黄輪雑貨本店 新館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    琥珀暁・群獣伝 7

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第63話。
    バケモノ・スタンピード。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
    「……」
     エリザの目が、じいっとモールを見据えている。
     モールも視線を外さず、黙って眺める。が――内心では、かなりビクビクとしていた。
    (あー……、ついにハッキリ言っちゃったねぇ、この猛烈火の玉娘に。間違い無くコイツ、『ふざけんなアホボケカス』とか叫びながら、私に殴りかかってくるだろうね。
     さー来るぞ、今に来るぞー……)
     心の中で身構えつつ、エリザの反応を伺っていると――。
    「……分かった」
     凍りついたような真顔で一言、それだけ返して、エリザの方から顔を背けた。
    「えー……と」
     そんな反応は予想しておらず、モールは面食らう。
    「あ、あのさ? ホレ、あの、ほら、何かさ、言いたいコトあったら、あの、何でもいいからさ、ズバズバ言っちゃっていいから、……ね?」
    「……」
     あれこれとモールは声をかけたが、それ以上、エリザは何も言うことは無かった。

     その時だった。
    「……エリザ」
    「……」
     なお答えないエリザに、モールは真面目な声色でこう続けた。
    「マジな話だ。ヤバいのが来てるね。多分、私の後ろからだ」
    「……!」
     ようやくエリザが振り向き、そして息を呑む。
    「確認できたね?」
    「う、うん。デカいのんが、こっち見とる」
    「そうか」
     モールも振り返る。
     そして、まるで巨石のような体躯のバケモノが、静かに佇んでいるのを確認し、固唾を呑んだ。
    「……マジか。まるで、……獅子(ライオン)、……みたい、な、……ヤバすぎだろ」
    「らい……おん?」
     尋ねるエリザに、モールは振り向かず、首を横に振って答える。
    「めちゃヤバいバケモノだってコトだね。とにかく立て。そして構えるんだ」
     そう指示しつつ、モールも立ち上がって魔杖を構える。
     次の瞬間、「ライオン」も前傾姿勢を取り、攻撃する気配を見せた。
    「『ファイア……』」
     エリザが魔術を放とうとしたところで、モールは制そうとする。
    「バカ、まだ攻撃……」
     だが言いかけたところで、モールはぞくりと寒気を覚えた。
    「……ヤバいなんてもんじゃないね。
     絶対に、何が何でも、どうあってもって感じで――私らを殺すつもりで布陣を敷いてきてたか」
     辺りの木々がバリバリ、バキバキと音を立てて薙ぎ倒され、モールたちの周囲に、様々なバケモノが姿を現した。
     ぎゅ、とモールの袖をエリザが引く。
    「せ、先生……」
     エリザの声は震えている。
    「エリザ」
     モールは、彼女の手を優しく、しかし力強く握る。
    「私が今、君に言えるコトは、たった一つだ。
     ソレはダメだとか無理だとか、そんな後ろ向きの言葉なんかじゃない。
     頑張れだの何とかなるさだの、そんな向こう見ずの言葉なんかでもない。
     たった一つだ。たった一つ、私は君に、コレを言う。
     君ならできる。できないはずが無いね」
    「……」
     袖を引いたまま、エリザがぽつりと尋ねてくる。
    「でけると思とるん?」
    「『思う』じゃないね。『信じてる』んだ。
     君ならこんな大群の一つや二つ、返り討ちさ。チョイチョイってなもんで、ブチのめしてやれるね。
     そりゃあもう、一度この目で見たかってくらい、ハッキリと確信してるコトさね」
    「……分かった」
     エリザはモールから手を離し、呪文を唱え始めた。

     最初に飛び込んできたのは、角の生えた兎の群れ。
     それをエリザが、炎の壁で一掃する。
     続いて駆けてくる5頭の戦車馬を、モールが九条の光線で貫く。
     倒れた戦車馬を踏み越え、六つ目狼が突進してくる。
     その間にエリザが呼吸を整え、炎の槍で一頭、一頭を射抜いていく。
     倒れていく狼たちの隙間を縫うように、トカゲ鳥が怒涛のごとく押し寄せる。
     モールがふたたび光線を放ち、それらを撃ち落とす。
     何頭も、何十匹も、さらには百に及ぼうかと言う数のバケモノたちを――モールとエリザは、倒して、倒して、ひたすら倒し続けた。



     そして――疲労困憊の二人の前に、あの「ライオン」がにじり寄ってきた。
    「ホレ、エリザ、とうとう、最後の、大ボスだね」
     モールは息も絶え絶えながらも声をかけたが、エリザはゼェゼェと荒い息をするばかりで、答えない。
    「おいおい、へばったって、言うんじゃ、ないだろうね、エリザ?」
    「ハァ……へばる……に……ハァハァ……決まっとるやん……」
    「もっぺん気合を入れ直しな。コレが最後だからね」
     そう言いつつモールも深呼吸し、魔杖を構え直す。
    「二人で合わせるよ。でっかいアレをやるね」
    「ハァ……ハァ……うん」
     エリザが呪文を唱え始める。モールもそれに合わせ、詠唱する。
     じわじわと距離を詰めていた「ライオン」が、そこで駆け出し、一気に迫ってくる。
     そして累々と横たわるバケモノたちを、一足飛びに越えたところで――。
    「『エクスプロード』!」
     二人は同時に魔術を発動させ、「ライオン」を周囲の木々や他のバケモノごと、空高く吹き飛ばした。
    「……やった?」
    「やったに決まってるね。もし死んでなくとも、少なくとも私らから遠く離れた場所まで弾かれたはずさ。到底、今夜中に戻って来られやしないね」
    「……はぁ」
     途端、エリザが座り込む。
    「しんどぃ……」
    「同感。ま、私が寝ずの番しといてやるから、君は休んでな。
     こんだけ総掛かりで襲ってきたんだし、もう残党はいないと思うけども、万一ってコトもあるからね」
    「……ん」
     エリザはその場でごろんと横になり、そのまま寝息を立て始めた。

    琥珀暁・群獣伝 終

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 6

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第62話。
    告白の返事(モールの場合)。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     村に戻ってすぐ、モールはエリザと共にラボのところへ向かい、こう切り出した。
    「恐らくそう遠くないうち、さらに強いバケモノがやって来るだろう。一旦、ココを離れた方がいいね」
    「なにぃ?」
     モールの話に、ラボは顔をしかめる。
    「馬鹿言っちゃいかんぜ、モール。ここには鉱床や工房があるんだ。ここを離れたら、俺たちは生きてられん」
    「ココに留まりゃ、どっちみちバケモノに殺されるさ。ソレに鉱床がココにしかないってワケじゃないだろ?」
    「そりゃそうだが……」
     渋る様子を見せるラボの手を、エリザがぎゅっと握る。
    「アタシからもお願いします。死なんといてほしいもん」
    「……ん、ん、……そう言われちまっちゃなぁ」
     ラボはまだ苦い顔をしつつも、渋々と言った様子でうなずいた。
    「分かった。皆と相談して、移動するよ」
    「ホンマ?」
    「ホンマに、だ」
    「ウソやあらへんよな」
    「マジだよ、マジ」
     ラボに何度も念押しし、村を離れさせることを約束させた後、モールがこう切り出した。
    「君らが移動してる間に、私らもちょっと北へ行く」
    「北? こないだ言ってた、『山』の北側へか?」
    「そうだ。私だってバケモノを一掃したいって気持ちはあるし、こんな理不尽なお願いなんざ、金輪際したかないしね。
     だから北にいるって言う友達を連れて来る。私とエリザとソイツがいりゃ、どんなバケモノが出てこようが倒せないってはずは無いね。
     そんなワケでだ、ラボ。私らが戻ってくるまで、死ぬんじゃないよ」



     ラボの村を出たところで、モールが口を開く。
    「間違い無くラボたちは、ココを離れないね」
    「……は?」
     目を丸くするエリザに、モールはニヤっと笑って返す。
    「あの頑固者共が、余所者にやいのやいの言われてハイそうですかなんて、簡単にうなずいたりするもんかってね。むしろアイツらだけで話し合いして、じゃあ引っ越そうかって結論になっちゃう方がよほどまずいね」
    「え、ほな先生……」
    「そうさ、下手にあっちこっち移動されるより、ココにじっとしててもらった方がいい。その間に私たちは北へ行き、ゼロに助けを借りに行くんだ。
     と言っても時間がそうそうあるワケじゃないから、私らも全速力で山を越えなきゃならないけどね。
     ただしその前に、バケモノの注意をこの村から離しとかなきゃいけないけどね」
    「どないするん?」
    「一旦、森の方で待ち構える。そう遠くない内に、バケモノは村に近付いて来るはずだ。
     で、現れたら私らだけで攻撃する。決して村の連中にゃ接触させない。接触させたら、ターゲットは村の方に向いたまんまになるからね。
     確実に私らの方を狙うよう、バケモノ共を操作してやるんだ」
     それを聞いて、エリザは顔をこわばらせる。
    「アタシらを襲わせるっちゅうコト?」
    「まさか。襲われる前に逃げるね。ただし、引き付けながら逃げる」
    「この村から離すために、……っちゅうコトやな」
    「そーゆーコトさ」

     モールたちは森に潜み、バケモノの出現を待った。
    「山の方で色んなもん食べとったせいか、ココら辺でも食べられそーなもん、ピンと来るな」
    「鳳凰の無神経さと蛮勇に感謝だね。とは言え毒探知の術は忘れないようにね」
    「あいあい」
     二人で野草や木の実を取り、術で精製した水と共に、鍋に入れて煮込む。
    「料理の腕も上がったし、修行しとった間のコト全部、役に立っとるって気ぃするわ」
    「そりゃ何より」
     鍋を眺めたまま、エリザが尋ねてくる。
    「ほんで、先生。今、他に話しとかなアカン話題、ある?」
    「ん?」
    「無かったら、そろそろ返事聞かしてほしいんやけど」
    「……あー」
     鍋をかき混ぜつつ、モールも視線を合わせず答える。
    「まず、第一に。私と君は、師匠と弟子だ。そりゃ世の中にゃ、そーゆー関係であっても好きになっちゃって結婚するのもいくらかいるみたいだし、ソイツらを否定しようって気も無いね。
     第二に、人間にゃ好みのタイプってもんがある。絶世の美貌の持ち主であっても、ズバ抜けた能力や才能があっても、誰からも好かれるカリスマの持ち主であっても、『どーしたってソリが合わないなコイツ』ってのはいるもんさね。
     そして第三に、私自身の問題だ。私は色々と厄介事を抱えた身でね。伴侶を得て安穏と暮らそうって権利は、私にゃ未来永劫、与えられやしないのさ」
    「……だから?」
     はっきり言え、とばかりに、エリザはモールをにらむ。
     そしてモールも顔を挙げ、穏やかな口ぶりで答える。
    「私と君は、ずっと師匠と弟子だったし、コレからもずっと、そのままでいるつもりだ。
     君を私の奥さんにしようって気は、まったく無い」

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 5

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第61話。
    モールの検分。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     エリザを見送ってから若干の間を置いて、モールは村の外れにある森へと向かう。
    (さーて、我が不肖の弟子の腕前はどんなもんかね)
     モールは樹上に潜み、エリザと村人たちの様子を観察する。
    「俺たちが援護する!」
    「今のうちにやっちゃってくれ!」
     槍や斧を手にした村人たちが、エリザの周囲に固まって陣取り、バケモノと距離を取っている。
    「分かった!」
     陣の中心にいたエリザが魔杖を掲げ、呪文を唱え始める。
    (どうやら『エクスプロード』を使う気だね。
     普通に考えるなら、確かにいい選択だ。チマチマ小技をかましてどーにかなるような相手じゃ無さそうだし、そんなら自分が持てる最強の術で一気に焼き払っちゃった方が、結果的に早いだろう。
     だけど『免疫』の懸念がある。その最強の術をバケモノたちに克服されたら、次がまずいコトになる。ソレは即ち、エリザが勝てなくなってしまうってコトだ。そうなったら、私だって相当まずくなるね。
     しかしその『免疫』だけど、ソレが機能するには、攻撃を受けたバケモノが生き残るか、攻撃を受けたトコを別のバケモノが確認するコトの、いずれかが必須だ。
     そのどっちのケースにも対応するには……)
     モールが思案にくれている間に、エリザの準備が整ったらしい。
    「行くでぇ! 『エクスプロード』!」
     魔術が発動され、バケモノは呆気無く吹き飛ばされる。
    (ふむ……。こっちは問題なしか。一撃でやったっぽいし、コレなら生き残っちゃいないだろうね。
     となると、残る懸念は……)
     モールは周囲を見回し、他にバケモノがいないかを探る。
    (……ん、んん?)
     が、モールが想定していたような、別のバケモノが監視しているような様子は無い。それどころか、他にバケモノがいる気配も、どこにも感じられなかった。
    (ありゃ……? まさか、あの一体だけなのか? まさか、だろ?)
     木から降り、念入りに辺りを調べたが、やはりどこにもバケモノの存在は無い。
    (おっかしいねぇ……? じゃあまさか、私の仮説が誤りだったってコトか?
     いや、ソレじゃ強いバケモノが出てきた理由は? 事実、出現してるワケだしね。じゃあその出現条件が、私の思ってたモノとは違う、ってコトか。
     もっと詳しく調べてみなきゃね……)
     と、エリザたちがモールの存在に気付いたらしい。
    「あれ? 先生、おったん?」
     声をかけてきたエリザに、モールはひょい、と手を挙げて返す。
    「おう。この辺りを回ってきたけども、バケモノはいないっぽいね。もう危険は無さそうだね」
     モールの言葉に、村人たちは揃って安堵の表情を浮かべる。
    「ふう……、良かった」
    「いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ」
    「ま、こっちにゃエリちゃんがいるけどな」
    「わははは……」
     すっかり緊張が解け、和気藹々(あいあい)とし始めた彼らに、モールが声をかけた。
    「とりあえずさ、今夜はもう村に戻ろう。なんだかんだで私もエリザも、歩き通しでまともに休んでないもんでね」
    「お、そうだな」
     モールは村人たちと合流し、そのまま村へと戻った。



     翌日早朝、モールはまた一人で森を訪れていた。
    (一晩寝て、ようやく気付いた可能性だけども――やっつけられたバケモノが、その敗因を仲間に『送信』したってコトは、考えられないだろうか?
     あの異形のバケモノは、どう考えても自然進化の賜物じゃない。人工物であるコトは、疑いようが無いね。ソレなら、頭かどっかに通信装置めいたモノが組み込まれてて、ソレで敗因を送ったって可能性も、考えられなくはない)
     モールは昨夜、エリザが倒したバケモノの死体を見付け、検分を始めた。
    (つっても私ゃ、生物学の知識なんぞはからっきしだ。こんな残りカスをいくらいじくったトコで、何が分かるもんかってね。
     調べるのはコイツの体のコトじゃない。コイツの体から、『何が発せられてた』か? その痕跡だ)
     そう考えながら、モールは呪文を唱える。
    (魔術の中でも通信術は、色々と応用性が効く。声を送る、見たモノや映像を送る、位置情報を送る、……他にも色々、特定の情報を送るコトもできる。
     この呪文は一種の通信試験ツールだ。反応があったのなら、何かしらの情報を送ったコトは確実ってコトになる。もしも送ったモノがあるとしたなら……)
     いくつかの呪文を唱えたところで、モールは「それ」を検知した。
    (この反応……、やはり何かを送信したらしいね。となりゃ、私の予想は的中と考えていいだろう。
     つまり昨夜、エリザがブッ放した魔術も、残ってるバケモノ共に知られてるってコトになる。となれば一両日中にも、『免疫』を持ったバケモノが出現するだろう。
     コレはまずいかも知れないね――昨夜と同じようにエリザが出張ったら、確実にエリザは、殺される)

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 4

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第60話。
    山の向こうへ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     ラボは一瞬、家の中にチラ、と視線を向け、苦い顔のまま話し始めた。
    「今、中ではエリちゃんがバケモノ退治したるでーって息巻いてて、村の連中もそれを応援してる。正直、被害が大きくなり始めてる今、助けが来てくれたのには感謝してる。
     だがバケモノ共の襲撃は、いつまで続くか分からん。もしかしたらずっと続くかも知れん。その間ずっと、エリちゃんやアンタをここに縛り付けるってのは、どうもな……、って思ってな」
    「なるほどね。確かにソレは、私も懸念してた」
     うなずきつつ、モールはもう一つ椅子を作り、ラボの横に座る。
    「一番は、襲撃が短期間で終わり、私らが早々にお役御免になるコトだ。だけどもココ数年襲われっぱなしって聞いたし、都合よく襲撃が止んでくれるとは思えない。
     だから二番めとしては、君らが今後も余裕で撃退できるだけの力を付けるコトだと思うね」
     モールの言葉に、ラボは苦い顔をする。
    「それも現実的とは言えんだろう。
     今だって、俺たちは全力なんだからな。ソレで襲撃をギリギリ食い止めてるってのが現状だ。もう一段強いのが出たりなんかしたら、マジで対抗できなくなる」
    「ああ、分かってるね。とは言え――理想論だってのは百も承知だけども――ソレが最上の策だってコトは、間違い無いだろ?」
    「確かにな」
     うなずいたまま、顔を挙げないラボに、モールはこう続けた。
    「ともかく今度襲撃された時、私が状況を見定めようと思ってるね」
    「……って言うと?」
    「襲ってくるヤツらが、現状で最強に強いのか? ソレともまだ上のヤツが残ってるのか? ソコがハッキリしなきゃ、今後の対応もままならないからね。
     前者なら、そんなに話は難しく無いね。私らが気張って倒しゃ、ソレで近い内に終わりが来る。だが後者だったら、悪い可能性が色々と出て来るね」
    「例えば?」
     顔を挙げたラボに、モールは杖をくい、くいと上に上げながら説明する。
    「今より強いヤツが残ってる、……とすれば、ソイツを倒したら更に強いヤツが出て来るかも、って考えられるだろ」
    「なるほど」
    「更に言えば、もっともっと強いのがいるかも知れない。そう考えていくと、バケモノ全体の規模はかなり大きいかも知れない。
     となったら、私とエリザがいても対応しきれないって可能性が出て来るね」
    「むう……」
     一層表情を曇らせたラボに、モールは更にこう続けた。
    「だから後者である可能性が高そうだと判断した場合、私は応援を呼ぼうかと考えてるんだ」
    「応援だって?」
    「さっきもエリザがチラっと話してたけど、山の向こうにゃ別の平地があるんだ。聞くところによれば、ソコに私の親友がいる。ソイツに力を借りようと思ってるんだ」
    「へえ……」
     これを聞いて、ようやくラボの顔に、希望と安堵の色が浮かんだ。

     と――。
    「……!」
     ラボが狼耳をピク、と動かし、立ち上がろうとする。
    「うぐ、いてて、て……」
    「どうしたね?」
     モールが助けつつ、ラボを立たせる。
    「鐘だ! 鐘の音が……」
     言われてモールも、遠くでカンカンと、鐘が鳴っていることに気付く。
    「……襲撃かね?」
    「ああ、そうだ!」
     鐘の音を聞き付けたらしく、家の中からぞろぞろと、村人が現れる。
    「親分! 鐘が……」
    「ああ、北の方だ!」
    「俺たちが行きます! 親分はここにいて下さい!」
    「……分かった! 頼んだぞ!」
    「はいっ!」
     村人たちが武器を手に、バタバタと北へ向かって走り出す。
     と、その後ろを、エリザが魔杖を持って付いて行くのを見て、モールが声をかけた。
    「エリザ!」
     エリザは立ち止まり、苛立たしげにくるっと振り向く。
    「何やの!?」
    「私は周囲を見回る。他にいたらヤバいからね。だから君一人で、何とかしな」
    「え……」
     モールの言葉に、エリザは不安そうな表情を浮かべる。
    「『できない』って? 私ゃそうは思わないね」
     それを受けて、モールはニヤっと笑って返す。
    「君ならできる。できないはずが無いね」
    「……わ、かりました」
     エリザは深くうなずき、表情をキッとこわばらせた。
    「行ってきます!」
    「ああ、頑張りな」
     エリザはもう一度踵を返し、そのまま走り去った。

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 3

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第59話。
    襲撃の名残。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     ラボの村に到着するまでに、エリザたちは何度もバケモノに遭遇したが、その都度協力し合い、または競い合って、それらバケモノをすべて撃退した。
    「そうか……うん……そりゃあいい」
     二人の武勇伝を聞いたラボは、床に就いたまま、力無い笑みを浮かべた。
     その体はあちこちに傷が付き、さらには右脚の膝から下が断たれている。シーツは半ば赤く染まっており、覆い隠された部分にもひどい怪我が残っていることを、雄弁に語っていた。
    「ラボさん……」
     この悲惨な姿を目にし、エリザは涙ぐんでいた。
     その顔を見たラボが、もう一度笑う。
    「ああ、いや、エリちゃん、……はは、何てこと無いさ、こんなもん。杖があれば歩くのに不自由しないし」
    「そんなん言うたかて……」
    「大丈夫だって、エリちゃん。他のケガだって何日か寝てりゃ、そのうち治っちまうさ。
     だからさ、……ああ、えーと、そうだ。ともかく二人とも、今日はウチで休んで行きな。山に登った話、詳しく聞かせてくれよ。どんなトコだったのか、俺もみんなも知りたがってるんだから、な」
     話題を変え、明るく振る舞うラボに、エリザはそれ以上何も言えず、こくんとうなずくことしかできなかった。

     とは言え、ラボを始めとする村の皆が「壁の山」について少なからず興味を抱いていたのは確かだったらしく、夕食時には、動ける村人のほとんどがラボの家に集まり、エリザたちの話に聞き入っていた。
    「……ちゅうワケで、ずーっと修行ばっかりしとったんよ」
     モールから遺跡と鳳凰についての話をしないよう、事前に釘を刺されていたため、それに関係する部分を省いての話ではあったが、それでも連日の襲撃で心身共に疲弊しきっていた村人たちには相当に不可思議で、心躍る話だったらしい。
    「ってことはエリちゃん、かなり強くなったのか?」
    「うん、すっごい術も色々使えるようになったで」
    「いいねぇ。今度バケモノが来たら、追い返すのに協力してくれよ」
    「ええで。ソレどころかな、仕留めたるで」
    「はっは、そりゃ楽しみだ」
     エリザを中心として、村人たちの輪ができてきたところで、モールはその輪から離れ、家の外に出た。
    (やーれやれ、あのアホ弟子め。調子乗ってんじゃないっつの。君が考え無しに高威力の魔術ブッ放して、もしソレへの『免疫』がバケモノ共にできたらどうすんだってね。
     そう、私が考えなきゃいけないのはソコだね。このまんま、襲ってくるバケモノを手当たり次第に叩きのめしてりゃ、襲撃は止まるのか? ソレとも私らの戦いぶりに対応して、より強力なバケモノが出現するのか? その点がハッキリしないまま無闇に戦うのは、非常に危険だからね。
     もし事実が後者だったなら、いずれ最悪な状況に陥るコトは明白だ。そう、『大魔法使いとその一番弟子ですら敵わない超バケモノが出現』なんてコトになれば、もう誰も、バケモノを倒せなくなるね。
     ……確か鳳凰、ゼロが北にいるって言ってたっけね。話の感じからして、北にもバケモノが出てるらしいし、となりゃ世話焼きのゼロのコトだから、バケモノ退治に乗り出してるはずだ。その上で――アイツも私と同じくらい頭脳明晰なヤツだから――私が今考えてたように、『免疫』のコトも想定してないはずが無いね。
     こっちの用事が一段落したら、ゼロに会いに行ってみるかね。私らが知らない何らかの事実を、アイツがつかんでるかも知れないし)
     と、モールは背後に気配を感じ、振り向く。
    「よお」
     ラボが杖を手に、よたよたと近付いてきていた。
    「大丈夫かね、ラボ? そんな体で歩いて」
    「寝たきりの方が疲れる。仕事するなり何なり体動かしてる方が、気が休まるもんでな」
    「職人気質だねぇ」
     モールは近くに転がっていた石を魔杖でこつんと叩き、魔術で形を整える。
    「ほれ、座りな」
    「おう、済まんな。……よい、しょっと」
     座り込んだところで、ラボが尋ねてくる。
    「モール、アンタとエリちゃんが帰ってきてくれたことについては、本当に嬉しい。良く生きて帰ってきてくれたって、心から思ってる。
     だけどずっとここにいるわけじゃないだろ?」
    「そのつもりだね。……何が言いたいね?」
     尋ね返したモールに、ラボは表情を曇らせた。

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 2

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第58話。
    深刻化する央中。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     山を降り、道に出たところで、モールが「ちょいと」と声を上げた。
    「……なんです?」
     やはり邪険にあしらおうとしたエリザに、モールは真面目な声を作って続ける。
    「この道を見て、君は何か感じないね?」
    「は?」
     うざったそうな顔を返しつつも、エリザは自分の足元に視線を落とす。
    「……前に歩いた時より、広くなっとる気ぃはするけど」
    「ソレさ。つまり体積だけ考えても、昔よりデカいバケモノが多くなってるってコトは、容易に予測できる。
     やはり鳳凰の言ってた通り、ヤバいバケモノが闊歩しまくってるってコトだろうね」
    「ソレがどないしたん?」
    「ちょっとは頭冷やして考えろ、おバカ」
     モールはエリザに近付き、べちっと頭を叩いた。
    「あいたっ!?」
    「成長したのか、昔のまんまか? 私に『見てほしい』ってんならね、成長したってトコを見せてみな。
     よーく思い出してみな、この道くらい幅のデカいのが昔、そんなにゴロゴロいたかね?」
    「む~……」
     頭をさすりながら、エリザは渋々と言った様子で答える。
    「そら確かにこんなデカいのん、いてた覚えはあらへんよ。でも『ゴロゴロしとる』って言うたけど、いっぱいおるってなんで分かるん?」
    「道ってのは、人やらケモノやらが行き来するからできるものだろ? コレだけしっかり道が作られてるって言うなら、ソレだけデカいヤツの行き来が多いってコトだ。
     ソレともエリザ、まさか君はこんな幅のデカい人間が何人もいるなんて思ってるの? まさか、だよねぇ?」
    「ぐ、……ふんっ」
     顔を真っ赤にし、背を向けたエリザに、モールはいつもの飄々とした声をかける。
    「エリザ、山を降りて人間の生活圏に戻って来た今、ココはドコだってバケモノの捕食圏内、超危険ゾーンだね。言うまでもなく油断は禁物だし、二手、三手先を読んで行動してなきゃ、命取りになるかも知れない。
     熱くなってるコトについては特に言うコト無いね。戦う時は気持ちが燃えてなきゃダメだしね。でも冷静に考えるってコトも、絶対忘れちゃいけないからね。
     そんなワケでだ、エリザ」
     モールはエリザの前に回り込み、道の先を魔杖で指し示した。
    「数年前みたく、のんきな道のりと行かないコトは明白だね。いつ、ドコで、どんな敵と出くわすか、私にも予測が付かない。
     油断するなよ」
    「言われんでも」
     どちらから促すともなく、二人は歩き出した。

    「ぐるるる……ぐふううう……」
     間も無く、二人の前にバケモノと思しき巨獣が現れる。
    「ベースは馬? ……にしちゃ、脚が多すぎるね。まるで蜘蛛だ」
    「て言うか、目ぇおかしない? 火ぃ噴いとるで」
    「そもそもデカいね。馬って言うより、まるで戦車だね」
    「走って来よったら一瞬やろな。……っと、言うてる間に来よるで、先生」
     二人で軽口を叩き合いつつ、揃って魔杖を構える。
    「んじゃやってやろうかね。連射するね!」
    「あいあい、了解っ!」
     目が合うなり、戦車馬は鼻から火を噴き出し、エリザたち目がけて突進してくる。
     しかし二人にぶつかるはるか手前で、エリザとモールは同時に魔術を放っていた。
    「『フレイムドラゴン』!」「『ファイアランス』!」
     いくつもの火球が立て続けに戦車馬に叩きつけられ、そのいくつかは貫通する。
    「ギヒ……ッ!?」
     戦車馬は体中から火を噴き上げ、その場に崩れる。やがて轟々と燃え上がり、そのまま炭になった。
    「よっしゃ!」
     エリザが魔杖を振り上げ、勝ち誇ろうとする。
     しかし直後、モールが後ろを振り返り、魔術を放つ。
    「油断するなっつったろ!」
    「えっ?」
     エリザは振り向くと同時に、体を火に包まれながら走り込んでくる、別のバケモノがいたことを確認する。
    「う、うわ、うわっ、……『ファイアランス』!」
     どうにか魔術を発動させ、バケモノの頭を貫く。
    「……お、終わり?」
     きょろきょろと辺りを見回すエリザに、モールがフン、と鼻を鳴らす。
    「私がいなきゃ、別な意味で終わりだったね」
    「す、……すんません」
    「いいさ。逆に私一人だったとしても、この先がキツくなってくるだろうしね。
     二人で協力して行こう、エリザ。生きて村に着くにゃ、ソレが一番だね」
     そう言ってニヤっと笑ったモールに、エリザは深く頭を下げ、うなずいた。
    「……はいっ!」

    PageTop▲

    琥珀暁・群獣伝 1

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第57話。
    猛進と思索。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「邪魔すんなボケぇ!」
     彼女の一喝とともに放たれた火球が、たてがみの一つ一つが蛇となった異形の牛に直撃し、そのまま腹に食い込む。
    「グバッ……」
     鳴き声とも体内での炸裂音ともとれる音が蛇頭牛の口から漏れ、続いて大量の血が、噴水のように飛び出してくる。
    「……すっげ」
     一切手を出さず眺めていたモールが、目を丸くして驚いている。
    「君、マジで私より強くなったんじゃないね? ……や、手合わせなんぞしようなんて、コレっぽっちも思わないけどね」
    「アタシは相手にでけへん、ってコト?」
     エリザに魔杖を向けつつにらまれ、モールは苦い顔を返す。
    「そうじゃなくて、……なんかさ、エリザ?」
    「なんやの?」
    「鳳凰と別れてから君さ、なんか私に対してトゲトゲしくないね?」
    「そんなつもりありません」
    「今だってそうだろ……」
     モールは一層苦い顔をしつつ、腫れ物を扱うかのような口ぶりで尋ねてくる。
    「もしかしてだけどもさ、やっぱ君、鳳凰が言ったあの話ね、何て言うか、……根に持ってたりなんかするワケ?」
    「その話やめるって言うたんは先生やろ? 話するん? 今、ココで?」
    「……だーかーらーさぁ」
     モールは額に手を当て、うめくように答える。
    「もうちょいね、じっくり話せるような時間を作りたいんだよ、私としてはね。でも今、そんなヒマを君は作りたいね?」
    「……そらまあ、今は急いでラボさんトコに行きたいで」
     エリザも口をとがらせつつ、話に応じる。
    「でもアタシの気持ち分かってはる上で、どっちとも付かへんような態度取られてひょーひょーと会話されるんも、ソレはソレでイライラするねんや」
    「じゃあどうしたらいいね?」
    「そんなんアタシに聞かんといてもらえます?」
     エリザはぷい、と背を向け、歩き出す。
    「話を進めへんのやったら、もうしゃべらんといてもろてええ? 早よ行くで」
    「……分かったよ。……まったくもう、この弟子と来たら」
     一人でぐいぐいと進んでいくエリザを、モールは渋々と言った様子で追って行った。

     何か話をしようとしてもほとんど邪険にされるため、山を降りるまでの間、モールは自分からしゃべろうとはせず、黙々と自分の考えをまとめていた。
    (さっきの蛇頭牛、どう考えても山に登る前に出くわしたバケモノたちより、段違いに強いね。
     ソレをあっけなく退けたエリザの腕については、無論、賞賛する以外の評価はまったく無いんだけども――そもそも、何であんなバケモノが出てきたね? 山に登る前にはあんなの、一度も遭遇しなかったってのにね。
     何て言うかコレって、まるでテレビゲームのステージ攻略みたいに、強いのを倒したら次にもっと強いのが出てきた、……みたいな、ああ言うノリを感じるね。
     とすると、ふもとで私が鉄器や青銅器の鋳造方法を教えたのが、そのノリの引き金になったのか? コレまで出現したバケモノが鉄器で駆逐されちゃったから、もっと強いのが出て来たってコトか?
     微生物学や長期的な生物学の観点なら、ソレは有り得る話だ。古来より猛威を奮っていたウイルスが、ペニシリンみたいな抗生物質の出現で一掃された。でも生き残った一部のウイルスがペニシリンを克服して耐性を持ち、ふたたび脅威を奮い始める。ソコでメチシリンが新たにペニシリン耐性ウイルスを駆逐、そしたらメチシリン耐性ウイルスが出現、……なんて言ういたちごっこなんかは、あまりにも有名な話だしね。
     でもこの場合、そんな話とはスケールが違いすぎる。数年単位で生物がソコまで進化・強化されるなんてコトは有り得ない! あまつさえ、魔術や鉄器に耐性を持つ生物だって? んなバカな、だね!
     そう、自然淘汰と言う観点においては、ソレはまったくありえない話だ。とするならコレには、少なからず人為的な操作が加えられていると見ていいと、私は思うね。
     もしソレが事実だとするならば――一体ドコのクソ野郎だ? 人を人だと扱わない、こんなえげつないコトを画策するようなのは)

    PageTop▲

    2017年6月携帯待受

    携帯待受

    LAMBORGHINI huracán(LP610-4)

    LAMBORGHINI huracán(LP610-4)

    LAMBORGHINI huracán(LP610-4)  LAMBORGHINI huracán(LP610-4)

    2017年6月の壁紙。
    フェラーリと双璧を成すスーパーカーメーカー、ランボルギーニからウラカン。

    アンケートの結果を元にカラーを決めていますが、
    これまで2月と5月が白になり、そしてこの6月も白。
    50%が白に染まってしまい、あまりにも偏った結果となってしまっています。

    なので、今後2017年の待受に、「白」の選択肢は出ません。
    これ以上白く染まるとやりづらいので。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



    Calender picture application by Henry Le Chatelier

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 7

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第56話。
    鳳凰との別れ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
    「無事って、どう言うコトなん?」
     尋ねたエリザに、鳳凰はあっけらかんとした口調で答える。
    「この数年、めっちゃくちゃ襲われまくってるらしいよ。ほら、あの変な……、動物っぽいけど普通の動物じゃ絶対無い、アレ」
    「……バケモノ」
     思わずそう返したエリザに、鳳凰は「あー、そう言う感じ」とうなずく。
    「君、どの辺りを回ってたね?」
     今度はモールが尋ね、これにも鳳凰はさらりと答える。
    「結構ぐるっと。知ってる? 南東の方へずーっと行った辺りにも……」「そんなんどうでもええねん!」
     立ち上がり、怒鳴ったエリザに、モールがぺちっと頭を叩く。
    「落ち着けってね、エリザ」
    「……ええ、はい」
     モールに諭され、エリザが座り直したところで、依然として飄々とした態度のまま、鳳凰が尋ね返す。
    「あー、と。何を聞きたいの、二人は?」
    「この山の麓沿いに何個か村があったはずだけども、ソコも襲われたの?」
    「っぽいよ」
    「……先生」
     エリザはぎゅっと、モールの服の裾を引く。
    「その……、いっぺん、帰ってみいひん?」
    「君が帰りたいってんなら、いつでも帰るさ」
     モールはにこっと笑いかけ、エリザの頭を撫でる。
     その様子を眺めていた鳳凰が、くすっと笑う。
    「エリザのコトお気に入りなんだねぇ、モール」
    「そりゃあね」
    「恋人にはどうなの?」
     先刻のエリザの様子から思いを汲んでくれたのか、鳳凰がそんなことを聞く。
     しかしモールの反応は、エリザのそんな期待を、はっきりと裏切るようなものだった。
    「アホか。んなコト思うワケないじゃないね」
    「……っ」
     この返答にエリザは顔をひきつらせて絶句し、鳳凰は苦い顔をする。
    「あーあ、言い切っちゃったか」
    「なんだよ?」
     モールが鳳凰をにらみつけるが、鳳凰は意に介した様子もなく、けろっとした様子で返す。
    「あのさ、エリザはキミのコト好きなんだってさ」「ちょおっ!?」
     あまりにも単刀直入に暴露され、エリザは顔を真っ赤にする。
    「なんで言うねんアホおおおッ!」
    「言わなきゃ何にも変わんないよ? その上、相手はモールだし」
    「私だったら何だって言うのさ?」
     師弟に揃ってにらまれ、流石の鳳凰もたじろぐ。
    「あー、と、……この話は無かったコトにしとく? なんか続けたらこじれそうだし」
    「もうこじれとるわボケぇ!」
     次の瞬間、エリザは鳳凰のほおを、べちっと平手打ちしていた。
    「いたいよ」
    「うーっ、うーっ、……ひっく、ひっく」
     怒りをにじませていたエリザの目から、ボタボタと涙がこぼれる。
     それを見て、モールがぱん、ぱんと手を打った。
    「分かった、鳳凰の案に賛成。この話は無し。
     いずれちゃんと答えるから、今はともかく、私に告白だとかどう思ってるかだとか、そう言う話はやめよう。私にも、考えをまとめる時間がほしいしね。
     ね、エリザ。いいかね、ソレで?」
    「……う~……」
     外に飛び出し、何かを叫び回りたいような気持ちだったが、エリザはその爆発しそうな思いをぐっとこらえ、小さくうなずいた。
    「……分かった。とりあえず今考えるんは、南の話やな。
     明日にでもすぐ行こうな、先生?」
    「ああ、その話は大賛成だね。
     鳳凰はどうするね? 一緒に来る?」
    「ボクはパス」
     鳳凰は首を横に振り、薄い笑みを浮かべた。
    「この新世界で『何か目的を持って行動』って言うのは今、したくないんだ。もうしばらく、ボクは傍観者でいるつもりだから」
    「そうかい。んじゃ、勝手にしな」
     モールは悪態を付き、そしてこう続けた。
    「何でだろうね――何かコレでもう、キミと会うコトは無いなって気がするね」
    「ボクも同感だよ。少なくともあと1000年くらいは、再会の機会は無さそうだ」
    「……だのに、コレでお別れするっての?」
    「うん。コレで一旦、お別れだよ。でもいつか、また会おう」
    「ヘッ、ド変人め」
     そう言って、モールは手を差し出した。
    「約束しろ、鳳凰。絶対、いつか必ず、お互い生きてるうちに会おうってね」
    「いいよ。そんな約束、いくらでもするよ。キミが相手ならね」
     鳳凰も手を伸ばし、がっちりと握手した。



     翌日、エリザとモールは鳳凰に見送られながら、遺跡を後にした。

    琥珀暁・鳳凰伝 終

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 6

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第55話。
    第三の賢者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     遺跡に入り、エリザたちが居間として使っている部屋に入ったところで、鳳凰が呪文を唱え始めた。
    「『メタモルフォーゼ:解除』」
     途端、鳳凰の姿が――以前にエリザがモールから聞いたものと同じ姿の――茶髪の短耳に変わる。
    「うん、間違い無く鳳凰だね」
     それを確認し、モールが深くうなずく。
     対する鳳凰は、肩をすくめてこう返した。
    「ソレでさ、モール。何でキミさ、姿が違うの?」
    「ソレなんだけどねぇ」
     そう前置きし、モールは鳳凰に耳打ちする。
    「……で……多分……だから……結局……そーゆーコトなんじゃないかなーって」
    「ふーん……? まあ確かにキミって、普通の人間と色々事情が違うもんねぇ。でも納得した。
     ソレで、この子は? なんかこの子、キミのコトを師匠って呼んでたけど」
    「ああ、魔術の弟子だね。不思議なコトにDの方のマフ持ってた」
    「Dの方? Pじゃなくて?」
     モールの話に、鳳凰は目を丸くする。
    「ああ、Dの方だね。多分『旧世界』の終わりで暴走したのが生物的に変異して、この世界の人間とくっついちゃってるんじゃないかって思う。ミトコンドリアみたく」
    「怖い仮説だなぁ」
     モールと鳳凰がこそこそと話し合っているのを見て、エリザが頬をふくらませる。
    「あーもー、ワケ分からんコトごちゃごちゃ言うてるんが二人に増えてー」
     エリザは二人の後ろに回り込み、ぺち、ぺちっと尻を叩く。
    「あいてっ」「なっ、なになに?」
    「ワケ分からん話ダラダラ聞かさんといて。ホウオウさん自己紹介して。お腹すいた。あと話聞いてて疲れた」
     エリザから箇条式に要求と不満を聞かされ、モールは苦い顔をした。
    「あー、……うん。ほんじゃ、ご飯にしようかね」

     食事の用意が整い、3人とも卓に着いたところで、鳳凰が切り出した。
    「自己紹介してって言ってたね、そう言や。
     ボクの名前は鳳凰。おめでたい鳥の名前から取られたんだ」
    「おめでたい? ……アホってコト?」
     エリザの言葉に、鳳凰は大げさにのけぞる。
    「ち、違うよぉ~。おめでたいってのは、縁起がいいって意味さ。
     まあ、ともかくソレが、ボクの号なんだ。ちなみに本名はモールにもゼロにも秘密。って言うか二人の本名もボク、知らないしね」
    「え? 師匠の名前、ウソのんやったん?」
     目を丸くして尋ねたエリザに、モールは肩をすくめて返す。
    「今じゃ本名みたいなもんさね。今まで通り、モールでいい。新しい世界に来たんだし、名前も新しくなくちゃ、ね。
     私の話より、今聞くのは鳳凰の話さ」
    「あ、せやったね」
     師弟揃ってくるっと鳳凰に向き直り、彼の話を待つ。
    「ああ、まあ、……えーと、ボクの名前は言ったし、後は何を話せばいいかな」
    「ホウオウさんも魔法使いなん?」
     エリザの質問に、鳳凰がきょとんとする。
    「まほうつかい?」
    「私がエリザに自己紹介した時、面倒臭くて端折ったのさ」
     そう返したモールに、鳳凰が眉をひそめる。
    「めんどくさがりだなぁ、相変わらず」
    「だって君、魔術のコト、一から何から説明して、この世界の人に分かってもらえると思うね?」
    「……んー、まあ、そうか。確かに考えると、ちょっと面倒かもね。
     ゼロがいたトコの人たちも、そんなに詳しくなさそうだったし」
    「……ん、ん?」
     鳳凰の一言に、今度はモールが目を丸くした。
    「ちょい待ち、君もしかして、ゼロに会ったね?」
    「『会ったの』って、長い付き合いじゃない。キミもボクも」
    「じゃなくて、最近会ったのかってコトだね」
    「あ、うん。2年前くらいかなぁ」
    「マジか」
     モールは立ち上がり、鳳凰に詰め寄る。
    「元気してたね、アイツ?」
    「さあ?」
    「さあって……」
    「正確に言うと、直には会ってないんだ。彼の友達っぽいのから聞いただけで」
    「アホかっ」
     モールは席に戻り、天を仰いだ。
    「本っ当に、君ってヤツは。前々から思ってたけども、重要なトコをわざと外すよねぇ?」
    「いいじゃん。元気そうってコトは雰囲気で分かったし。
     ソレよりかさ、気になるならキミたちが直に行けばいいんじゃない?」
    「そうさせてもらうね。ココ数年山ごもりしてたし、そろそろ下界に戻ってみてもいいかもって気はしてたしね」
     それを聞いて、今度は鳳凰が尋ねてくる。
    「そう言やさ、ゼロのコト知らないってコトだし、北には全然行ったコト無いの?」
    「ああ。何年か前に南をちょろっと回ったくらいさね」
    「南ばっかり? へー、よく無事だったね」
     その言葉に、モールもエリザもけげんな表情を浮かべた。

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 5

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第54話。
    本物? 偽物?

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    「だっ、だっ、だ、誰やアンタ!?」
     後ずさり、両手を胸の前で組みながら、エリザは怒鳴るように尋ねる。
    「誰って、ボクのコト?」
    「他に誰がおるっちゅうんや!?」
    「ああ、いないねぇ」
     きょろきょろと辺りを見回し、その奇抜な色合いの毛並みをした獣人が答える。
    「まあ、でもさ。別に誰でもいいでしょ?」
    「良くないから言うねんや! あ、アタシの独り言、聞いてたやろ!?」
    「『そらまだちょこっとやけど』くらいからは」
    「ふざけんなボケぇ!」
     怒りと恥ずかしさに任せ、エリザは青年を平手打ちしようとする。
     が、青年は事も無げにひょいとかわし、手をぺらぺらと振って返す。
    「いや、思春期の乙女によくある悩みだと思うよ?
     女の子は誰でも、そーゆーコト考えるっぽいし。ボクの姉弟子の麒麟だって、いっぺん『マコトさんみたいな人がボクの恋人になってくれたらなぁ』なんて、アイツのキャラに似合わない、ふざけたコト言ってたコトあるし。
     ソレに、妹も似たよーなコト……」「知るかぁッ!」
     逆上したエリザは聞く耳を持たず、護身用に持っていた魔杖を振り回す。
    「わ、わ、ちょっと、危ないって。
     って言うか、魔杖をそーゆー使い方しちゃダメだってば。魔杖が泣くよ? 魔法使いに向いているタイプなのに、キミ」
    「そんなん見ただけで分かるんか!?」
     苛立ち気味に尋ねたエリザに、青年はうんうんとうなずく。
    「ボクは分かるんだ。見ただけで。キミも、って言うかキミくらいなら、言葉を介さずとも分かるんじゃない?
     何て言うか、肌で感じれるって言うか、そーゆーレベルで」
    「ワケ分からんコトばっか、ゴチャゴチャ言うな! 師匠みたいにアレやコレや……」
     そこまで言って、エリザは――癪に障るものの、確かに青年がそう言ったように――直感的に、ピンと来た。
    「……ホウオウ? アンタもしかして、ホウオウちゃうん?」
    「ふぇ?」
     そこでようやく、青年が動揺した様子を見せる。
    「なんでボクの名前知ってんの?」
    「師匠から聞いた。何ちゅうか、メチャメチャな性格しとるって」
    「ひどい言われようだなぁ。君の師匠って誰?」
     尋ねた鳳凰に、エリザが答えようとした、その瞬間――。
    「あれ?」
     エリザの背後から、声が投げかけられる。
    「……」
     遺跡から出てきたモールが、鳳凰を凝視する。
    「……」
     一方の鳳凰も、モールを凝視している。
     そして――揃って、こう尋ねた。
    「誰?」
     てっきり揃って再会の感動を分かち合うものと思っていたエリザは、呆気に取られる。
    「……えーと、お二人さん?」
    「ん?」「どしたね?」
    「アンタはホウオウやんな?」
     手を向けられ、鳳凰はこくりとうなずく。
    「そうだよ」
    「ほんで師匠? この人、ホウオウやないのん?」
     尋ねられ、モールは首を傾げる。
    「見たコト無いね」
    「そりゃまあ、変装してるし」
     そう言って、鳳凰は空を見上げる。
    「ドコにどんな監視があるか分かんないもん。空なんて一番厄介だ。
     じゃあ、まあ、変装解くからさ、中入ろう。……多分、モールかなって気もする人」
     鳳凰にそう声をかけられ、モールは憮然とした様子でうなずいた。
    「そう言うしゃべり方は鳳凰っぽいね。そうだよ、私ゃモールさ」
    「やっぱり? でも何て言うか、うーん、……全部違わなくない? 特に見た目が」
    「あー」
     そう言われて、モールは自分の体に目をやる。
    「なるほどね。そりゃ分かるワケ無いか。分かった、私もちゃんと説明するね」
    「助かる」
     ここでようやく、鳳凰もモールも、互いに相好を崩した。

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 4

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第53話。
    遺跡の修行。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     エリザが遠くから眺めていただけでは分からなかったが、確かにその窪地には、人が出入りできる程度の洞窟が、隠されているかのように存在した。
    「さてと」
     洞窟に入って間も無く、二人は岩壁に突き当たる。
     そこでモールが何か唱え、壁をトントンと叩くと、壁にすうっと、扉が現れた。
    「ココは秘密の場所だからね。後で扉の開け方は教えたげるけど、誰にも言わないようにね」
    「うん」
     扉を抜けて奥へ進み、遺跡のような場所へたどり着く。
    「ココが私とゼロ、鳳凰が暮らしてたトコさ。……残念ながら二人ともいないっぽいけどね」
     モールの言う通り、確かにあちこちに、人が生活していた痕跡が残っている。
    「ともかく今日のところは、ご飯食えて寝られるように、掃除からだね」
    「はーい」
     二人で遺跡の中を掃除し、洞窟周辺の野草や果物を採り、食事の準備をする。
    「……んー」
     その途中、モールが残念そうにうなった。
    「死んだかも分からんね、二人とも」
    「え?」
     ぎょっとするエリザに、モールは首を横に、短く振る。
    「少なくとも半年か一年か、この辺りで生活してた形跡が無いんだよね。通路にまで埃(ほこり)が溜まりまくってるし、野草は採り放題だったし。
     まあ、この辺りにいないだけで、私と同じようにどっかの村をぶらついてるって可能性も十分あるけども、少なくとも二人が、ココに帰って来た様子は無いんだよね」
    「……残念?」
     尋ねたエリザに、モールは寂しそうな笑みを返した。
    「まあ、ね」



     それからエリザたちは、遺跡で暮らし始めた。
     遺跡の中に残っていた本や、魔法陣が刻まれた板を使い、エリザは魔術の修行に明け暮れた。
     モールがにらんでいた通り、エリザの魔術に関する資質と学習意欲、そして知能は並外れており、この遺跡で何年も暮らすうち、彼女はすっかり、師のモールと遜色ない程の技術を身に着けていた。
     それだけに留まらず――。
    「先生、こんなん思い付いたんやけどな」
     エリザはモールから学んだ内容を応用・洗練し、自ら魔術を開発・研究するまでに至っていた。
    「ふむ、……ふむ、へぇ?」
     その研究内容は、最早モールが教える、導くと言う次元を超えており、それどころか彼も舌を巻く程の完成度に仕上がっていた。
    「こりゃ考え付かなかったね。なるほど、この方法なら昔やっちゃったみたく、杖を燃やさずに済むかも知れないね」
    「せやろ? あんなんポコポコ起きたら、めっちゃ危ないし」
    「ただ残念ながら、コレを実現させるにゃ設備が無いね。『麓』で実用化するにゃ、100年か200年はかかるだろうね。
     まったくエリザ、理論だけなら君はもう、3世紀は未来に行っちゃってるね。こりゃ長生きしないと世界の損失ってヤツさね」
    「ほめすぎやって、もぉ」
     顔を赤らめるエリザの頭を、モールは昔からそうしてきたように、ぽんぽんと優しく撫でた。
    「ほめすぎなもんか。えらいえらい」
    「……」
     が、エリザは何故か、不満そうな、そして残念そうな顔をしている。
    「どしたね? 子供扱いすんなって?」
    「……ちゃう」
     エリザはモールの手をひょい、と除け、ぷいっと背を向ける。
    「ちょっと、外行ってくる。おゆはんまでには戻るし」
    「あ、うん」

     遺跡の外に出たエリザは、モールに撫でられた頭を、自分でも撫でてみる。
    「……そらな、子供扱いすんなっちゅうのんは、思てへんコト無いけどな。でも、……せやないねん」
     ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、エリザは遺跡の周りをぐるっと回る。
    「アタシ、初めて会うた時より背ぇ高こなってるし、……そらまだちょこっとやけど……、ムネもふくらんできとるのに」
     自分の胸に手を当て、エリザは唇を尖らせる。
    「……先生、アタシのコト、いつまでもコドモやって思てるんかなぁ」
    「そう? 見た感じ、十分可愛いと思うけど」
     と、突然声をかけられる。
    「ふあっ!?」
     自分の独り言を師匠に聞かれたかと思い、エリザは顔を真っ赤にし、耳と尻尾を毛羽立たせて叫ぶ。
    「ちょ、ま、先生、今の聞いて、……ん?」
     が、そこにいたのはモールではなく、見たことの無いような奇妙な耳を持った青年だった。

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 3

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第52話。
    「旧世界(Old World)」からの三賢者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     モールは二本目の串に手を伸ばしつつ、自分のことを語り始めた。
    「私ともう二人、ココの山頂近くに住んでたんだ。詳しく数えちゃいないけど、半年かそこらくらいね。
     で、何やかんやあって二人ともどっか行っちゃってね。いや、ケンカ別れしたとかそーゆーコトじゃない。二人とも、いや、私も含めて三人全員、好奇心旺盛なタチでね。『新しい世界』が見たくて見たくて、じっくりじっくり調べたくてたまらなくなっちゃったのさ」
    「『新しい世界』?」
    「君たちの今いる、この世界のコトさ。
     そう、もっとぶっちゃけるとね、私もその二人も、別の世界から来たんだよね。いや、別の世界と言うよりも、『過去』、『古代』と言うべきか」
    「アタシがアホなんか、先生の説明がド下手クソなんか分からんけど、何言うてるんかさっぱりやで?」
     エリザににらまれ、モールは口を尖らせる。
    「まーたそーゆーコト言う。……まあ、でも、確かに説明がし辛い話ではあるんだ、確かにね。……んー、どう言えばいいもんかねぇ。とりあえず事実を、思い付く順に言うしかないね。ソレ以外にいい説明の仕方が思い付かないし。
     まず1つ目。今言った通り、私とその二人、合わせて三人は、とんでもなく昔の世界から来た。そしてその世界は、今よりずっと、ずーっと、文明の進んだ世界だったのさ」
    「今より? 昔やのに?」
    「歴史は人間社会と一緒さ。優秀でできるヤツだって、若くてひよっこの頃からそうだったワケじゃないし、いつかは老いて死ぬ。でも死ぬ前に子供を遺すもんさ。いずれ育っていく、ひよっこをね。
     ソレと一緒で、その超文明をたたえた『古い世界』は老いて死んだ。ソコから『新たな世界』ができたってのも一緒。だけども残念だったのは、『古い世界』が『新しい世界』に何にも知識やら経験やらを遺さず、逝っちゃったコトさ。
     だから遺された『新しい世界』にゃ、なーんにも受け継がれてないね。まっさら、まっしろ。でも自分でちょこっと、ちょこっとずつ、知識や経験を蓄え始めてる。
     ソレが私ら三人にとって、とっても興味深くて、たまらなく面白くて、コレ以上無いくらいにワクワクさせるコトだったのさ」
    「せやから先生もその二人も、家を出てったんやね」
    「そう言うコト。……ああ、そうそう。何を隠そう、私らが目指すのはその家なんだ。君への修行の仕上げを、ソコでするつもりでね」
    「へぇ~」



     山を登り始めて1週間も経つ頃、二人は雲を見下ろせる位置にまで到達していた。
    「ふしぎっちゅうか、すごいっちゅうか、……キレイやなぁ」
    「だねぇ」
     山道をゆっくりと進みながら、モールはまた、自分と友人のことを語り始めた。
    「私はココを、南に向かって降りた。ゼロが北に行ってきたってのを、本人から聞いたしね」
    「ゼロ?」
    「友達の名前さ。まだ20代だってのに、白髪にヒゲぼっさぼさのヤツでね。中身も相当浮世離れしてた、とんでもない変わり者だったよ。私から見てもね」
    「もう一人は? 何て名前なん?」
    「あん?」
     尋ねられ、モールはきょとんとした顔をエリザに向ける。
    「モールさんの話ん中で、もう一人、……何やっけ、ほー? って言うんもよお出てくるやん?」
    「ああ、そう言や話してたかもね。そう、もう一人は鳳凰(ほうおう)だね。ソイツも変わり者さ。私やゼロに、負けず劣らずのね。
     何て言うか、鳳凰は大抵のコトに無関心な感じだったね。世俗やら社会問題やら健康ブームやら、そう言うの全部『そんなのボクに関係ある?』で済ますヤツだった。
     ともすると自分のコトにすら、無頓着な時があったね」
    「例えば?」
    「ソコいらの草やらキノコやら、毒かどうかも調べずに、いきなりひょいっと口に入れるんだよね。『んなコトしてたら君、下手したら死ぬっての』ってたしなめてみても、『死んだら死んだ時だよ』っつって。
     アイツは自分の生き死にすら、どーでもいいやってヤツなのさ。正直今現在、ちゃんと生きてるのか、不安になるヤツだね。
     ただ、まあ、もしちゃんと生きてるとするなら」
     モールは道の先、窪(くぼ)みになっている場所を魔杖で指した。
    「あそこでまだ、暮らしてるかも知れないね」

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 2

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第51話。
    モールの回想;荳芽ウ「閠??繝輔ぃ繝シ繧ケ繝医さ繝ウ繧ソ繧ッ繝 。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     テントを張り終え、エリザが中に入って横になったところで、モールはすぐにはテントに入らず、彼女に声をかけた。
    「ちょいとご飯を調達してくるね」
    「はぁ~い」
     くるりと踵を返し、モールは辺りを見回す。
    (ここいらで食えそうなのは、と。……アイツがこの辺の野草、散々食いまくってたからねぇ。ドレが食えてドレがアタるヤツかってのは、大体分かる)
     周囲をうろつきつつ、モールは「そいつ」のことをぼんやり、思い出していた。



    《キミも魔術を調べてるって聞いたから》
     そう言われたけれど、その時の私は、言葉の意味を測りかねていた。
    「ナニソレ? どう言う意味?」
     そう尋ねたら、アイツはこう返してきた。
    《そのままの意味だよ》
     うぜぇ。……いや、そうだ。コイツの言う通りだ。コイツは「そのまま」聞いてきてるだけなんだ。
     ソレを情緒不安定だった私が、しなくてもいい勘繰りしてるだけなんだよな。
    「どう答えたらいいね?」
     って聞いたら、コイツはまた、イラっとするコトを言ってきやがった。
    《自分で分かってるコトを聞くの?
     ボクの師匠はそーゆーヤツのコト、『愚図か愚鈍』って言ってるよ》
     お前の師匠なんか知るかってーの。まあ、でも、うーん、……つまり。
    「つまり克事件のアレ?」
    《ソレ》
     やっぱりか。でもなぁ。
    「アレ、一般のニュースとかじゃデマって聞いたけどね」
     そんな風に返したら、もう一人がこんなコト言ってきた。
    《でも僕もホウオウも、それから多分君も。本当だと思ってる。違うのかな?》
    「……思う」
     ちくしょ、なんだか心ん中、見透かされちゃった気分だね。
    《だからコンタクトを取ったんだ。ロッキー、僕たちと研究しない?》
    「研究って、つまり魔術?」
    《うん。僕もホウオウも、こそっと研究してるんだ》



     ぼんやり考え事をしながら食材を集めている間に、辺りはすっかり暗くなっていた。
    (……ん、まあ、コレくらいありゃ十分か)
     モールは集めた食材を背負い、テントへと戻った。
    「戻ったね。ハラ減ってる?」
    「ぐーぐー言うてる」
     テントの側では既に、エリザが火を熾(おこ)してくれていた。
    「じゃ早速食べよう。私も結構疲れてるから、切ったり除けたりせずにそのまんま焼いて食べられるヤツ集めてきたし」
    「そうなん? ……ちゅうか先生」
     エリザは首を傾げつつ、こう尋ねてくる。
    「ずーっと気になっとったコトあるんやけど、聞いてええ?」
    「時間かかる?」
    「ちょっとかかるかも」
    「じゃ、焼きながら聞いてよ。私だってお腹空いてんだしね」
    「はーい」
     二人で食材を串に刺し、火にかけつつ、エリザが質問を始める。
    「後ろで見とったら先生、全然迷てへんねんな。分かれ道とか、ううん、そもそも道っぽい道もあらへんトコ、仰山あったのに。なんや全部、すいすいすいー、て」
    「そうだねぇ」
    「持ってきたご飯も、調理方法分かってる感じやし。初めて見たモノっちゅう感じやないなー思て」
    「うん」
    「……もうソレ、答えやんな?」
    「って言うと?」
    「先生、この山初めてやないんでしょ?」
     その問いに、モールは何の含みもなくうなずいた。
    「そうだよ」
    「変やろ、ソレ」
     エリザは元から吊り気味だった目を、さらに尖らせてくる。
    「アタシも村のヤツも、ラボさんトコの人らも、この山のコト、登るどころか近寄りもせえへんもんやのに、何で先生は詳しいん?」
    「……んー、まあ」
     モールは火にかけていたキノコを手に取り、頬張りながら答えた。
    「もぐ……、何てーか、……んー……、まあ、いいか。秘密にするようなもんじゃないね。
     正直言うとね、エリザ。私ゃ、ココに住んでたんだ」
    「そうなん?」
     モールの言葉に、エリザは目を丸くした。

    PageTop▲

    琥珀暁・鳳凰伝 1

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第50話。
    「壁」を登る。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    「はあ、はあ、……ふうっ、はあ」
     エリザの荒い呼吸を背後に感じ、モールは振り向く。
    「しんどくなったら言いなよ。その都度、休憩取ってやるから。急ぐ旅じゃないしね」
    「は、はーい」
     二人は今、山を登っている。これまで二人の旅路において、ずっと視界の端に在り続けた、あの壁のような山である。
     とは言え、まだ幼いエリザにとっては、こんな山を登ることは無謀な挑戦、いや、自殺行為にも等しい行いである。
     登山開始から1時間も経たないうち、彼女は息も切れ切れに、師匠を呼んだ。
    「せ、先生ぇ、も、もうアカぁン……」
    「お、んじゃここいらで休憩しようかね」
     モールはそこで立ち止まり、造ったばかりの魔杖「ナインテール」で少し上を指した。
    「あそこに平らなトコがあるね。あの辺りまで行った方が安全だね。もうちょい頑張って」
    「はぁー……い」

     3分後、エリザはその平らな場所に着くなり、ぺちゃりと座り込んだ。
    「はぁっ、はぁっ、……きっついわぁ」
    「ゆっくり休みな。無理していい道じゃないからね」
     モールもエリザの横に座り、こう続けた。
    「とは言え、のんびりし過ぎてもあんまり良くないけどね」
    「なんで?」
    「1つ。朝方に登山を始めたけども、どう考えたって今日中に登頂ってワケにゃ行かないからね。必ず何日かは、夜を過ごさなきゃならない。
     だから日のあるうちに、十分休める場所を確保しなきゃ危ない。ココいらはまだ標高が低いから、昼間はそこそこあったかいとしても、夜中になったら確実に寒くなるだろうからね」
    「ココやったらアカンのん?」
     尋ねたエリザの頭をぽんぽんと撫でつつ、モールは説明を続ける。
    「悪くはないけどさ、登山はまだ序盤も序盤だよ? こんなトコで一晩明かしてたら、とてもひと月やふた月じゃ登り切れないね。
     ソレにさ、ココはテントとか張るにゃちょこっと狭いね。どうせ一晩休むなら、ゆっくり足を伸ばせる場所の方がいいさ。
     んで、理由の2つ目。今まで観察してきた経験からなんだけどね」
     言いつつ、モールは立ち上がり、魔杖を構える。
    「どうもコイツら、人間の生活圏ギリギリに棲息してるっぽいんだよね。ココじゃまだ、ヤツらの棲息圏内なのさ」
     次の瞬間、魔杖の先からぱぱぱ……、と光線が飛ぶ。
     九条の光線は、いつの間にかモールたちの足元十数メートルまで迫っていた、そのトカゲと鳥の中間のようなバケモノたちを串刺しにした。
    「だからココでのんびりしてたら、おちおち寝ても休んでもいられないってワケさね。
     さてエリザ、そろそろ息は整ってきたかね?」
    「あ、うん」
    「じゃ、再開。頑張ろうね」
     モールに手を引かれ、エリザは立ち上がった。

     その日は5回休憩を挟み、太陽がエリザの目線より下に落ちてきた頃になって、ようやくモールが告げた。
    「今日はもう、この辺りがいい加減ってトコだね。今晩はココで野宿するか」
    「はぁ~……い……」
     エリザが相当疲労していることは、顔を見れば明らかだった。と言うよりも――。
    (声が『もうアカン~、死にそう~』って感じだね)
     モールは苦笑しつつ、辺りを見回す。
    「よし、本格的に暗くなってきちゃう前にテント張るか」
    「はぁ~い」
     間延びしたエリザの声に、モールは今度こそ噴き出した。
    「ふっ、ふふふふ……。いや、エリザ。疲れてるだろ? 君はソコで休んでな。私がチョイチョイとやってやるよ」
    「ええのん~……?」
    「その代わり、やり方はしっかり見てなよ。明日は君にもやってもらうつもりだしね」
    「分かったぁ~」
     くたっと座り込んでいるエリザが手を挙げたところで、モールは呪文を唱え、テントを組み立て始めた。
    「……」
     心底疲れ切った表情を浮かべつつも、エリザはじっとモールの一挙手一挙動を見つめている。
     それを横目で確認しつつ、モールは、今度はエリザに分からないよう、うっすらと笑っていた。
    (ふっふふ、真面目だねぇ)

    PageTop▲

    業務連絡;「小説家になろう」に登録しました

    雑記

    表題の通り、「小説家になろう」に登録しました。
    機を見て当ブログに掲載した小説を転載していこうと思います。
    現時点(2017.05.14)までにDW1と掌編15話+1(まだこちらに掲載していない完全新作)を掲載しています。

    ただ、双月千年世界シリーズは二の足を踏んでます。
    何故なら量があまりにも多く、また、「どうせ転載するならもう一回修正しておきたい」と考えているから。
    特に「蒼天剣」は1話あたりの文字数が安定しておらず、今見直すと2話分になりそうな箇所が多数。
    「白猫夢」辺りからならそのまま出せるクオリティなんですが、シリーズ物を途中から掲載するのもどうかと思いますし。

    そんなわけであの2人がまた更新報告し始めたら、「ああ、転載するんだ」と察してください。

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 6

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第49話。
    二つの魔杖。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     ラボの村に逗留してから2ヶ月以上が過ぎ、モールは様々な技術を村に広めた。
     そして、その結果――。
    「モール! おい、モール! 聞いてくれよ!」
    「ど、どうしたね、ラボの親分?」
     ラボが心底嬉しそうな顔で、モールに報告する。
    「あの六目狼、すぐそこまで来てやがったんだが、アドロたちが魔術と鉄の槍で、真正面から倒しちまったってさ!」
    「へぇ? そりゃすごいね」
    「ああ、すごいことだ! 今まであいつらに追い回されたり引っ掻き回されたりで、度々村を移したり坑道に逃げ込んだりしてきたが、これからはもう、そんなことしなくていいってことだ!」
     満面の笑みを浮かべているラボを見て、モールは彼を諭す。
    「ん、まあ、……でもさ、ヤバいヤツってコトにゃ変わりないんだし、危なくなったら逃げなよ?」
    「あ、ああ。……そうだな、浮かれすぎた。いや、しかし本当、あんたのおかげだ」
    「いいって、そんなの。私だって色々ご飯もらったり、杖造ってもらったりしてるんだから、お互い様さね。
     とは言え、もうそろそろ潮時かねぇ」
     モールの言葉に、ラボは一転、悲しそうな顔をする。
    「村を出るつもりなのか?」
    「ああ。元々この村にゃ、杖を造るつもりで立ち寄っただけだしね。ソレにさ」
     モールは窓の向こうに見える、壁のように高くそびえ立つ北の山々を指差し、こう続けた。
    「私は色々見て回りたいのさ。あの山の向こうとか、ね」



     モールとエリザは旅支度を整え、ふたたび旅路に就いた。
    「連れてきちゃったけども、良かったね?」
    「何言うてんの」
     心配するモールに、エリザはフン、と鼻を鳴らして答える。
    「アタシは先生に色々教わるために、いっしょに来とるんやで? そら、ラボさんトコの村はいごこち良かったけど」
    「そのつもりなら問題無いね。村を出る前も言ったと思うけど、次の目的地はアレだしね」
     北の山を指差したモールに、エリザは首を傾げる。
    「あの山登るん?」
    「そうだよ」
    「あの向こう、何も無いって聞いたで」
    「誰からさ?」
    「ラボさんの村の人とか、アタシんトコとか。みんな『山の向こうは何もない、無の世界だ』みたいなコト言うてた」
    「ふーん。でもさ、エリザ」
     モールはニヤニヤ笑いながら、こう尋ねる。
    「そいつらの中に、実際に『向こう』を見てきたヤツがいたのかねぇ?」
    「……いーひんと思う。みんな『無い』『見てくるだけムダ』って思とるやろし」
    「そんなもんさ。実際に見もしないで勝手な想像ばっかりして、ありもしないモノをうわさしてるってだけさね。
     いいかい、エリザ? 君はそーゆーヤツにならないようにね。自分の目で見もしないで、自分の耳で聞きもしないで、勝手な思い込みで話を創るようなヤツにはね」
    「うん」
     エリザがこくんとうなずいたところで――彼女は、顔をこわばらせた。
    「先生」
    「ん?」
    「向こう見て」
     言われるがまま、モールは道の先を眺める。
    「……ありゃ。何かいるね」
    「バケモノっぽいやんな?」
    「だねぇ。村の東によくいた六目狼じゃなく、でかいトカゲみたいなのだけども」
     モールはうなずきつつ、造ったばかりの魔杖を構える。
    「早速コイツの威力を試してみるとするかね」
     数十秒も経たないうち、そのトカゲがモールたちのところへと走り寄ってくる。
     モールはニヤッと笑い、呪文を唱えた。
    「この杖、耐えてくれるかねぇ? ほれ、『ジャガーノート』!」
     ばぢっと音が響き、六目狼の時と同様に、トカゲが白い炎を噴き出しながら炎上する。
    「ココまでは良し。で、杖の方は……」
     魔杖を確認するが、どこにも異常は見られない。
    「完璧だね。ラボの親分、いい仕事してくれたね」
    「さすがやね。ラボさんだけやなくて、先生もやけど。
     ……なあ、先生」
    「ん?」
     エリザはモールの杖の、先端におごられた水晶を指差す。
    「中、なんか入っとるよな?」
    「ああ、針状のルチル(金紅石)か何かが入ってるみたいだね。普通に透明な水晶よか、いいデザインだね。いい感じにカットしてくれたから、星みたいに光って見えるし」
    「思てたんやけどソレ、何て言うか、しっぽみたいやない?」
     そう言われ、モールはしげしげと水晶を眺める。
    「言われてみりゃ、そうも見えるね。九尾の尻尾って感じ。……そうだ、いいコト思い付いたね」
    「ええコト?」
     尋ねたエリザに、モールはニヤニヤと笑いながら答えた。
    「コイツの名前さ。名付けて『ナインテール』。いい名前だと思わないね?」
    「『ナインテール』、……うん、ええ感じやね。
     あ、ソレやったら」
     エリザも自分の魔杖を取り出し、モールに見せる。
    「アタシのつえも、何かええ名前付けてーや」
    「おう。……うーん、君の方の水晶は、なんか花って言うか、……そう、蓮みたいな感じだね。放射状に伸びてるのがソレっぽい」
    「はす?」
    「水の上に咲く花さ。この辺は水場が多いから、もしかしたらドコかで見られるかも知れないね。
     ってワケで君の魔杖の名前、私のと揃えて――『ロータステイル』ってのはどうかね?」
    「うん、ええよ。……えへへ」
     突然エリザが笑い出し、モールはぎょっとする。
    「どうしたね、いきなり?」
    「ううん、何やちょっとうれしいなーと思て」
    「何がさ?」
    「先生から初めて、モノもろたし」
    「あー、そう言やそうか。かれこれ3ヶ月近く一緒にいたってのに、贈り物はコレが最初だったっけね。
     ま、コレからも何かしら機会があれば、プレゼントしたげるさね」
     モールの言葉に、エリザはさらに嬉しそうな笑みを浮かべた。
    「楽しみにしとるで」
    「ふっふっふ……」
     二人はじゃれ合いながら、北の山へと進んで行った。

    琥珀暁・錬杖伝 終

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 5

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第48話。
    モールの鋳造講座。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     モールがエリザの助けを借りつつ魔術を村人たちに教えている間に、ラボの方でも、モールたちが魔杖を造るのに必要な原料を集めてくれていた。
    「青銅が拳4塊分、水晶が2塊分、後はあんたが指定した赤黒い鉱石2塊分、……こんなもんでいいか?」
    「ああ、私らが持ってるのと合わせりゃ、いい魔杖が造れるね」
     ニコニコと笑みを浮かべながらそう返したモールに、ラボはけげんな表情を浮かべる。
    「どうやって造るんだ? 青銅は延ばせるが、その黒いのはただただ脆くって、どう叩いてもボロボロ砕けるばかりだし、全然……」「延ばす? ……あー、なるほど。まだそーゆー加工の仕方なんだね」
     モールの言葉に、ラボは首を傾げる。
    「どう言う意味だ?」
    「ま、……私が説明下手だってのはここ最近で良く分かったから――説明するより見せた方が早いだろうね」

     モールはラボと、彼と共に青銅器を造っている仲間数名とを集め、青銅と赤黒い鉱物、薪、箱状に固めた上で穴を穿った砂塊、そして石塊2つを前にして、話を始めた。
    「今まであんたらがやってきたのは、この青銅をそのまま叩いて延ばして、棒状にしたり平らにしたりってやり方だって、ラボの親分から聞いたけどもね。
     私に言わせりゃ、そのやり方はめんどくさいし、思うようなものもできないんだよね」
    「なにぃ?」
     モールの言葉に、ラボをはじめとして、男たちが憤る。
    「だったらあんたのやり方を見せてくれよ!」
    「そのつもりで呼んだんだっつの。ま、見てな」
     モールは石の塊に向かって呪文を唱える。
    「そら、『フォックスアロー』」
     紫の光線が石を削り、すり鉢状にする。
    「おぉ……、石があんな簡単に」
    「なるほど、そうやって削って……」「違う違う、ココはまだ本題じゃないね。あくまで準備さ」
     納得しかけた一同をさえぎり、モールは青銅の塊を一つ、石の中に置く。
    「この鉱物はある程度熱を加えると、ドロリと溶けるのさ」
     モールは石の下も魔術で掘り、そこへ薪を投げ込み、別の呪文を唱える。
    「燃えろ、『ファイアボール』」
     薪に火が点き、石全体を熱し始める。
    「溶けるって……」「石がか?」
     疑い深そうに様子を伺っている一同に、モールがこう続ける。
    「勿論、ちょっとくらい熱いって程度じゃ溶けないね。だから火に空気をガンガン送り込んで、もっと熱くする。ほれ、『フィンチブリーズ』」
     石の下に風が送られ、ごうごうと勢い良く炎が燃え上がる。
     やがて石の中に収まっていた青銅は、ドロドロと溶け始めた。
    「うわ、マジだ」「溶けてる」「熱っ」
    「触るなよ? 火傷じゃ済まないからね」
     そうこうするうち、青銅はすっかり液体状になり、石の中でグツグツと煮立っていた。
    「で、同じように削って柄を付けた、こっちの石ですくい取って、この固めた砂の、穴の中に注いで、冷めるまで放っておけば……」
     しばらく時間を置いてから、モールは砂を崩す。
    「コレで青銅の棒が完成、ってワケさ。そっちの赤黒いヤツ――鉄鉱石だって、同じようにして溶かせるね」
    「へぇ~……」
     その後、何度かモールが実演を繰り返し、一同は新たな加工方法を学んだ。

    「あの重たいだけでどうしようも無かった赤いやつも、溶かせばこんな硬いのになるんだなぁ」
     モールが鋳造した鉄棒を眺めながら、ラボがうっとりした声を上げる。
    「加工の仕方さえつかめば、青銅よりよっぽど使い勝手のいい素材さ。ってワケで」
     モールはラボが持ったままの鉄棒をトンと指で叩き、ウインクする。
    「この棒、もうちょい形を整えて、綺麗に研いといてね。魔杖の柄の部分にしたいからね」
    「おう、お安い御用だ。水晶も磨いとくか?」
    「ああ。真ん丸にカットして、柄の先にくっつけてほしい」
    「分かった」
    「後、ソレからね……」
     その後もあれこれと注文を付けつつ、モールは魔杖の製作をラボに任せた。

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 4

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第47話。
    鉱山の村。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     六目狼との遭遇から2日、3日と過ぎたところで、モールたちはとある村にたどり着いた。
    「ココが、君が言ってた村だといいんだけどねぇ」
    「っぽいで。ほら、山あるし」
     エリザが指差した方向には、確かに山と、そのふもとにたむろする人間がいた。
     モールはそのうちの一人に近付き、声を掛けてみる。
    「ちょいと聞いていいかね?」
    「ん?」
    「この山、何か採れるね? 人が出入りしてるっぽいけども」
     尋ねられた男は、素直に答えてくれた。
    「ああ、色々採れるよ。青銅とか錫とか」
    「へぇ?」
     これを聞いて、モールはエリザの頭をぽんぽんと撫でる。
    「エリザ、どーやらココが私らの目的地みたいだね」
    「せやね。後は原料もらえたらええんやけど」
     と、二人の話を聞いていたらしい男が尋ね返してくる。
    「原料? あんたら、ここの鉱物が欲しいのか?」
    「ああ、ちょいとね。ドコに行けば話できるね?」
    「向こうに集めてるところがある。親分もそこにいるよ。俺も用事あるから、良けりゃ案内するぞ」
    「どーも」
     男に案内され、二人は大きな小屋の中に通された。

     男は小屋の奥にいる、黒髪に銀色の毛並みをした狼獣人に声をかける。
    「親分、新しい坑道のヤツ掘ってきました」
    「おう、後で調べる。……そっちの二人は?」
     声をかけられ、モールたちは狼獣人に応える。
    「どーも。私はモール」
    「アタシはエリザ・アーティエゴです」
    「あん? アーティエゴ? ……どこかで聞いた名だな」
     狼獣人は首を傾げ、やがて「ああ」と声を上げた。
    「東の村にいた宝飾屋の名だな。そう言や、あの『狐』の親父と毛並みが同じだ。そこの子か?」
    「うん」
    「大人と一緒とは言え、よく無事に来られたな。ここまで全然、バケモノに襲われなかったのか? 運がいい」
     そう言われて、モールが首を横に振る。
    「いや、六つ目の狼に襲われたんだけどもね。燃やしてやった」
    「燃やし、……はぁ!?」
     狼獣人は目を丸くし、聞き返してくる。
    「アレを燃やしただと? どう言う意味だ?」
    「そのまんまの意味だね。跡形もなく、燃やし尽くしてやった」
    「冗談だろ?」
    「マジ」
    「……マジかよ」
     狼獣人は驚きで毛羽立ったらしい毛並みを整えつつ、こう返してきた。
    「詳しく話を聞かせてくれ。ソイツにゃ手を焼いてたんだ」
    「いいとも。……んで、アンタの名前は?」
    「ああ、そうだった。
     俺はラボ・ネール。ここいらの鉱山やら畑やら一帯を取り仕切ってる」

     場所をラボの家に移し、モールは六目狼を倒した話、エリザを自分の弟子として身柄を引き受けた話、そして魔杖を造るために原料を必要としている話を語った。
    「まじょう? まあ、何だか分からんが」
     話を聞き終えたラボは、まだ納得の行かなさそうな顔をしつつも、モールの頼みに応じてくれた。
    「マジにあの狼やらを倒せるってなら、青銅でも何でも、欲しいだけくれてやるよ。
     ただ、俺たちにもその、……何てったっけ、魔術? を教えてくれると助かるんだが」
    「使えるかどうかは別だけど、教えて欲しいってんならいくらでも。
     ついでにエリザ。今まで道すがらざっくり教えてたけども、ここらで君にもしっかり、基本を教えとこうかね」
    「はーい」



     エリザの故郷と違って、ラボが治めるこの村はよそ者に対して寛大であり、モールたちにも気さくに応じ、また、素直に話を聞いてくれた。
    (ってか、エリザんトコに馴染めなかったヤツらがこっちに流れて集まってきたって感じもするねぇ)
     モールは彼らの中にも魔術の素質がある者がいることを確かめた上で、エリザも交えて魔術の講義を行うことにした。
    「……ってワケで、基本的にゃ最後にキーワードを宣言するコトで発動するようになってるね。んじゃま、実践してみな」
     モールのざっくりとした指導に、皆それぞれ、魔術を使おうと試みる。
     が――。
    「……出ない」
    「どうやるんだ? こうか?」
    「出た? 出たのかこれ?」
     ほとんどの者が、まともに扱えないでいる。
     そんな中、一人空中に火球を浮かべていたエリザが、ぼそ、とつぶやく。
    「前から思てたけど、……先生、教えんの下手くそやで?」
    「マジで? いつも君に教えてるみたく、分かりやすく説明したつもりだったんだけどね」
    「ソコも前から言おうと思てたけど、アタシも『何やソレ? どう言う意味やろ?』って思う時、チョイチョイあるもん」
    「……マジかー」
     モールは肩をすくめ、苦笑いを返した。

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 3

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第46話。
    ブローアウト。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「ちょっと、エリザ?」
     立ち上がり、声をかけてみるが、返事は無い。
    「なんだよ、……ドコ行ったね?」
     傍らに立てかけていた魔杖を手に取り、モールは呪文を唱える。
    「照らしな、『ライトボール』」
     辺りが光球で照らされ、薄ぼんやりとだが把握できる。
    「足跡、……もある。こっちか」
     足跡をたどって数分もするうち、モールは湖の淵に座り込んでいるエリザを、難なく発見できた。
    「何してるね?」
    「『何してる』やないで、もう……」
     不満たらたらと言いたげな声色で、エリザが背を向けたまま答える。
    「先生、よだれだらーっとたらしとったで。おかげでアタシの耳、ぐっちょぐっちょやわ」
    「アハハ……、そうだったか。ゴメンねぇ」
    「落ちたからええけどさー」
     水面から顔を挙げ、エリザは狐耳をぷるぷると震わせ、モールの方を向いた。
     と――その顔に、ぎょっとした表情が浮かぶ。
    「……先生! 後ろ!」
     その言葉に、モールも振り返る。
     そこには数日前モールが仕留めたものと同型の、六つ目の巨大な狼が立っていた。
    「マジか」
     ぼそっとそうつぶやいたモールに応じるように、狼が「グルル……」とうなる。
    「まあいいや。ブッ飛ばしてやるね」
    「大丈夫かいな?」
     自分の背中にぴとっと張り付いてきたエリザの頭を、モールはぽんぽんと優しく叩く。
    「私を誰だと思ってるね?」
    「……大まほーつかい!」
    「ふっふっふ、そーゆーコトさね」
     モールは魔杖を掲げ、呪文を唱える。
    「撃ち抜いてやるね! 『フォックスアロー』!」
     紫色の光線が9つ、魔杖の先から飛び、尾を引いて六目狼へと飛んで行く。
     が――六目狼はその場でぐるりと回り、尻尾で光線を弾く。
    「んなっ……!?」
     その光景に、モールは唖然となる。
    「こりゃ予想外だね。そもそもケモノが弾くなんて行動を執るなんて思ってなかったし、そもそもあんな物理的に、払って弾けるようなものじゃ無いんだけども。
     となるとあの尻尾、魔術耐性があるってコトか。ミスリル化でもしてんのかねぇ、どう見ても生き物なのに」
    「何ゴチャゴチャ言うてんねんな! 来よるで!」
     狼を分析しかけたところで、エリザが服の裾を引っ張る。
    「おっとと、そうそう。考えるのは後にしないとね。……しゃーない、もっと大技かましてやるしか無いね」
     迫る狼に、モールはもう一度魔杖を向ける。
    「コレならどーだ、『ジャガーノート』!」
     魔杖の先から、今度はばぢっと電撃的な音が響く。
     次の瞬間、六目狼の体中から、ほとんど白に近い、超高温の真っ青な炎が噴き上がった。
    「ギャ……」
     六目狼が叫び声を挙げかけたが、それも途中で途切れ、バチバチと獣脂が燃え盛る音へと変わる。
    「うわあ」
     背後にいたエリザが、恐ろしげな声を上げる。
    「……やりすぎたかねぇ?」
     思わずそうつぶやいたモールに、エリザも無言で、こくこくとうなずいた。

     と――モールはどこからか、焦げた臭いが漂ってくることに気付いた。
    「ん……?」
     六目狼から臭ってくるのかと思ったが、脂のようなねばつく刺激臭ではない。もっと乾いた、木材のような臭いである。
    「先生! 先生て!」
     エリザが慌てた様子で、モールの服をまた引っ張ってくる。
    「どしたね?」
    「つえ! つえ! つえ、もえとる!」
    「へ?」
     そう言われて、モールは自分が握っていた魔杖に目を向ける。
    「……ありゃりゃ」
     エリザが言う通り、魔杖はバチバチと火花を上げながら、先端におごられた水晶ごと燃え上がっていた。
    「いくらなんでも負荷が強すぎたか。元々ピーキーな呪文の組み方してたし、そりゃオーバーロードもするってもんだね」
     モールは半ば炭化した魔杖をぽい、と捨て、エリザに向き直る。
    「ま、ソレはソレとして、どーにか倒せたね」
    「良かったけど、……つえ、無くなってしもたな」
    「あー、うん。ま、造ろうとしてたトコだし、無きゃ無いでどーにでもなるしね」
    「そうなん?」
    「あった方が便利なのは確かだけどね。……さーて、寝直しだね」
     モールはエリザの手を引き、自分たちが寝ていた場所へと戻った。

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 2

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第45話。
    モールの夢;荳芽ウ「閠??鬟溷酷鬚ィ譎ッ縲 。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     エリザの記憶に従い、モールたち二人はのんびりと西への道を進む。
     その道中、モールはこんな質問を向けてきた。
    「そう言やさ、エリザ。さっき『村の外の人と』って言ってたけど、他の村と交流があるの?」
    「どう言う意味?」
     尋ね返され、モールは「あー、と」と声を漏らす。
    「いやさ、あの村って排他的って言うか何て言うか、同じ村の人間じゃないヤツにゃ冷たそうな印象があったからね」
    「んー、まあ、ソコら辺は先生の言う通りって感じやね。手土産とか無しで村に来るような人は追い返されとるよ」
    「ああ、ソレは納得だね。んじゃ、何かしらの取引をしてるって感じか。
     そう言やこの辺りのカネって見たコトないんだけど、持ってる?」
    「ちょこっとやったら」
     エリザはポケットから、わずかに赤みを帯びた団栗大の粒をころころと取り出し、モールに渡す。
    「コイン、……じゃないんだね。コレ1粒でどんくらいの価値?」
    「どんくらい、って言うとー、……んー、3つでリンゴ1個くらい。
     あと、もうちょい大きいのんとか、もっと大きくて黒いのんとかもあるで。さっき言うてた取引ん時、お父やんがなんぼか受け取ってはった」
    「ふむふむ、……『黒いのん』ってのも実物を見てみたいけども、聞く感じじゃ結構値打ちが高そうだし、子供にゃ持たさないか。
     ま、村に着いたら何かしら大道芸でもやって稼いでみるかね」
    「だいどうげい?」
     尋ねたエリザに、モールはニヤッと笑って返した。
    「君に見せたような、鳥とか蝶とか飛ばすアレさね。結構綺麗だったろ?」
    「うんうん」
    「そーゆー滅多に見られないよーなモノを見せて、『感動した方はそのお気持ちをお代としてお支払い下さいな』っつって、小銭を稼ぐのさ」
    「んー……? うまく行くんかなぁ、そんなん」
    「まあ、君の村みたいにしょっぱくてケチ臭くってシケたヤツらばっかじゃ、赤粒いっこだってくれりゃしないだろうけどもね」
    「うん、そんな気ぃするわ」

     そんな風に、モールとエリザは取り留めもない話を重ねつつ、のんびりと歩みを進めているうちに――。
    「……あー、と」
    「どないしたん、先生?」
     尋ねるエリザに、モールは空を指差して見せる。
    「もう日が暮れそうだね。コレ以上進むのは危ない」
    「せやね。ほな、またこの辺で?」
    「だねぇ」
     二人は辺りを見回し、野宿ができそうな場所を探す。そしてすぐ、エリザがモールの袖を引いた。
    「あの辺とかどう?」
    「悪くないね。んじゃ、準備するかね。
     エリザ、そんじゃ……」「たきぎと食べれそうなのん、やね」「ん、ソレ」
     共に旅をして何日も経つからか、それともエリザが特別聡いからなのか――モールが大して指示も与えないうちに、エリザはきびきびと動き始める。
     10分も経たないうち、二人は野宿の準備を終え、焚き火を囲んでいた。
    「魔術ってホンマに便利やね。火もカンタンに起こせるし、食べもんに毒があるかどうかも分かるっちゅうのんは」
    「ふっふっふ」
     木の枝に挿したキノコを焚き火であぶりながら、モールは得意気に笑う。
    「何でもできる、……とは言い過ぎだけども、『ほとんど』何でも、だね」
    「『ほとんど』? びみょーな言い方やね」
    「できないコトは意外と多いさ。月へ行ったりもできないし、世界中を常春にするコトだってできない。死んだ人にも会えやしないしね」
    「そら誰かてでけへんやろ、あはは……」
     程良く焼けたキノコや木の実を頬張りつつ、二人は取り留めもなく話を交わしていた。



     腹もふくれ、眠気も感じたところで、二人はそのまま寄り添い、眠りに就いた。
     エリザの狐耳の、ふわふわとした毛並みをあごの辺りに感じながら、モールは夢を見ていた。

    「この体じゃ椅子に上がるだけでも億劫だね、まったく」
     もぞもぞと卓に着こうとしたモールを、誰かが後ろからひょいと持ち上げる。
    「ま、慣れるまで付き合うよ」
    「そりゃどーも」
    「ご飯できたよー」
     と、別の誰かがのんきな声を出しながら、鍋を両手で抱えて持って来る。
    「試しにさ、外に生ってた植物を煮込んでみた。ワラビっぽいから多分食べられると思う」
    「思う、……って」
     モールはげんなりしつつ尋ねる。
    「試食とか毒味は?」
    「まだ」
    「んなもん食わすなッ!」
     モールが声を荒げるが、この茶髪の彼は、全く意に介していないらしい。
    「んじゃ、今食べてみるねー」
     彼はそう言ってひょい、と鍋の中身をひとつまみ、口の中に放り込む。
    (コイツ、こう言う時ホントに躊躇しないなぁ)
    「うん。美味しいよ。ちゃんと出汁が染みてる」
    「う、うーん」
     いつもは穏やかに笑っている、この若白髪の青年も、この時ばかりは笑顔を凍りつかせていた。
    (でも確かに、匂いは悪く無さそうだ)
     モールは箸をつかみ、そのワラビっぽいものを口へと運んだ。
    (あ、マジでうまい)



    「……むにゃ……ん……エリザ?」
     ふわふわとした感触が、いつの間にかあごの辺りから消えていることに気付き、モールは夢の中から引き戻された。
    「……どした?」
     寝ぼけた目をこすりつつ、辺りを見回したが――エリザの姿は無かった。

    PageTop▲

    琥珀暁・錬杖伝 1

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第44話。
    放浪講義。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     無理矢理に付いてきたエリザを、モールは当初ひどく邪険にしていたものの、彼女に魔術の才能があり、かつ、聡明であることに気付いたことと、何より気が合ったことから――共に旅を始めて3、4日も経つ頃には、モールは気さくに話しかけるようになっていた。
    「昨日のは覚えた? 『ファイアボール』」
    「はい」
     にっこり笑って答えたエリザに、モールはちょん、と空に向かって人差し指を立てる。
    「やってみ?」
    「はーい」
     言われるがまま、エリザは呪文を唱え、モールがやってみせたのと同じように、空中に人差し指を向ける。
    「『ファイアボール』!」
     次の瞬間、ぽん、と音を立てて、彼女の握りこぶし程度の火球が空に向かって飛んで行った。
    「おー、上出来。……いやぁ、教えがいがあるね。今んトコ、全部使えてるしね」
    「えへへ……」
     と、エリザが照れ笑いを返したところで、モールは一転、神妙な顔をする。
    「……」
    「どないしたん?」
    「いや、……君さ」
     モールはエリザの手をつかみ、たしなめた。
    「火傷してるね」
    「……バレた?」
    「バレないワケ無いね」
     エリザの指先を治療しつつ、モールは彼女の術を考察する。
    「呪文聞いた限りじゃ、保護構文はちゃんとしてたね。となると原因は、パワーオーバーか」
    「ぱ……わ?」
    「君の魔力が強すぎて、私が組んだ呪文じゃ制御しきれてないってコトさ。
     とは言え、呪文を優しく書き直すなんてのもナンセンスだしねぇ。カンタンなコトしかやらないヤツは、いつまで経ってもカンタンなコトしかできないしね。
     となると……」
     モールは自分が持っていた魔杖をひょいと掲げ、こう続けた。
    「ちゃんとした装備を整えるか」
    「そうび?」
    「君の魔力に見合うだけの武器と、後、コレからの旅を安全に過ごせるような服装だね。
     ただ、服とかそう言うのはともかく、武器ってなるとねー」
     モールは困ったような表情を浮かべ、魔杖を下ろす。
    「魔力が活かせるような武器を造るのが、この世界じゃまず無理なんだよねぇ」
    「どう言うコト?」
    「設備も素材も無いってコトさ。実を言うとさ、私も今持ってるこの魔杖じゃ満足してないんだけどもね、かと言って納得行くレベルのモノを造りたくても造れないし。
     ま、設備の不足については魔術やその他知識でカバーできなくは無いんだけども、素材ばっかりは実際に無きゃ、どうしようも無いね」
    「ほな、どうするん?」
    「どうにかするとすりゃ……」
     そう言いながら、モールは懐から袋を取り出した。
    「あちこち旅する途中で、集めるしか無いね」
    「その袋って、もしかして……」
     目を丸くするエリザに、モールはニヤニヤと笑って返す。
    「そう、金さ。と言っても、君のお父さんからもらったとか盗んだとかじゃないね。君のお父さんが教えてくれた秘密の採取場で、私も採ってきたのさ。
     そうだ、ココでいっこ教えておこうかね」
     モールは袋の中の砂金をエリザに見せつつ、講義を始めた。
    「金とか銀、あと銅なんだけどね。この種の金属は魔術、って言うか魔力との親和性が高いんだね」
    「しんわせい?」
    「平たく言や魔力を溜めやすいし、放出もしやすい素材ってコトだね。
     だからその辺りの金属を素材に使えば、かなり質のいいモノができるね。……ま、この量じゃ杖一本ってワケにゃ行かないけども。せいぜいアクセントにするくらいだね。
     そもそも金単体じゃ柔らかすぎるし、杖本体にゃ銀とか銅の方がいいけど」
    「んー……? 杖いっこ造るのんに、結局何がいるん、先生?」
     尋ねたエリザに、モールは腕を組みつつ、ぽつりぽつりと答える。
    「そうだねぇ……、先端部分はやっぱり高純度の水晶がいいねぇ。柄の部分は最悪、ソコらの木材でも十分なんだけど、できるなら金属製にしたいね。頑丈だし。
     つっても銀や銅そのまんまじゃ、やっぱり柔らかすぎて使い物にならない。錫(すず)とか亜鉛とか、亜銅(ニッケル)と混ぜて合金にしなきゃ、まともなモノにゃならないね」
     そう聞いて、エリザは首を傾げる。
    「すず……」
    「どうしたね?」
    「すずってぽろぽろした、白っぽい金属のコト?」
    「まあ、金属なんて大体白か銀色だけどね。形は確か、君の言った感じだったと思う。
     もしかして採れる場所知ってるとか?」
    「知ってるっちゅうか、前にお父やんが村の外の人と話しとる時に、そんな感じの話聞いたなーって。その人からさっき言うた金属も見せてもろたし」
    「へぇ? ドコの人って言ってた?」
     そう問われ、エリザはもう一度首を傾げ、眉間にしわを寄せる。
    「えーっと、うーん……、えーとな、……確か、西の方から来たって」
    「西、ねぇ。君のいた村が東の端の方だったし、西ってだけじゃはっきりしないね。
     ま、ある程度の目星は付くか。金属持ってきたってんなら、鉱山が近いだろうしね」
     モールはきょろ、と辺りを見回し、山を指差した。
    「道もあっちに続いてるし、あっちに向かってみるかね」
    「はーい」

    PageTop▲

    イラスト;狼獣人

    イラスト練習/実践

    前回に引き続き、自分の診断メーカー「ケモノったー(ヒロイン攻略編)」で出た結果を元に、イラストの練習。

    今回の結果はこちら。

    黄輪さんが攻略するのは銀色の髪で、緑色の毛並みの不思議系狼っ娘。
    好きなことは音楽を聞くこと、嫌いなことは買い物。
    夏休みに美術館へ誘うと好感度アップ!
    攻略難易度:★★
    #aukemono
    https://shindanmaker.com/718478


    まず線画版。

    不思議系には何故かつき物のぬいぐるみ。
    この娘をデートに誘ったら、「寂しがるかもだから、
    ウルちゃん(熊のぬいぐるみ)とラピちゃん(兎のぬいぐるみ)も連れてってあげたいなーって」とか言いそう。

    そしてカラー版。

    今回は綺麗な色合いが出せました。

    ちなみにドット絵描いてる頃からの持論ですが、
    「銀色=灰色」と考えて、そのまんまイラストに用いるのは、出来栄えがあまり良くありません。
    例えばド直球の灰色、「#C0C0C0」はこういう色になりますが
    このページの薄い背景色はおろか、テキストの黒にも負けるくらい、他の色に対して印象が弱いです。
    極端に印象の弱い色であるため、単純に灰色を使うと、バランスが悪いと言うか、「汚い」絵となってしまいます。

    そしてもう一点、「銀色」は光沢色、つまり光を反射する色でもあります。
    灰色を使うとその「光の反射」を無視したもの、つまり何の反射もしていない状態となってしまい、現実に即しません。
    また、現実において光の反射は、往々にして空気を介して行われています。
    さらにこの空気、ごくごく薄いながらも青色を帯びています。
    (実際に晴天を見上げれば、分厚い空気の層、つまり何重にも重なった空気が青色に見えることが分かります)

    なので、「銀色を表現したい」と言う場合には、ほんのちょっと青色を足すと発色が強くなり、かつ、リアリティが出ます。
    まだまだ技術の拙い自分ですが、上記意見、参考にしていただければ幸いです。

    さらに背景も追加。

    前回に引き続き、京都にある美術館の画像を流用。
    でも行ったことないんですよね……。
    植物園とかなら自分一人でも行きたくなるんですが。

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 6

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第43話。
    強情。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     村に戻ったところで、苦い顔をしたヨブが出迎えた。
    「何のつもりですか、モールさん」
    「私が誘拐したって思ってんなら、ソレは不正解だね。エリザが勝手に付いてきたのさ。だから連れ戻したってワケだね」
     モールからそう説明されるが、ヨブは依然として、表情を崩さない。
    「……まあ、そうやろなっちゅう気もしてましたわ。ともかく、家に戻りましょ」
     そう言って踵を返しかけたところで、エリザが言い放った。
    「帰らへんよ」
    「は?」
     ヨブが振り返ると同時に、モールがエリザの頭をぺちんと叩いた。
    「アホっ」
    「いったー……、もう、ええかげんにしてーな。ホンマにアホになるやんか」
    「もうとっくにアホだっつーの。なんべん言えば分かるね!?」
    「……大体察しました」
     と、ヨブは呆れた顔を見せる。
    「エリザ、お前が行きたい行きたい言うて、モールさんとこに付いて行ったっちゅうことで間違い無いな?」
    「うん」
    「やっぱりか」
     そう言うなり、ヨブはエリザの側に寄って、ばしっと彼女に平手打ちした。
    「いたあっ……!?」
    「わがまま言うんも大概にせえ! モールさんがどんだけ困っとるか、分からへんのか!」
    「……分かってへんのはお父やんやろ」
     真っ赤になったほおに手も当てず、エリザは言い返す。
    「アタシはモールさんに付いてって、ベンキョーしたいねん。
     このまんま村にいとっても多分、お父やんのアトついで、お父やんみたいに村中から『どんくさいヤツ』って後ろ指さされるだけやん」
    「んなっ……」
     ヨブの顔に怒りの色が差すが、エリザは止まらない。
    「アタシはそんなん、だれにも言わせへん。『エリザはすごいヤツやで』って言わせたるんや」
    「……~っ」
     ヨブは顔を真っ赤にし、ついにこう言い捨てて、背を向けてしまった。
    「そんなら勝手にせえ! もうお前なんか知らん!」
    「……」
     そのまま歩き去っていくヨブを眺めつつ、モールがエリザの手を引く。
    「ホントにおバカか、君。ちゃんと謝れって」
     対するエリザは、キッとモールをにらみ返す。
    「アタシがあやまるコトなんか何もない。周りから言われとるコト、そのまんま言うただけや」
    「んなコト言ってるうちは、絶対連れてかないよ」
    「せやったら勝手に付いてく」
    「なら蹴っ飛ばす」
    「ならけり返す」
    「……」「……」
     そのまま、二人でにらみ合い――。
    「……この強情娘め」
     モールは杖の先で、エリザの頭をがつんと殴った。
    「あだっ……!」
    「最後通牒だ。私に付いてって殴られまくるか、お父さんのトコに謝りに行くか、今選べ」
     エリザの頭から、血がポタポタ流れている。
    「じゃあね」
     モールも踵を返し、そのまま村の外まで歩き去った。

     村の外に出て、モールは振り返る。
    「……とことんまでアホか、君は?」
     そこには血と涙を流しながら付いて来る、エリザの姿があった。
    「アホでもっ、なんでも、……グスっ、行くって決めたんや、……ひっく、死んでも付いてくで、……ひっく、モールさん」
    「ああそうかい、分かったよ」
     そう言ってモールは、魔杖を振り上げた。
    「……っ」
     それを見てエリザは頭を抱え、しゃがみ込む。
     が――モールは魔杖の先をとん、とエリザの頭に置き、呪文を唱える。
    「『キュア』」
    「……え?」
    「治療術の初歩だね。実演は今の一度きり。呪文は今日だけ教えてやる。後は自分で練習しろ。明日までにできなきゃ今度こそ帰れ。
     分かったね?」
    「……」
     エリザはぽかんとした顔で立ち上がり、綺麗に傷が消えた自分の頭を撫で、それからうなずいた。
    「……うん。分かった」



     ここから「大魔法使い」モールと少女エリザの旅が――即ち、歴史上最初の大英雄と称される、彼女の物語が始まる。

    琥珀暁・狐童伝 終

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 5

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第42話。
    モールの夢;荳也阜蟠ゥ螢翫↓轢輔@縺滉ク芽ウ「閠?→縲∽ク峨▽縺ョ蝠城。後? 。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     翌日、モールはヨブたちの住むこの村に自分も滞在できないかと調べてみたが、3時間も経たないうちに、その案が実現できそうにないことを悟った。
    (ダメだこりゃ)
     村の人間はかなり猜疑心が強く、「よそ者」のモールに対し、敵意を剥き出しにして接してきたからだ。
     そればかりか、彼らの中にはモールへいきなり殴りかかってくるような者さえおり、そうした粗暴で野蛮な人間を嫌うモールは、この村に留まることをあきらめるしか無かった。
    (あーあ……、残念だね。折角アレほどの逸材を見付けたって言うのにねぇ)
     モールは渋々、村から出る支度を整えることにした。

     その日の昼過ぎには旅支度が終わり、モールはヨブたちへの挨拶もそこそこに、村を出て行った。
    「あー……、エリザのコトでちょっとウキウキしてたけど、その他で全部帳消し、って言うよりマイナスだねぇ。
     もう二度とあんな居心地悪い村に来るコトは無いだろうね」
     そんなことを一人、ブツブツとつぶやきながら、モールは村から北へと進み、やがて海岸へ行き着く。
    (そー言やハラ減ったねぇ。魚とか捕れるかなぁ)
     モールは荷物を木陰に下ろし、魔杖に紐と針を付け、釣りを始めた。
    「……ふあぁ」
     が、始めて10分もしないうち、モールは眠気を覚える。
    (ちょっと寝るか。自動で釣れるように魔術かけときゃいいし)
     モールは魔杖に魔術をかけ、その前でごろんと横になった。



     うとうととし始めたその刹那、モールは一瞬だけ、夢を見た。

    「無いコトは、無い」
     そう返した彼に、モールは問いかける。
    「ドコ?」
    「北中山脈。ボクたち一門がもしものために作ったモノがあるんだ」
    「行こう」
     もう一人が立ち上がる。
    「これ以上、じっとしてはいられないよ」
    「賛成」
     モールも続く。
     が、彼は苦い顔をする。
    「問題が3つある」
    「3つ? 何さ」
    「第1。モール、キミの……」



    「……ん、あ?」
     はっと目を覚まし、モールは上半身を起こす。
     と同時に、視界に金と赤の、ふわふわした毛並みが映った。
    「……あ?」
     モールが間の抜けた声を上げた途端、その毛玉がふわっと震え、持ち主が振り返った。
    「あ、おはよう、モールさん」
    「……いや、おはようじゃなくってさ、エリザ」
     モールは上半身を起こし、エリザをにらむ。
    「君がなんでココにいるの? もう村から大分離れたはずなんだけどね」
    「こそっと付いてきてん」
    「付いてきてん、……じゃないね」
     モールは呆れつつ、エリザにデコピンする。
    「あいたっ」
    「さっさと帰るよ。私ゃ旅に出るつもりなんだし、コレ以上村に滞在する気も無いしね」
    「あ、ソレなんやけど」
     エリザはにこっと笑い、こう続けた。
    「アタシも旅、一緒に行きたいなーって」
    「は?」
     モールは再度、エリザにデコピンする。
    「あいたっ、……何やのん、さっきからアタシのおでこ、ぺっちんぺっちんしよって」
    「そりゃするさ。寝ぼけたコト抜かしてるからね。
     いいかいエリザ、君のお父さんと話し合って、連れてけないし私も住めないって結論になったってコト、横で聞いてたろ?」
    「そんなん、お父やんとモールさんが勝手に話しとったコトやん。アタシは行く気満々やし」
    「アホか。君みたいなちっちゃい子が勝手に行きたいだの何だの言って、ソレが通ると思ってるね?」
    「通すもん」
    「どーやら3回目のデコピン食らいたいみたいだね、このアホは」
    「アホ言うなや、……ていっ」
     言うが早いか、今度はエリザがモールにデコピンした。
    「うわっ!? ……こんのおバカっ」
    「アホ言う方がアホやもーん。……まあ、このまんま出てったら、確かにお父やんもニコルも心配するやろし、いっぺん帰ろ?」
    「君が決めるコトじゃないっての。……とは言えだ。君の言う通りだし、帰るけどもね」
     モールはエリザの手を引き、渋々村へと引き返した。

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 4

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第41話。
    MUAF(マフ)。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「どないしたん、モールさん?」
     家の外に出たところで、モールはエリザに魔杖を向けた。
    「検査だね。今の今までそんな可能性をまったく考えもしなかったから、今めちゃくちゃビックリしてるんだけどもね、よくよく考えりゃ、有り得る話ではあるんだね」
    「何が?」
    「マフって私らが呼んでるモノがあるんだけどね」
     モールは説明しつつ、呪文を唱え始める。
    「魔術使用可能因子(Magic Using Available Factor)、その頭文字を取ってマフ(MUAF)。
     コレはヒトだとか、多少脳みその進化した生き物の中に含まれるコトがあるモノなんだけどもね」
    「……?」
     モールの説明に、エリザはきょとんとするばかりである。
    「あー、いいや、ともかく魔術が使える素質だね。逆に言えば、ソレを持ってないとまず、魔術は使えない。
     何で私がこんなにビックリしてるかって言うとね、元々私がいた世界じゃ、生まれながらにしてコレを持ってるヤツは、100万人に1人だとか、1000万人に1人だとか言われてたからさ。
     ソレなのにさ、今日偶然会った君がマフ持ちだなんて、誰が予想するかってね。……いや、でもこの世界は、私の世界とは大きく在り様が異なってるもんねぇ。君みたいにふわふわで超可愛い耳と尻尾を持ってるヤツなんて、私のトコじゃ一人も見かけなかったしね。
     だから逆に、ココはそーゆー世界なのかも、……っと」
    「えーと……?」
     話に付いていけていないらしく、エリザは戸惑った様子を見せている。しかしモールはそれに構わず、話を続けていた。
    「検査終了だね。やっぱりエリザ、君はマフ持ちだった。しかもコレは、……いや、……もしかして……だとすると……」
     それどころか、モールは一人でぶつぶつと独り言を始めてしまい、エリザは完全に放置されてしまった。
    「……んもぉ、何やのん?」
     エリザは唇をとがらせながら、モールの尻尾をぐにっと握り締める。
    「……つまりこの世界は派生型の……うぎゃあ!?」
     尻尾を締められ、モールは大声を出して飛び上がった。
    「いてててて……、うー、尻尾ってこんなに敏感なんだね、……じゃないや。
     何すんのさ、エリザ?」
    「こっちのセリフやん。何やワケ分からんコトぎょーさんブツブツ言うて、何なんっちゅう話やん?」
    「あー、そうだったね。ゴメンゴメン。……えーと、まあ、ともかく。
     結論から言うとエリザ、君には魔術を使える素質があるね。ソレもかなりの素質だ。ちょっと修行すれば、私みたいにひょいひょいっと扱えるようになるかも知れないね」
    「え、ホンマに?」
     モールにそう聞かされ、エリザは目を輝かせた。
     と、家からヨブが出てくる。
    「どないしはったんです、モールさん? ウチの子に何かありました?」
    「ん? ああ、まあ、色々ね。
     んじゃ、詳しいコトはご飯の後に話そうか、エリザ」
    「はーい」

     そして夕食を終えた後、モールはヨブたち一家を並べ、こう切り出した。
    「ヨブ、君の娘さんには稀有な才能があるね。私が君を助けるのに使った、魔術の才能がね」
    「はあ」
    「でもコレは、放っといて伸びるような才能じゃないね。誰かが使い方を教えなきゃ、一生埋もれたままの才能だ。
     だからヨブ、私はこの子に色々教えてやりたいんだけど、構わないかね?」
     そう問われ、ヨブはけげんな顔になる。
    「教える、……ちゅうのんは、モールさんがこの村に住んで、っちゅうことですか?」
    「ソレか、私の旅にこの子を連れていくかだね。
     勿論、まだ10歳にも満たなさそうな幼子をウロウロ連れ回すなんてかわいそうだし、できれば前者がいいよね。
     だけどもし、この村が私を受け入れないってコトになったら、その時は私に預けてほしいんだよね」
    「無茶言わんで下さい」
     モールの提案に対し、当然ヨブは渋る。
    「今日会ったばかりのあんたに、娘を預けろと?」
    「分かってる。無茶だってコトは、十分承知さね。
     でもソレだけの価値がある。だからお願いするのさ」
    「うーん……」
     ヨブは眉間にしわを寄せ、うなるばかりである。
     その後もモールは熱心に説き続けたが、結局ヨブは、首を縦に振ることは無かった。

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 3

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第40話。
    二人の邂逅。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     と、玄関の戸が開く気配がする。
    「おう、おかえり」
     玄関に向かってヨブが声をかけ、幼い子供の声が2つ、重なって返って来る。
    「ただいまー」
    「ん? 君、子供いたの?」
    「ええ。さっきも言いましたやん、奥さんおったって」
    「ああ、そっか、そうだっけね」
     程無く、狐獣人の子供が2人、居間に入ってきた。
    「……お客さん?」
     きょとんとした顔で尋ねた女の子に、モールは手を振る。
    「ああ、お邪魔してるね」
    「は、はじめまして」
     女の子の陰に隠れつつ、その子の弟らしき男の子が挨拶する。
    「はーい、はじめまして」
     そう返したモールを見て、ヨブが苦笑する。
    「モールさん?」
    「なんだよ」
    「子供、お好きなんです?」
    「なんで?」
    「顔、めっちゃニヤけてますで」
    「……」
     恥ずかしかったのか、モールは三角帽子を深めに被り、ぷいっと顔を背けてしまった。
     しかし子供たちは意に介していないらしく、モールが顔を背けた方向へぐるっと回り込む。
    「モールさんて言うのん?」
    「ん、ああ。モールだ。よろしくね」
    「よろしゅう、モールさん」
     女の子はにこっと笑い、こう返した。
    「アタシはエリザ。後ろのんが弟のニコルです」
    「ああ、うん。どうもね、エリザにニコル」
     顔を隠していてもモールが赤面しているのを察したらしく、ヨブはこの間、くっくっと声を漏らし、笑いをこらえていた。

     ヨブがにらんだ通り、やはりモールは、子供に対して非常に好意的であるらしかった。
    「ほーら、今度はちょうちょだ」
     会って30分もしないうちに、モールはすっかりヨブの子供たちと仲良くなっていた。
     モールが魔杖の先にぽん、と光を浮かべ、それを鳥や兎、猫など様々な形に変えて天井高く飛ばすのを、子供たちは目をキラキラと輝かせて眺めている。
    「なぁ、なぁ、モールさん! 次は? 次は?」
    「ふっふ、お次はー……」
     言いかけて、モールは「おっと」とつぶやいた。
    「もう日が暮れる時間か。そろそろお暇しなきゃね」
    「えー」「もっと見せてーな」
     去ろうとするモールを、子供たちが引き止める。
     そしてヨブも、子供たちに続いた。
    「モールさん、今日はウチに泊まらはりませんか? ちゅうか、そのつもりで用意しとったんですけども」
    「え? ……あー、君がいいってんなら、お言葉に甘えちゃおうかね」
     モールの返事を受け、ヨブは嬉しそうに笑みを浮かべる。
    「ええ、是非。もうそろそろご飯の用意もできますんで、もうちょっと待っとって下さい」
    「あいあい。んじゃエリザ、お次は何が見たいね?」
    「えーと、えーと……」
     エリザは口ごもり、手をパタパタさせている。どうやら見たいものが、言葉でうまく表現できないらしい。
    「なんだろ? 動物かね?」
    「うん、あのー、おっきいやつで、しっぽがあって、あしが長くて、かおも長くて、……何て言うたらええんやろ、えーと」
     そう言って――エリザはくい、とモールの魔杖をつかみ、引っ張った。
    「こんなん」

     直後、笑っていたモールが目を見開き、絶句する。
     自分の魔杖の先から、光る馬がひょい、と飛び出し、天井に向かって走り去ったからだ。
    「……え?」
    「あ、コレ。コレやねん」
    「ちょ、……君? 今、どうやったね?」
     モールは血相を変えて、エリザに尋ねる。
     が、エリザはきょとんとした顔で、何の裏も悪気も無さそうな口調でこう返した。
    「どうって、今モールさんがやらはったみたいな感じで、でけるかなー思て」
    「でけるかなー、……じゃないね。確かに呪文は口で唱えてはいたけども、ソレを全部覚えたっての? しかもアレンジまでして」
    「うん」
    「じょ、冗談じゃないね!」
     モールは唖然とした様子を見せ、エリザの頭をぺちっと叩く。
    「あいたっ?」
    「んなコト、チョイチョイっとできるもんじゃないね!
     呪文の構文からして、この世界の言葉じゃないんだよ!? しかも『こっち』の言葉で応用利かすなんて、とんだ離れ業だね! あまつさえ、魔術はマフ持ちじゃなきゃ、……いや、こんなコト君らに言ったって何が何やらだろうけどもね、……ああ、いや、いいや。
     エリザ、ご飯前に何なんだけどね」
     モールは慌てた素振りでエリザの手を引き、屋外へ連れ出した。

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 2

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第39話。
    砂金と宝飾屋。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「うん、いいね。かっこいいデザインだ」
     ヨブからもらった腕輪を早速身に付け、モールは嬉しそうな声を漏らした。
    「ですやろ?」
    「山で見た格好からじゃ、こんないいセンスしてるおっさんだとは思わなかったね。いや、私の見る目もまだまだって感じだね」
     砂金の採れる山を降り、麓の村に戻ったヨブは早速モールを自分の家に招き、助けてもらったお礼にと、自分が造った腕輪を渡した。
     モールはその腕輪がすっかり気に入ったらしく、右腕に付け替えたり、左腕に戻したりして、ずっといじくり回している。
    「正直言や、こんな原始スレスレの世界じゃろくなものも手に入らないだろって思ってたけど、なかなかどうして、こんなにいい逸品をもらえるなんて思ってもなかったね。
     いやいや、見直したよ、ヨブ」
    「ほめられとるんかけなされとるんか、よお分かりませんなぁ」
     苦い顔を向けたヨブに、モールは「いやいや」と肩をすくめて返す。
    「ほめてるさ、素直にね。
     ……ってか、そうだ。ちょいと色々聞いてもいいね?」
    「なんでっしゃろ」
    「いやさ、私ゃコレまであちこち回ってきたんだけどもね、ココみたいに大きな村は初めて見るんだよね。ざっと見た限りじゃ、商売してたりおめかししてたり、かなり文化的なコトしてたみたいだしね。
     他んトコはもっとちっちゃくまとまってるか、さもなくばグチャグチャに引っ掻き回されて壊滅してるかって状態だったんだけどもね」
    「さっきのんみたいなバケモノが時々出る、みたいな話はわしもよお聞きますな。
     ただ、ここは狡(こす)い奴が仰山おりまして、落とし穴掘ったり落石使うたりとか、罠を仕掛けて撃退しとるんですわ」
    「はっは、すごいねぇ。なるほど、ソレでこの村は他に比べて文化的だってワケか」
    「ちゅうても万全、盤石っちゅうわけには行きませんけどな。さっきのわしがええ見本ですわ。恥ずかしながら、わしは昔っから鈍臭い、鈍臭いとよお言われとりまして」
    「センスはいいのにねぇ」
     モールにそうほめられたものの、ヨブは肩をすくめ、こう返す。
    「それだけで生かさせてもろてるようなもんですわ。正直、装飾具造る腕あらへんかったら、カネも手に入りませんやろし、飯も住むとこもさっぱりでしたやろし」
    「あん?」
     モールは納得が行かない、と言いたげな表情を浮かべる。
    「君、卑屈になりすぎじゃないね? 宝飾屋だって立派な仕事だね。君がいなきゃ、その腕の立つ奴らはみんな、クソダサいまんまだろ?」
    「……ぷっ」
     モールの言葉に、ヨブが噴き出した。
    「はは……、そうですわ。言うたらそうですな」
    「だろ? 後ろめたく思う必要、全然無いってね。そんな風に自分を卑下してばっかじゃ、女も寄ってこないね」
    「あー……、いや、わしにはもう、十分ですけどな」
     そう返したヨブに、モールはけげんな表情を浮かべる。
    「って言うと?」
    「わし、昔おったんです、奥さん。今はもう、亡くなってしもたんですけども」
    「ありゃ、そうだったか。ゴメンね、変なコト言って」
    「いやいや、そう思うんも無理は無いですわ。こんなしょぼくれたおっさん……」
     言いかけたヨブの鼻を、モールがつかむ。
    「ふひゃっ!?」
    「だーから言ってるじゃないね、卑屈になるなって。君の腕は確かだ。私がバッチリ保証してやるね」
    「は、はんはひほひょうひゃれひぇひょ……(アンタに保証されても……)」
    「なんだよ、私じゃ不満だっての? えっらそうにしちゃってねぇ」
     モールは鼻をつかんでいた手を、ぴっと離す。その拍子に、ヨブの口と鼻から妙な音が漏れた。
    「ぷひゃっ!」
    「アハハ、『ぷひゃ』だって、アハハハハハハ」
     モールは顔を真っ赤にするヨブを見て、ゲラゲラと笑い転げていた。

    PageTop▲

    琥珀暁・狐童伝 1

    琥珀暁 第2部

    神様たちの話、第38話。
    大魔法使いの登場。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     その巨大な山々の北から先で闊歩していたように、その山の南でも、「バケモノ」が人を襲っていた。
    「ひっ、ひっ、ひいっ……」
     腰に提げた袋からぽろぽろと、眩く光る砂をこぼしながら、男は山道を転がるように走っている。
    「アカンてアカンてアカンて……ッ!」
     男は叫び、喚き散らしながら全力疾走していた。そうしなければ、死ぬのは明らかだったからだ。
     男の背後には、異形の獣が迫っていた。一見、狼にも見えるその姿は、良く確認すればあちこちに、奇形じみた特徴が見られる。口に収まりきらぬ牙、明らかに脚先より長い爪、そして他の動物にはまず見られない、6つの爛々と光る、真っ赤な目――それは正に、「バケモノ」と呼ぶにふさわしい、恐るべき獣だった。
    「助けてえええ! だっ、誰かあああ……ッ!」
     そう叫んでも何の助けも来ないことは、明らかであるように思えた。

     その時だった。
    「ほい」
     ボン、と音を立て、六つ目の狼の片脚が爆発、四散する。
    「……お、……え、……な、何?」
     来ないはずの助けをうっすら期待しつつ逃げ回っていた男も、そんな光景が実際に繰り広げられるとは想像しておらず、思わず足を止める。
    「あんた、助けてって言ったじゃないね」
    「え? ……え? 誰?」
     声のした方を向くと、そこには三角形でつばの広い帽子を深く被った、猫獣人らしき男の姿があった。
    「い、今の、アンタがやったん?」
    「ああ。……あーっと、まだ動くなってね」
     猫獣人は杖を掲げ、残った脚をガクガクと震わせて立ち上がろうとする六目狼の前に立ちはだかる。
    「きっちり燃やしといてやろうかね。『フレイムドラゴン』!」
     ぼ、ぼっ、と音を立て、人の頭ほどもある火球が5つ、六目狼の頭と胸を刺し貫く。
    「ゴバ、……ッ」
     六目狼は残った口から大量の血を吐き、どしゃっと水気を含んだ音を立てて、その場に崩れた。
    「……な、何なん? アンタ、何者や?」
     死の危険が去ったことはどうにか理解したものの、男は別の恐怖を、その三角帽子の「猫」に抱いていた。
    「何者って? まあ、んー、何て言えばいいかねー、……じゃあ、大魔法使いとでも」
    「大、……まほ、……う?」
     猫獣人の言っている言葉が――意味が、ではなく、単語そのものが――分からず、男は呆然としながら聞き返す。
    「あー、何でもいいね。説明、めんどいしね。
     ともかくさ、助けてもらったヤツに対してさ、何か言うコト無いね?」
    「……あ」
     男はそれを受けて、どうにか平静を取り戻した。
    「ありがとうございます、……えーと」
    「ん?」
    「あの、お名前は」
    「あ、私の? んじゃ、モールで」
    「モール……、モールさん、ですか」
     名前を繰り返した男に、モールは口をとがらせる。
    「人の名前聞いたんだから、あんたの方も名乗ってほしいんだけどね」
    「え、わし? ……あ、そうですな、ええ。わしはヨブと申します。ヨブ・アーティエゴです」
    「ん。よろしくね、ヨブ」
     そう言ってモールは、ヨブと名乗った狐耳の男に笑いかけた。

     そのまま二人で下山しつつ、モールはヨブから色々と話を交わしていた。
    「へー、砂金ねぇ」
    「そうなんですわ。さっき会うたとこからもうちょい上の方に洞窟みたいなんがあるんですけども、そん中に川がちょろっと流れとりましてな」
    「地下水脈か。そん中で採れるってコト?」
    「ええ。割りと適当にざばっと掬(すく)うても、結構キラキラっと採れるんですわ」
     そう言ってヨブは腰に提げていた袋を開き、モールに中身を見せる。
    「確かにキラキラしてるね。で?」
    「で、……ちゅうと?」
    「キラキラしたの取れましたー、わーい、……で終わりじゃないよね?」
    「そら、まあ。後は鉛を混ぜて溶かして、より大粒の金を取り出します。
     ほんで、それを指輪とかピアスとかに飾り付けするのんを生業にしとります」
    「宝飾屋ってワケか。……にしちゃ、飾りっ気無い格好してるね」
     モールにそう評され、ヨブは反論する。
    「いやいや、砂金採りするのんに小洒落た格好してどないしますねん」
    「ああ、そりゃそうだね。じゃ、自宅じゃソレなりにカッコ付けてるワケだね」
    「そら、もう」

    PageTop▲

    イラスト;猫獣人

    イラスト練習/実践

    前回の記事でも書きましたが、最近「診断メーカー」で2つ、診断を作りました。
    で、自分がやってみた結果がこちら。

    黄輪さんが攻略するのは緑色の髪で、桃色の毛並みのゴスロリ系猫っ娘。
    好きなことは読書、嫌いなことは旅行。
    夏休みに路地裏の店へ誘うと好感度MAXに!
    攻略難易度:★
    #aukemono
    shindanmaker.com/718478


    で、描いてみました。
    まず線画版。

    ゴスロリ衣装には疎いですが、何とかそれっぽいのが描けたはず。

    そしてカラー版。

    しかし……、緑にピンクて。
    色合いが真逆なのはアンバランスに思えます。

    さらに背景も追加。

    京都の先斗町の画像を流用。
    楽しい裏路地です。
    ちなみに同診断ではデート先に「河原」が出ることがありますが、
    京都人ならどこの河原か、ピンと来ますよね。

    PageTop▲

    ««

    Menu

    検索フォーム

    最新記事

    最新コメント

    カテゴリ

    プロフィール

    黄輪

    Author:黄輪
    猫と中華と可愛いものが好きなモノ書きです。ドット絵も描けますよ(*゚ー゚)ノシ

    ブロとも申請フォーム

    オンラインカウンター

    現在の閲覧者数:

    現在の閲覧者数:

    QRコード

    QRコード