブを脱ぎ捨てる。
そこに現れたのは、ベール王国の紋章を鎧や兜に彫り込んだ兵士たちの姿だった。
「たった今、我々ベール軍が首都、ビブロンを解放した!」
残ったレヴィア兵と民衆に向け、ベール兵は堂々と宣言した。
「な、何をバカな! ベール軍はとうの昔に殲滅……」
反論しかけた兵士を蹴り倒し、共に来ていたフォコも声を挙げる。
「ほら、見てみいやッ! こんなもんや、あの兵器が無かったらなぁ!」
フォコは倒れた兵士を――民衆に見せつけるように――踏みつけ、続いてこう叫んだ。
「みんな、見たか!? これがこいつらの正体や!
大砲なしにはろくな働きのでけへん、木偶の坊ッ! こんなひょろひょろの狐獣人に蹴倒される程度の雑魚やッ!」
「……っ」
フォコの言葉に、呆気にとられていた民衆が静まり返る。
「宣言した通りや、みんな! この街は、ベール軍が! ベール軍が、開放したんや!
もう今日から、この街で死ぬ奴はおらん! そう、平和や! もうなんも、おびえることなんかあらへんのや!」
「バカめ……!」
と、踏みつけていた兵士が、うめくように反論する。
「この街を解放したくらいで、いい気になるなよ……! まだバールも、ザハリも我々レヴィア軍が抑えて……」「バカはお前らや、アホがッ!」
フォコはまた、見せ付けるように兵士の頭を踏みつけた。
「今頃はもう、おんなじように攻め出しとるわ! このベール島は全部、今日、ベール王国が取り返したんや!」
「……バカな、そんなことができるはずが!?」
なおうめく兵士に、フォコはニヤリと悪辣な笑みを見せた。
「実際、お前は倒れとる。他の奴らも。それで説明、付けられると思わへんか?」
この「宣伝」は、驚くほどの効果を挙げた。
フォコの言う通り、この日、占領されていた各都市において、メフル・マフス兄妹が動かしたベール軍が現れ、同時にレヴィア軍の支配から解放したのだ。
そしてフォコと同様、メフル兄妹やアミルらロクシルム―ベール連合幹部も、敵兵を叩くさまを民衆に見せつけて、「レヴィア軍恐れるに足らず」と宣言した。
このパフォーマンス、扇動を目にし、民衆の意気・意欲はこれまでの圧政から解放された反動も相まって、かつてないほどに高揚した。
そしてその熱気は南海各地へ次々と伝播し――ベール島解放から2週間と経たないうちに、国家単位での協力者が、こぞってロクシルム―ベール連合へ駆け込んで来ることとなった。
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2年前にベール島東側を占領したレヴィア軍は、そのままベール宮殿のある首都、ビブロンに居座っていた。
南海の方々で悪逆非道の限りを尽くした彼らは、この街においても乱暴に振る舞っていた。
「お願いです……! もう二度と近寄りませんから……!」
「どうか、どうかお慈悲を……!」
磔(はりつけ)にされ、泣き叫ぶ住民たちの前には、大砲が並んでいる。
それを背に、レヴィア軍の将校が居丈高に怒鳴る。
「いいか! こいつらは愚かにも、我々レヴィア軍の軍事物資を盗み出そうとした! その罪がどれだけ重いか、この目でよく確かめるがいい!」
「だから、そんなことしてません! たまたま袖が、木箱に引っかかっただけなんです……!」
弁解する民に目もくれず、将校は兵士たちに命じる。
「撃て!」
「はっ!」
兵士たちは砲台から伸びる導火線に、火を向けようとした。
ところが――。
「……ん?」
ぽつ、と将校の頬に、水滴が落ちる。
「雨、……か?」
見上げてみると、空にはどんよりと黒ずんだ雲が、一面に張り付いていた。
間もなく、ボタボタと雨が降り出し、導火線はびしょびしょに濡れてしまう。当然、大砲は使用不可能になる。
「……くそ。……ええい、大砲処刑は中止だ! 斬れ!」
「は、……ん?」
将校に応じ、兵士たちが曲刀を抜きかけたところで、遠巻きに見ていた民衆の中から、黒いローブを来た者たちがぱらぱらと現れる。
「なんだ、お前たちは……」
将校が尋ねかけたところで、黒いローブの一人が何かを投げつけた。
「……っ、な、にを?」
将校の膝が、がくりと抜ける。その胸には、ナイフが突き刺さっていた。
「……!?」
「き、貴様!?」
突然の襲撃に、兵士たちは慌てふためくが、それもあっと言う間に鎮圧されてしまった。
「誰……?」
「レヴィア軍が、手も足も出ないなんて……」
「……まさか?」
民衆がざわめき出したところで、ローブを着ていた者たちは一斉に、そのローブを脱ぎ捨てる。
そこに現れたのは、ベール王国の紋章を鎧や兜に彫り込んだ兵士たちの姿だった。
「たった今、我々ベール軍が首都、ビブロンを解放した!」
残ったレヴィア兵と民衆に向け、ベール兵は堂々と宣言した。
「な、何をバカな! ベール軍はとうの昔に殲滅……」
反論しかけた兵士を蹴り倒し、共に来ていたフォコも声を挙げる。
「ほら、見てみいやッ! こんなもんや、あの兵器が無かったらなぁ!」
フォコは倒れた兵士を――民衆に見せつけるように――踏みつけ、続いてこう叫んだ。
「みんな、見たか!? これがこいつらの正体や!
大砲なしにはろくな働きのでけへん、木偶の坊ッ! こんなひょろひょろの狐獣人に蹴倒される程度の雑魚やッ!」
「……っ」
フォコの言葉に、呆気にとられていた民衆が静まり返る。
「宣言した通りや、みんな! この街は、ベール軍が! ベール軍が、開放したんや!
もう今日から、この街で死ぬ奴はおらん! そう、平和や! もうなんも、おびえることなんかあらへんのや!」
「バカめ……!」
と、踏みつけていた兵士が、うめくように反論する。
「この街を解放したくらいで、いい気になるなよ……! まだバールも、ザハリも我々レヴィア軍が抑えて……」「バカはお前らや、アホがッ!」
フォコはまた、見せ付けるように兵士の頭を踏みつけた。
「今頃はもう、おんなじように攻め出しとるわ! このベール島は全部、今日、ベール王国が取り返したんや!」
「……バカな、そんなことができるはずが!?」
なおうめく兵士に、フォコはニヤリと悪辣な笑みを見せた。
「実際、お前は倒れとる。他の奴らも。それで説明、付けられると思わへんか?」
この「宣伝」は、驚くほどの効果を挙げた。
フォコの言う通り、この日、占領されていた各都市において、メフル・マフス兄妹が動かしたベール軍が現れ、同時にレヴィア軍の支配から解放したのだ。
そしてフォコと同様、メフル兄妹やアミルらロクシルム―ベール連合幹部も、敵兵を叩くさまを民衆に見せつけて、「レヴィア軍恐れるに足らず」と宣言した。
このパフォーマンス、扇動を目にし、民衆の意気・意欲はこれまでの圧政から解放された反動も相まって、かつてないほどに高揚した。
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