「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第4部
火紅狐・連衡記 7
フォコの話、164話目。
両軍、ついに並ぶ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「まさか、これほどの効果を挙げるとは」
急激に支持・民意を得たメフル兄妹は、フォコの宣伝手腕にただただ驚くばかりだった。
「言うた通りでしたやろ? ベール軍は、かつては最強と謳われたところですし、それが今立ち上がったとなれば、それはもう期待しないわけがない。
そして当代最強のはずの、南海全域の嫌われ者であるレヴィア軍がボッコボコにされるさまを見れば、どれだけ痛快か。
やっぱり、あの形――『ワルモノを倒すヒーロー』を見せつけるのんが、一番みんなに分かりやすく、そして支持されやすいんですわ。」
「確かに、そうですね。子供でも分かるお話ですもの」
「しかし君、よくあれだけの雨を降らせられたものだ。魔術師としての腕も、相当だな」
「はは……、季節のおかげですわ。実は魔術も、季節の影響受けやすいもんで」
「ほう……」
と、季節の話題が出たところで、フォコの語調が落ちる。
「それがちょっと、困ったところでもあるんですけどな」
「と言うと?」
「折角連合の意欲が高まってるところなんですけども、この『雨を降らす術』が、これからの季節、冬季の差し掛かりから中頃までが、一番効果が出にくくなるんですわ」
「あら……、そうなのですか?」
困った顔を見せるメフル兄妹に対し、いつものようにフォコの隣に座っていたランニャが首をかしげる。
「それが何か、まずいの?」
「まずいだろうな」
と、フォコたちの代わりにアミルが応える。
「雨が無いと、大砲を濡らして使えなくするって策が取れないしな。敵の主力を封じる策が無いってのは、やっぱきついよ」
「その通りなんですわ。そら、僕たちも火薬や大砲はどんどん製造してますし、ダマスク島やらベール島やら、うちらの本拠や主要取引先へ送っとりますけども、使うとなるとこれはもう、ガッチガチの真っ向勝負になってしまいますからな」
「確かにレヴィア軍は憎むべき敵ではあるし、攻撃することになんら気負うことは無い。だがその手段を採れば、こちらにも並々ならぬ被害が出ることは確実だ。
民を率いる者として、そうした手を嬉々として使うわけには行かない」
「ええ。そしてその手段は、他ならぬレヴィア王国が執っとる策――大きな犠牲を出して、女王やその周辺だけ利益が入るっちゅう、最も採りたくない方法ですしな」
「敵方と同じことをして勝利しても、『ワルモノ』がレヴィアから、我々ベールにすり替わるだけですものね。
もっと犠牲を出さず、かつ、レヴィア王国にのみ打撃を与える策を考えねばなりませんね」
一方、レヴィア王国では、この事態を受け、緊急会議が開かれていた。
「問題は、雨か」
報告を受けたアイシャは、主力兵器である大砲を封じられたことに言及した。
「カトン島などの再襲撃に失敗した時も、雨で封じられたと言うておったし、この件に関しても、雨で使えなくなったと言うたな」
「はい。恐らくは、敵方に水の術を操る者がいるものと……」
「ふむ」
少し思案し、アイシャはこう尋ねてみた。
「その、水を操る術……、じゃが、自在に降らせることができるのか?」
「水と、土の術に関して言えることですが」
尋ねられた大臣の一人が、こう返す。
「どちらも、水、あるいは土。これが無ければ、術の発動は不可能です。
それに関して言えば、大量の雨を降らせることができたのは、これまでが夏季、雨の多い時期であったからと思われます。
しかし冬季に差し掛かる今後、同様の効果が上がるとは言い難いです」
「ほう。……では、彼奴らがこれまで我々の兵器を封じてきた策も、約半年は使えぬと言うことじゃな。
であれば話は早い。冬季に入るのを待って、そこから反撃に転ずれば良い。それだけの話じゃ」
「ええ。……しかし、不穏な情報も入っております」
「それは何ぞ?」
大臣は書類と女王とを交互に見ながら、フォコたちが火薬を大量に製造し、南海へ輸入している件を挙げた。
「我々が独占的に使用していた火薬および大砲を、相手も有しているのは明白。そして雨が使えない今後、使用してくる可能性は非常に高いと思われます」
「そうなれば、我々とベールたちとの全面戦争になるであろうな。……ふむ」
アイシャはふう、とため息をつき、こう述べて会議を締めくくった。
「どれほどの被害と出費がかさむか、考えたくも無いことじゃが、……やらねばならぬじゃろうな。
敵は我々を、妾を許そうとはせぬ。攻撃されることは必至じゃ。それをぼんやりと傍観しておっては、レヴィアに未来は無い。
全軍に伝えよ。これよりレヴィア王国は、総員、戦時態勢に入ると。敵たるロクシルム―ベールを完膚なきまでに叩きのめすことが、我々が今後も生き残り、繁栄し続ける唯一の道じゃ、とな」
こうして310年の暮れ、火薬の硝煙で真っ黒に海と空を染め上げる南海戦争が、本格的に始まった。
火紅狐・連衡記 終
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両軍、ついに並ぶ。
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「まさか、これほどの効果を挙げるとは」
急激に支持・民意を得たメフル兄妹は、フォコの宣伝手腕にただただ驚くばかりだった。
「言うた通りでしたやろ? ベール軍は、かつては最強と謳われたところですし、それが今立ち上がったとなれば、それはもう期待しないわけがない。
そして当代最強のはずの、南海全域の嫌われ者であるレヴィア軍がボッコボコにされるさまを見れば、どれだけ痛快か。
やっぱり、あの形――『ワルモノを倒すヒーロー』を見せつけるのんが、一番みんなに分かりやすく、そして支持されやすいんですわ。」
「確かに、そうですね。子供でも分かるお話ですもの」
「しかし君、よくあれだけの雨を降らせられたものだ。魔術師としての腕も、相当だな」
「はは……、季節のおかげですわ。実は魔術も、季節の影響受けやすいもんで」
「ほう……」
と、季節の話題が出たところで、フォコの語調が落ちる。
「それがちょっと、困ったところでもあるんですけどな」
「と言うと?」
「折角連合の意欲が高まってるところなんですけども、この『雨を降らす術』が、これからの季節、冬季の差し掛かりから中頃までが、一番効果が出にくくなるんですわ」
「あら……、そうなのですか?」
困った顔を見せるメフル兄妹に対し、いつものようにフォコの隣に座っていたランニャが首をかしげる。
「それが何か、まずいの?」
「まずいだろうな」
と、フォコたちの代わりにアミルが応える。
「雨が無いと、大砲を濡らして使えなくするって策が取れないしな。敵の主力を封じる策が無いってのは、やっぱきついよ」
「その通りなんですわ。そら、僕たちも火薬や大砲はどんどん製造してますし、ダマスク島やらベール島やら、うちらの本拠や主要取引先へ送っとりますけども、使うとなるとこれはもう、ガッチガチの真っ向勝負になってしまいますからな」
「確かにレヴィア軍は憎むべき敵ではあるし、攻撃することになんら気負うことは無い。だがその手段を採れば、こちらにも並々ならぬ被害が出ることは確実だ。
民を率いる者として、そうした手を嬉々として使うわけには行かない」
「ええ。そしてその手段は、他ならぬレヴィア王国が執っとる策――大きな犠牲を出して、女王やその周辺だけ利益が入るっちゅう、最も採りたくない方法ですしな」
「敵方と同じことをして勝利しても、『ワルモノ』がレヴィアから、我々ベールにすり替わるだけですものね。
もっと犠牲を出さず、かつ、レヴィア王国にのみ打撃を与える策を考えねばなりませんね」
一方、レヴィア王国では、この事態を受け、緊急会議が開かれていた。
「問題は、雨か」
報告を受けたアイシャは、主力兵器である大砲を封じられたことに言及した。
「カトン島などの再襲撃に失敗した時も、雨で封じられたと言うておったし、この件に関しても、雨で使えなくなったと言うたな」
「はい。恐らくは、敵方に水の術を操る者がいるものと……」
「ふむ」
少し思案し、アイシャはこう尋ねてみた。
「その、水を操る術……、じゃが、自在に降らせることができるのか?」
「水と、土の術に関して言えることですが」
尋ねられた大臣の一人が、こう返す。
「どちらも、水、あるいは土。これが無ければ、術の発動は不可能です。
それに関して言えば、大量の雨を降らせることができたのは、これまでが夏季、雨の多い時期であったからと思われます。
しかし冬季に差し掛かる今後、同様の効果が上がるとは言い難いです」
「ほう。……では、彼奴らがこれまで我々の兵器を封じてきた策も、約半年は使えぬと言うことじゃな。
であれば話は早い。冬季に入るのを待って、そこから反撃に転ずれば良い。それだけの話じゃ」
「ええ。……しかし、不穏な情報も入っております」
「それは何ぞ?」
大臣は書類と女王とを交互に見ながら、フォコたちが火薬を大量に製造し、南海へ輸入している件を挙げた。
「我々が独占的に使用していた火薬および大砲を、相手も有しているのは明白。そして雨が使えない今後、使用してくる可能性は非常に高いと思われます」
「そうなれば、我々とベールたちとの全面戦争になるであろうな。……ふむ」
アイシャはふう、とため息をつき、こう述べて会議を締めくくった。
「どれほどの被害と出費がかさむか、考えたくも無いことじゃが、……やらねばならぬじゃろうな。
敵は我々を、妾を許そうとはせぬ。攻撃されることは必至じゃ。それをぼんやりと傍観しておっては、レヴィアに未来は無い。
全軍に伝えよ。これよりレヴィア王国は、総員、戦時態勢に入ると。敵たるロクシルム―ベールを完膚なきまでに叩きのめすことが、我々が今後も生き残り、繁栄し続ける唯一の道じゃ、とな」
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