黄輪雑貨本店 新館

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 9

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第9話。
    怪物。

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    9.
     ロー拘束から時間は進み、同日、夜7時。
     じりりん、と鳴った電話を、ディミトリが取った。
     いや――。
    「はい、こちらレッドラクーン・ガンスミス。……ああ、いやいや、マドモアゼルでしたか」
     ディミトリの姿をした男は、相手の声を聞くなり、己の声色をガラリと変えた。
    「……ええ、ええ。問題はありません。たまに来る組織かららしき電話も、適当にあしらっております。……ええ、疑っている様子など、まったく。と言うより、そんなことは端から想定していないのでしょう。
     まさかディミトリが既に、我々の手に落ちているなどとは、……ね」
     そう言いつつ、ディミトリ――に変装したイクトミは、目の前に座らされている、本物のディミトリを見下ろす。
    「……」
     拘束されたディミトリが忌々しげな目で見つめていることに気付き、イクトミは彼に対し、恭しく会釈して返す。
    「では予定通り、明日3時に。……はい、……はい、では」
     電話を終え、イクトミはディミトリに尋ねる。
    「如何されましたか、ディミトリ?」
    「……その気取ったしゃべり方をやめろ、アレーニェ。気に障る」
    「ははは」
     突然、イクトミは乾いた笑い声を上げる。
    「なっ、何だ?」
    「じゃあ僕からも提案だ、ディミトリ。僕のことをアレーニェと呼ぶのはやめろ」
    「何だって?」
    「その名前は強制的に与えられた、僕にとって嫌な思い出しか無いものだ。
     今の僕は、イクトミだ。僕のことを呼ぶのなら、そう呼べ」
    「……何だっていい、お前が名乗りたい名前なんか、僕の知ったことじゃない。
     とにかくこんな馬鹿げた真似は、すぐにやめるべきだ。組織の恐ろしさは、いや、兄貴の恐ろしさは、あんたが一番、身を以て知ってるはずだ。
     特にその右目に、しっかりと刻まれてるはずだよな?」
     ディミトリのその一言に、イクトミの笑顔が凍りつく。
    「あんたはけったいな白スーツで現れたり気持ち悪いしゃべり方したり、道化芝居が随分上手みたいだけど、その目だけはごまかせないみたいだな。
     その右目、兄貴にやられてるって聞いたぜ。一応目玉は残ってるみたいだけど、ほとんど見えやしないんだろ? へへ、へ、へっ」
    「……」
     次の瞬間――ディミトリの右膝から、血しぶきが飛び散る。
    「はぐぁ……っ」
    「僕を愚弄することこそ、やめるべきことだ。今の君は、僕に生殺与奪のすべてを握られているのだから」
    「はぁ……はぁ……」
     ディミトリが顔を真っ青にしたところで、イクトミの背後から「やめたまえ」と声がかけられる。
    「他ならぬエミル嬢の頼みで、わざわざギルマン捜索を延期してまで確保した人質だ。殺しては、全てが水の泡だ。
     君の冷静は、うわべや演技では無いだろう?」
    「……ええ」
     イクトミはアーサー老人にす、と頭を下げ、それからディミトリに止血を施した。
    「弾はかすらせただけです。死に直結するようなものではございません」
    「うむ、いつもの君だ。
     さて、ディミトリ君。明日には君の兄、トリスタン・アルジャンがここへ到着するわけだが、君は兄にどの程度勝算があると思っているかね?」
    「……100%だ。兄貴がこの程度の策や罠なんかで、やられたりするもんか」
    「論理性を重視する君のことだ、何か明確な根拠があるのだろう? 言ってみたまえ」
     アーサー老人に尋ねられ、ディミトリは脂汗の浮いた顔でニヤっと笑った。
    「論理だって? あの人に論理なんか、何の意味も成さないよ」



     突然頭が吹き飛んだ同僚を目の当たりにし、局員たちの顔が恐怖で凍りつく。
    「なっ、あ……」
    「す、スティーブ、……スティーブ!?」
    「ち、……畜生ッ!」
     振り向こうとしたその直後、さらにもう一人、ぼごんと胸に大穴が空き、大量の血しぶきを上げる。
    「ひっ……」
    「しょっ、ショットガンだ! 隠れろ!」
     どうにか壁に潜み、局員たちは混乱を抑えようとする。
    「何でだ!? あれだけ撃ち込んで、何故生きてる!?」
    「そもそも変だろ!? 反撃してくるなんてよぉ!? できるわけねーじゃねーか!」
    「ひっ……ひっ……はっ……ダメだ、ダメだ、ダメだ……」
     だが、一瞬の内に同僚2名が惨殺され、彼らは半ば錯乱しかかっていた。
    「……怪物(モンスター)……!」
     誰からともなく漏れ出たその言葉に、その場にいた全員の絶望感が表れていた。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 8

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第8話。
    策謀巡る捜査線。

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    8.
     決戦前日の午前7時、ジョージタウンの次の駅、トマスリバーにて。
    「それじゃ皆、出発だ」
     半数を前の駅に残し、10名となった人員を前にし、ローは指示を出す。
    「次の便に乗り込み、スリーバックスに到着後、マーティン班は貨物車に潜んで待機。午後1時になったらビル前の第1ポイントに向かってくれ。
     バロウズ班は到着後すぐに駅を出て、第2ポイントに。それから俺の班は、午後2時まで駅で待ってから、第3ポイントに行くぞ」
    「……」
     ところが――誰ひとりとして敬礼もせず、姿勢も正さず、「了解」の一言も発しない。
    「なんだ?」
     ローがけげんな顔をし、尋ねたところで、背後からとん、と肩に手が置かれる。
    「え……」
     振り向いた次の瞬間、前の駅で降りたはずのダンが怒りを満面ににじませた顔で、ローのあごを殴りつけてきた。
    「ぎゃっ!?」
    「お芝居はそこまでだぜ、リーダー」
    「な……何故?」
     情けなく尻もちを着き、そのまま動けないでいるローに、ダンが拳銃を向ける。
    「何でここにってか? てめーの企みを見抜いてたからだよ。
     大体、無茶な話じゃねえか。いくらバレるかもって言ったってよ、20人プラス3人の大軍を、わざわざ3人、4人に分けるなんざ、自殺行為もいいところだ。各個撃破して殺してくれって言ってるようなもんだろ。
     じゃあどうして、そんなことをするのか? 簡単な話だ、殺してもらおうと図ってたんだ。俺たち特務捜査局にとって憎むべき凶悪犯であるはずの、トリスタン・アルジャンにな」
    「ば、馬鹿な! なんで俺がそんなこと……」
     弁解しかけたローに、エミルも拳銃を向けつつ近付いて来る。
    「それも単純な話ね。あんたがそう頼まれたからよ。今度はスミスだかジョンだか知らないけどね。
     昨夜、確かにあたしたちはジョージタウンで降りたわ。今日の昼の便で、スリーバックスに向かうってことでね。
     でもその前にちょっと、電話を掛けてみたのよ。特務捜査局にね」
    「……!」
     エミルの話を聞き、ローの顔から血の気が引く。その真っ青な顔を憮然と眺めつつ、アデルが話を継いだ。
    「特務局に電話してみたら、ミラー局長からものすごく驚かれたよ。『なんで今まで電話してこなかったんだ』、ってさ。
     どうやらあんたがご熱心に電話してたのは、特務局にじゃなく、もっと別のところだったってことだ。
     で、本当はどこに電話してたのか、ミラー局長を通じて電話会社に調べてもらった。そしたら……」
     そこでエミルがニッと笑い、ふたたび話を続ける。
    「A州、セントメアリー――スリーバックスの先にある駅に何度も電話してたってことが分かったわ。
     つまりあたしたちの動きは、組織にバレてるってことよね。あんたが逐一報告してくれたおかげで」
    「し、知らん! なんだよ、組織って?」
     ローは白を切ろうとするが、エミルはそこで、ダンに向き直る。
    「ダン、こいつの身体検査して。三角形のネックレスか何か、持ってるはずよ」
    「よし来た」
     ダンはごそごそとローの懐を探り、「あったぜ」と答える。
    「これか? この、三角形と目みたいなのが付いた奴」
    「それね。もう言い逃れできないわよ、リーダーさん?」
    「う……ぐ」
     ローはそれ以上反論せず、うつむいて黙り込んだ。
    「……しかし、となるとだ」
     ネックレスを握りしめたまま、ダンが不安そうな表情になる。
    「俺たちがこのままノコノコとスリーバックスに行っちまったら、返り討ちに遭うってことだろ? 何日も潰して折角ここまで来たってのに、退却しなきゃならんってのは悔しいぜ」
    「そうとも言い切れないわよ」
     エミルがパチ、とウインクする。
    「トリスタンはあたしたちが来ていることを知ってはいても、こうしてスパイがバレたことについては知らないわ。
     罠を張ってると高をくくって、堂々と真正面から乗り込んでくるはずよ。それこそ、あいつにとって最も大きな隙になる。
     だから、結論はゴーよ。このまま22人総出で、あの化物を退治しに行きましょう」

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 7

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第7話。
    牛狩りの時。

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    7.
     パン、と火薬が弾ける音が響くと同時に、ディミトリの姿はトリスタンの前から消え失せていた。
     だが――。
    「私をなめるなよ、アレーニェ!」
     すかさずトリスタンは、天井に向かってもう一発放つ。
    「うっ……」
     一瞬間を置いて、うめき声と共に白い塊がどさり、とトリスタンの前に落ちてきた。



    「流石はトリス。僕の動きを、見切っていたか」
     力無く笑うイクトミのほおからは、ぼたぼたと血が滴っている。
    「とは言え、どうにかかわしはしたがね」
    「この前のような道化振る舞いはどうした、アレーニェ?」
     トリスタンはイクトミを見下ろし、三度撃鉄を起こす。
    「お嬢に気に入られようとしていたようだが、滑稽はなはだしい。何の効果も無い。惨めなだけだぞ、アレーニェ。
     それとも我々の目を眩(くら)まそうとしていたのか? だがそれも無意味だったな。世間の有象無象共に『怪盗紳士イクトミ』などと己を呼ばせていい気になっていたようだが、我々の目は少しもごまかせない。
     そう、お前のやってきたことなど、何一つ実を結びはしないのだ。我々に楯突こうなど、所詮は愚行に過ぎん」
    「……ご高説を賜り大変痛み入りますが」
     と――イクトミの口調がいつもの、慇懃(いんぎん)なものに変わる。
    「わたくしはいくら無駄だ、無意味だと罵られ、なじられようとも、その歩みを止める気など毛頭ございません。
     それがわたくしの、成すべき宿命でございますればッ!」
     ふたたび、イクトミは姿を消す。
    「くどいぞ、アレーニェ!」
     トリスタンが吼えるように怒鳴り、拳銃を構えた瞬間――周りの棚や机、さらには窓や壁に至るまで、ぼこぼこと穴が空き始めた。
    「ぬう……ッ!?」

    「撃て撃て撃て撃てーッ!」
     外では特務局員がガトリング銃を構え、掃射を始めていた。
     その横にはアデルたちと、縛られた上に猿ぐつわを噛まされ、完全に無力化されたローと、そしてディミトリ、さらにはどう言う経緯か、アーサー老人の姿までもがある。
    「ビルが倒れようと構わん! 中はトリスタン一人だけだ! ビルごと葬ってやれーッ!」
     ダンの号令に応じ、ガトリング銃に加え、他の者たちも次々に銃を構えて、ビルに向かって集中砲火を浴びせる。
    (……なあ)
     と、アデルが小声でエミルに尋ねる。
    (ボールドロイドさんの話じゃ、中にイクトミがいるんだろ?)
    (ええ、協力を取り付けたらしいから。どうやって接触したのか知らないけど)
    (流石と言うか、何と言うか。
     でもあそこまで撃ちまくられたら、イクトミの奴、蜂の巣になってんじゃないか?)
    (心配無用)
     エミルの代わりに、ディミトリの縄をつかんでいたアーサー老人が答える。
    (彼ならもう既に、ビルを出ているはずだ)
     続いて、エミルもうなずいて返す。
    (でしょうね。問題はトリスタンの方よ)
    (問題って……、蜂の巣っスよ?)
     けげんな顔で尋ねてきたロバートに、エミルは首を横に振って返す。
    (あいつがこの程度でくたばってくれるようなヤワな奴なら、苦労なんかするわけ無いわ)
    (へ……? い、いや、あんだけ撃ち込まれてるんスよ? 普通、死ぬっスって)
    (言ったでしょ? あいつは普通じゃないのよ)
     問答している内に、ビルの1階部分がぐしゃりと潰れ、2階・3階も滝のようになだれ落ち、土煙の中に沈んでいく。
    「もが、もが……」
     真っ青な顔で様子を見ていたディミトリが、猿ぐつわ越しに泣きそうな声を漏らす。
    「残念だったな、ディミトリ・アルジャン。お前のお城、消えて無くなっちまったぜ?」
     ディミトリの襟をつかみ、ダンが勝ち誇った顔を見せつける。
    「お前も兄貴も、まとめて絞首台に送ってやるぜ! もっとも兄貴の方は、その前に土の下らしいけどな」
     土煙がアデルたちのいるところにまで及び、自然、局員たちの攻撃の手が止む。
    「いくらなんでも、もう……」
     誰かがそう言いかけたところで、エミルが叫ぶ。
    「まだよ! 止めないで! 撃ち続けて!」
    「え……?」
     局員たちが何を言うのか、と言いたげな顔をエミルに向けた、その瞬間だった。
    「ぐばっ……」
     その中の一人の顔が、まるで壁に投げつけられたトマトのように飛び散った。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 6

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第6話。
    猛火牛、来る。

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    6.
     ジョージタウンで作戦会議が行われた、その2日後。
     駅に掛けられた時計が2時40分を指すとほぼ同時に、列車がスリーバックス駅に到着した。
    「……」
     到着と同時に、一瞬、熊と見紛うほどの筋骨隆々の男が、のそりと客車から現れる。
     件(くだん)の「猛火牛」こと、トリスタン・アルジャンである。
    「……ふむ」
     彼は辺りをうかがい、むすっとした表情のまま、駅を後にし、通りを闊歩(かっぽ)する。
     その間にも時折、彼は周囲に視線を向けていたが、その都度安心したかのような、しかし、どこか腑に落ち無いと言いたげな鼻息を漏らし、歩き続ける。
     やがて目的の場所――弟の経営するガンスミス店が入った3階建ての木造建築、レッドラクーンビルの前に着く。
    「……」
     そこでももう一度、トリスタンは周囲を見回し、首を傾げる。
     が、それ以上何かするでもなく、彼は店に入った。
    「ディム、私だ。少し早いが、来たぞ」
    「ああ、兄さん」
     店の奥から弟、ディミトリ・アルジャンが手を拭きながら現れる。
    「いや、時間通りだよ。3時きっかり」
    「そうか」
     トリスタンは自分の懐中時計と、壁に掛けられた時計とを見比べ、またわずかに首を傾げた。
    「ではお前の時計が遅いようだ。
     私の時計は駅の時計と合致していたが、こちらとは合っていない」
    「いいじゃないか」
     ディミトリは肩をすくめ、ふたたび店の奥へ戻る。
    「2つ時計があるんだ。同じ時間を示したって無駄だろ」
    「変わり者だな、相変わらず」
    「僕に言わせりゃ、兄さんも相当さ。なんだってそこまで神経質に、時間を気にするのさ?」
    「それが時間と言うものだ」
     トリスタンは奥へ進まず、店の中央に佇んだまま、弟の背中を眺めている。
    「私には、守らぬ人間の方が信じられん」
    「人それぞれ。合わせようって無理矢理言う方が、僕にはどうかしてると思うけどね」
    「その点は相変わらず、意見が合わんな」
    「逆に言えばその1点だけさ。他はわりと合ってるじゃないか」
     奥から戻ってきたディミトリが、左手に持っていたコーヒー入りのカップを差し出す。
    「これもね。バーボン嫌いだったろ?」
    「当然だ」
     トリスタンはカップを受け取り、掲げてみせる。
    「酒は人を堕落させる」
    「出た、兄さんの流儀その1」
     ディミトリはニヤニヤ笑いながら、右手のフラスコを掲げる。
    「ま、どんどん飲んでよ。いっぱいあるから」
    「いや」
     と、トリスタンはカップを傍らの机に置く。
    「本来の目的を先に済ませておきたい。渡してくれ」
    「ん? ああ、うん、拳銃だったね」
     ディミトリは棚から箱を取り出し、トリスタンに向かって開ける。
    「はいこれ。M1874のノンフルート、6インチカスタム。しっかり整備しといたよ」
    「うむ」
     トリスタンは拳銃を受け取り、懐に収め――ると見せかけ、それを突然、ディミトリに向けた。
    「な……、何だよ、兄さん? 物騒だなぁ」
    「妙なことばかりが起こっている」
     ディミトリの問いに応えず、トリスタンはじっとその顔を見据えつつ、話をし始める。
    「お前から銃を受け取るため、この町に来た。それ自体はいつものこと、至極まともな出来事だ。疑いの目を向ける余地など無い。
     疑うべきはこの町に着く2駅前、ジョージタウンからのことだ。私に対して、妙な視線が向けられているのを感じていた。明らかにあの狗(いぬ)共、連邦特務捜査局の奴らのものだ。
     なのでいつもの如く、組織に確認を取ってみれば、確かに私を拿捕せんと向かっている一団があると言う。数は20名。だが組織からの指示により無力化されており、後は私が各個撃破すれば終わりだ、との返答も得ていた。
     故に待ち構えていたが、ジョージタウンにおいても、その次のトマスリバーにおいても、そしてここ、スリーバックスに到着しても、視線は感じれど、姿をまったく現さず、何か仕掛けてくるような気配も無い。
     そして極めつけは――ディム、お前のことだ」
     かちり、と拳銃の撃鉄を起こし、トリスタンは続けて問う。
    「お前の瞳は私が知る限り、この31年間ずっと、緑色だったはずだ。
     だが今のお前は何故、茶色い目をしているのだ?」
    「……っ」
     飄々(ひょうひょう)と振る舞っていたディミトリの顔に、ここで初めて、焦りの色が浮かんだ。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 5

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第5話。
    敵地目前の作戦会議。

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    5.
     特務局の人間とすっかり打ち解けた頃になって、列車は目的地であるスリーバックスの2つ手前の駅、ジョージタウンに到着した。
     と、ここで一人が立ち上がり、全員を見渡す。
    「皆、聞いてくれ」
    「どうした、リーダー?」
     尋ねたダンに、リーダーと呼ばれたその男――ローランド・グリーン捜査長はこう続けた。
    「明日にはスリーバックスに到着するところまで来たわけだが、このまま全員でなだれ込むのは得策じゃないと、俺は考えている」
    「って言うと?」
     別の一人に尋ねられ、ローはもう一度、周囲を一瞥する。
    「考えても見てくれ、こんな大人数で押しかけてきたら、間違い無く騒ぎになる。となれば明日スリーバックスに来るはずのアルジャンが警戒し、引き返す可能性が高くなる。
     わざわざ20人で乗り込んでおいて、何の成果も挙げられませんでした、……じゃあ、バカみたいだろ?」
    「ま、そりゃそうだ」
    「だから提案として、ここで半数が列車を降り、もう半数が次の駅で降りる。
     そして明日、3~4名ずつで一日かけてスリーバックスに逐次進入し、目的地であるレッドラクーンビルをじわじわ囲み、翌日に訪れるはずのアルジャンが来るのを待ち構える。
     こう言う作戦はどうだろうか?」
     この提案に、何名かは同意した。
    「同じことは俺も考えてた」
    「確かにな。いくらなんでもこんな大人数で陣取ってちゃ、コヨーテだって寄って来ねえよ」
    「同感」
     一方で、渋る様子を見せる者も少なくない。
    「いや、そしたら後ろのアレとかどうすんだよ」
    「誰かにガトリング抱えさせて、明日まで一緒におねんねしてろって言うのか?」
    「俺は嫌」
     ダンも反対派に回る。
    「俺はまずいだろうって方に一票だ。
     相手をナメてかかってないか、リーダー? あの『猛火牛』なんだぜ? もしも俺たちの予想よりちょっとでも早くアルジャンが到着して、明らかに政府筋の俺たちとかち合ったりでもしてみろよ。
     無茶苦茶やるので有名な暴れ牛が、いきなり拳銃ブッ放したりなんかしないって保証は、どこにも無いんだぜ。
     いざそうなった時に頭数が無いってんじゃ、どうしようも無いだろ。エミルの姐さんだって、あいつは『人間重機関車』だっつってるんだしさ」
     ダンの意見に、賛成派だった者も次々、意見を翻す。
    「だよなぁ。早撃ち・暴れ撃ちでも有名だし」
    「もし撃ち合いにでもなったら、逮捕どころの騒ぎじゃないぜ。
     下手すりゃ一般人に被害が出て、新聞社に抗議の手紙が押し寄せ……」
    「最悪、特務局は取り潰し、俺たち全員懲戒免職ってことにもなりかねんぞ」
     意見が割れ、皆はローへ異口同音に尋ねる。
    「で、結局どうすんだ、リーダー? 全員で行くか? それとも逐次か?」
     皆に囲まれ、ローは思案する様子を見せる。
    「反対派の意見も確かに考慮すべき点はある。ダンの言う通り、相手は西部最悪と言っていいくらいの凶悪犯だ。ちょっとやそっとの人数で囲んだとしても、突破されるかも知れない。その点だけを考えるなら、確かに20人全員で押しかけた方が確実だろう。
     だがまず、大前提として、俺たちはアルジャンを町におびき寄せ、罠の中に飛び込んでもらわなきゃ困るんだ。現状でそれ以外に、あの凶悪犯を可能な限り平和裏に逮捕する手立ては無いんだからな。
     となれば俺たちの目論見、即ちアルジャンの逮捕を確実に達成することを第一に考えるなら、俺たちがそこにいると、相手に気取られるわけには行かないだろう?
     だから、……反対してる皆には済まないが、逐次案を採る。繰り返すが、より確実を期すための決断だ。どうか納得して欲しい」
     そこでローが帽子を取り、深々と頭を下げる。
     リーダーにそこまでされては、皆も首を縦に振るしか無い。
    「分かったよ、リーダー」
    「あんたがそこまで言うんなら、従うさ」
    「ありがとう、皆」
     ほっとした顔を見せたローを、皆がやれやれと言いたげな顔で囲む。
    「それじゃ早速、ここで降りる奴を決めるとするか」
    「そうだな」
     特務局員らが話し合う傍ら――アデルたち3人はずっと、その成り行きを冷ややかに眺めていた。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 4

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第4話。
    bewitched by the "F"ox。

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    4.
    「そんで、だ」
     と、ダンが真面目な顔になり、こう続けた。
    「あんましマトモなもんじゃないが――こっちの情報を教えたんだ。今度はあんたらの持ってる情報を教えて欲しいんだがな?」
    「って言うと?」
     そう返したアデルに、ダンはまた、ニヤっと笑う。
    「今回の件について、だよ。
     いや、大体のことは俺も把握してるつもりだ。凶悪犯トリスタン・アルジャンと、その弟を逮捕しようって話だろ?」
    「ええ、そうよ」
     うなずくエミルに、ダンは肩をすくめて返す。
    「だが、そこに至るまでの経緯がよく分からん。
     そもそも俺たち『実働部隊』に通達が来たのが、ほとんど出発前のことだ。うちの局長からいきなり『トリスタンの居場所をつかんだ。弟にも容疑がかかってる。すぐ向かってすぐ拘束しろ』、って言われて装備ポイポイ渡されて、そんで汽車にダダっと乗り込んだわけさ。
     だが、それまで俺たちも――多分あんたたちもだろうが――トリスタンの居場所どころか、奴についてのろくな情報も持っちゃいなかった。
     悪名ばかりを轟かせ、我々捜査当局を嘲笑う、実体無き凶悪犯ってわけだ。そんな幽霊(ゴースト)みたいな奴の情報をつかんだのが、あんたらんトコの局長だって言うじゃないか。
     東洋のことわざじゃ、何が何だか分かんねえって状況を、『狐につままれる』って言うだろ? まさに今回、それなんだよ。『フォックス』パディントンに首根っこつままれて、振り回されてるようなもんさ、俺たち特務局側は。
     だもんで、いまいち『やってやるぞ』って気分にならん。実際、ミラー局長だって半信半疑って感じで説明していたしな。
     だからさ、あんたらが知ってること、教えてくれないかなーってさ。これは俺だけじゃなく、今ここにいる全員が思ってることでもあるんだよ」
     ダンの言う通り、いつの間にか客車内にいた特務局員全員が、エミルたちに視線を向けている。
     そのプレッシャーに圧されたのか、エミルがふう、と息を吐いた。
    「分かったわよ。でも知ってることと言えることだけよ? こっちも業務上の守秘義務があるから、言えないことは絶対に言わない。
     それでオーケー?」
    「おう」
    「まず、今回とはまったく別件の捜査を依頼してた人間から、リークがあったのよ。それもズバリ、『自分はトリスタン・アルジャンの居場所を知っている』ってね。で、その別件の解決と引き換えに、居場所を教えてもらったってわけ。
     ただしあたしたちがその依頼者から直接聞いたわけじゃない。その依頼者からパディントン局長に電話で伝えられて、それがあたしたちや、あんたたちの局長に伝えられたのよ。
     あたしから言えることはそれくらいね。それ以上は、これ」
     そう言って人差し指を口に当てたエミルに、ダンは苦い顔を見せる。
    「あんまり有力な情報じゃないな。想像の範疇(はんちゅう)を超えない、ってくらいだ」
    「でしょうね」
    「正直、それじゃ納得しきれん」
    「同感ね。でもあたしからはこれ以上、何とも言えないわ」
    「……じゃあ」
     がた、がたっとあちこちから音を立てて、特務局員たちがエミルの周りに寄ってくる。
    「到着まで一旦、仕事のことは抜きにしてさ、何かさ、あれだ、話でもしようや」
    「な、いいだろ? いや、下心なんかありゃしねえよ? たださ、こう言う稼業やってるとさ」
    「何と言うか、あれだ。女と、いや、レディと、ほら、真っ当に親しくなるチャンスってのが、なかなか、あれで、うん」
    「って言うかお嬢さん、普通に、いや、普通以上に綺麗だし、こりゃ話しかけなきゃ男じゃねえって言うか、な?」
     揃って助平顔でニヤつく特務局員たちを一瞥(いちべつ)し、エミルは頬杖を突きつつ、はぁ、とため息をついた。
    「サムの印象があるから、あたし、もっと特務捜査局ってお堅いイメージ持ってたんだけど、そうでもないのね」
    「だけどさ」
     と、アデルが肩をすくめる。
    「俺たちが一番最初に会った特務局員って、結構乱暴なクソ野郎だったろ? マド何とかって言ったっけか」
    「それもそうね。じゃ、本当にあの子が特殊なのね。何かと」
    「だろうな。……ん?」
     アデルはうなずいて返そうとしかけたが、その途中、違和感を覚える。
    「エミル、『何かと』ってどう言う意味……」
     尋ねようとしたが――既にエミルは特務局員たちから質問攻めに遭っており、アデルには答えられないようだった。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 3

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第3話。
    サムのうわさ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     と、ロバートが中腰気味に立ち上がり、客車をきょろきょろと眺める。
    「どうした?」
     尋ねたアデルに、ロバートはこう返す。
    「いや、そう言やサムのヤツ、いないなーって。あいつ、探偵局との連絡役でしょ?」
    「そう言や見てないな。……つっても、今回のヤマにゃ不向きだろ。もろにインテリ系だし、銃も持ってないって言ってたし。
     案外、今回は『急に熱が出ました』とか何とか言い訳して、逃げたんじゃないか?」
     アデルがそんな冗談を言ったところで、彼の背後から声が飛んでくる。
    「サムって、サミュエル・クインシーの坊やのことか?」
    「ん? ああ、そうだ」
     アデルが振り返り、返事したところで、声の主が立ち上がり、帽子を取って会釈する。



    「いきなり声かけて済まんな。俺はダニエル・スタンハート。ダンって呼んでくれ」
    「ああ、よろしくな、ダン。俺はアデルバート・ネイサン。アデルでいい」
     アデルも立ち上がって会釈を返し、軽く握手する。
    「それでダン、サムのことを知ってるのか?」
    「ああ。あいつなら今頃、N州に向かってるぜ。
     俺たちが出発する前日くらいだったか、うちの局長から直々に命令があったらしくてさ、大急ぎでオフィスを飛び出すのを見た。ま、何を命令されたかまでは知らないが」
    「妙なタイミングだな」
     アデルは首を傾げ、そう返す。
    「まるでこの遠征に行かせまいとしたみたいじゃないか」
    「俺たちの中でも、そう思ってる奴は結構いる。
     口の悪い奴なんか、『サムの坊やはミラー局長の恋人なんじゃないか』なんてほざく始末さ」
    「そりゃまたひでえうわさだなぁ、ははは……」
     アデルは笑い飛ばしたが、ダンは神妙な顔をしつつ席を離れ、アデルの横に座り直した。
    「笑い事じゃない、……かも知れないんだよな、これが」
    「……って言うと?」
     尋ねたアデルに、ダンはぐっと顔を近付け、こそこそと話し始めた。
    「サムが特務局に入ったこと自体、局長が工作したんじゃないかって言われてるんだ」
    「何だって?」
    「ここにいる奴らを見てりゃ察しも付くだろうが、どいつもこいつも実務主義、現場主義ってタイプばっかりだ。
     だがサムはそれと真逆って言うか、対極って言うか、言うなれば理論派って感じだろ?」
    「ああ、確かにな」
    「そりゃ、そう言うタイプが職場に多くいた方が効率的になるのかも分からんし、何かといい感じのアイデアが出て来るってこともあるだろう。そう言う考えで、局長は積極的に採用しようと思ってるのかも知れん。
     だがそう言うインテリ派は、今まで『外注』って言うか、大学の教授だとか研究所のお偉いさんに話を聞きに行くだけで十分、事足りてたんだ。わざわざ局員として雇うほどの必要性は無い。なのになんで、わざわざ銃もろくに握ったことの無い、なよっちくてひょろひょろのメガネくんを雇ったのか?
     そのおかげで、特務局のあっちこっちで『まさかマジでインテリかき集めるつもりなのか?』『それともサムの坊や、局長のお気にいりなのか?』なんて話がささやかれてる有様さ」
    「言っちゃなんだけど、下衆ばっかりね」
     と、アデルたちの会話にエミルも加わる。
    「あの子は確かに銃もろくに撃てないし、気弱で吃(ども)りもあるけど、アタマの良さは本物よ。あの子の判断と知識のおかげであたしたちの捜査が進展したことは何度もあるし、探偵や捜査官向きのいい人材だと、あたしは思ってる。
     そんな子を侮辱したり、陰口叩いたりする奴らの方がろくでなしよ」
    「ん、ん、……まあ、そう言ってやらないでくれ」
     ダンが苦い顔をし、エミルに応える。
    「確かに俺にしても、今――ちょこっとだぜ、ちょこっと――あいつを悪く言ったのは反省してる。
     特務局の奴らだって、サムに後ろ暗いところがあるなんて、本心からは思っちゃいないさ。根は良い奴ばっかりだ。それは俺が保証する」
    「そうね。あなたも謝罪してくれたし、あたしも言い過ぎたかもね」
    「分かってくれて嬉しいよ」
     にこっと笑ったダンに、エミルもニッと口の端を上げて返した。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 2

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第2話。
    合同捜査チーム。

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    2.
    「大事(おおごと)になってるな」
     そうつぶやいたアデルに、向かいの席に座っていたロバートがかくんかくんと首を振って答える。
    「マジすごいっスね。こんな大勢……」
    「しかもこの車輌1台、丸ごと俺たちの貸し切りだぜ。
     その上、経費も向こう持ちだってさ。局長が喜んでた」
    「太っ腹っスねー、流石お役人って感じっス」
     騒いでいた二人の脚を、エミルが蹴りつける。
    「いてっ」「あいたっ!? ……なにするんスか、姉御」
    「みんな、こっちにらんできてるわよ。騒ぐんなら客車の外でやりなさい」
    「……おっとと」
     慌てて口を手で押さえるが、それでもアデルは会話をやめない。
    「しかしさ、特務捜査局も本気出してきてるよな、これ」
    「そりゃそうよ。かなりの凶悪犯だもの、トリスタンは。
     むしろこれくらいの人数でかからなきゃ、返り討ちにされるわ」
     そう返し、エミルも客車の中を一瞥する。
     客車にはアデルたちを含め20人ほど乗っていたが、その全員が連邦特務捜査局の人間である。
     さらには拳銃や小銃、散弾銃と言った物騒なものを軒並み装備しており、その光景は「捕物」と言うよりも、軍隊の遠征を彷彿とさせるものだった。
    「奥に2つある木箱、何だか分かるか?」
     尋ねたアデルに、ロバートは、今度は首を横に振る。
    「何スか?」
    「ガトリング銃だよ。どうしても逃げられそうになった時の、最後の手段らしいぜ」
    「が、ガトリングっスか!? 無茶苦茶じゃないっスか」
    「あんたらねぇ」
     もう一度、エミルが二人の脚を蹴る。
    「いってぇ」「あうちっ!?」
    「あんまりぐだぐだしゃべってると、あたしがあんたたちをガトリングで撃つわよ」
    「わ、分かった、分かった」「すんませんっス……」
     二人が黙り込み、ようやくエミルがほっとしたような表情を見せる。
    「あ、そう言や」
     が、すぐにロバートが口を開き、エミルがまた、目を吊り上がらせた。
    「まだ何かあるの?」
    「あ、いえ、あのー、……ちょっと質問っス、はい」
    「どうぞ。短めにね」
    「そ、そのっスね、何でこんなに厳重警戒なんだろうなーって。
     トリスタン・アルジャンって、そんなにヤバいヤツなんスか? いや、俺も一回遭ったし、ヤバさは何となく分かるんスけど、相手は弟含めて、たったの2人っスよ?
     ガトリングまで用意するなんて、やり過ぎなんじゃないかなーって思うんスけども」
    「やり過ぎとは思わないわね、あたしは」
     一転、エミルの顔から険が抜ける。
    「聞いた話じゃ、あいつには猛火牛(レイジングブル)だなんて大仰な仇名があるらしいけど、実態はそれどころじゃないわ。
     その野牛と、それから獅子と灰色熊を足して、そこへさらに3を掛けたような、屈強かつ異様な肉体の持ち主よ。その上、一度こうと決めたら絶対に曲げない、まさに鋼の如き精神をも兼ね備えてる。
     そんな人間重機関車みたいなバケモノが真っ向から襲ってきたら、あんた勝てると、……いえ、生きてられると思う?」
    「う……」
     トリスタンの人物評を聞き、ロバートは顔を青くする。
    「犯罪歴も凶悪よ。局長が調べた範囲だけでも、5つの州と準州、30近い町で殺人と強盗、州や連邦政府の施設に対し不法侵入および破壊工作。さらには東海岸沖でも船を沈めたり積荷を奪ったりの海賊行為、……と、やりたい放題。
     その存在が政府筋に知られて以降、懸賞金は右肩上がり。でも検挙しようとする度、捜査官や保安官は重傷を負うか、殺されるか。軍隊まで動かして捕まえようとしたこともあったらしいけれど、それもことごとく失敗。
     実は今回も、局長からA州州軍へ働きかけたらしいんだけど、断られたって話よ。局長曰く、『派遣できるほどの余裕が無いとの返事だったが、失敗して恥をかきたくないと言うのが本音だろう』、……ですって」
    「そんな、……軍まで尻尾巻いて逃げるようなヤツ相手に、……俺たち、大丈夫なんスか?」
     恐る恐る尋ねたロバートに、エミルはぷい、と顔をそらしつつ、こう返した。
    「大丈夫ってことにしなきゃまずいわよ。そうじゃなきゃ死ぬんだし」
     どことなく弱気そうなエミルの様子に、アデルも不安を覚えていた。

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    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 1

    DETECTIVE WESTERN

    新年はじめから、ウエスタン小説連載開始。
    銃の整備屋。

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    1.
     一般的に広く認知されている形での回転式拳銃(リボルバー)が軍だけではなく民間にも普及しだしたのは1830年代、コルト・パターソンと呼ばれるモデルの登場以降とされている。
     その後に登場したコルト・SAA(シングルアクションアーミー)やウィンチェスター・M1873ライフルと言った「西部を征服した銃」などに印象付けられるように、西部開拓史を語る上で、「銃」の存在は不可欠である。
     この「超兵器」が無ければ、アメリカに渡った移民たちが19世紀中に西部開拓を終わらせることなど、到底できなかっただろう。

     勿論――これは銃に限らず言えることであるが――昨今のファンタジー作品の如く、一度買えば永遠に使い続けられるような代物ではない。
     砂塵吹き荒ぶ過酷な環境を渡り歩く際にも常に携行され、使用する度に強力な火薬の力を受け止めるのである。ろくな手入れをしなければ10年どころか、1年や半年ももたずに壊れてしまう。
     かと言って「相手を撃ち殺す度丁寧に銃身を掃除する、几帳面な荒くれガンマン」などと言う存在が普遍的であったとは、到底考えにくい。それ故、この時代のガンスミス(銃の整備屋)はそれなりに、食いっぱぐれるようなことは無かったのだろう。



    「いらっしゃいませ」
     A州スリーバックスの市街地、レッドラクーンビル。
     西部では珍しい、3階建てのその木造建築の1階に店を構えるそのガンスミスは、その日も陰鬱な態度で客を出迎えた。
    「銃を直してほしいんだが、どのくらいかかる?」
     そう尋ねつつ、客は腰の左に付けたホルスターから拳銃を抜き、台の上に置く。
    「モノは、……ええと、……SAAの、4と4分の1インチ、……45口径ロングコルト弾、……ええと、……うん、……はい。
     ライフリングとか、シリンダーとか、……全部、泥が溜まってる。傷だらけだ。沼にでも落としたんですか?」
    「んなことはどうでもいいだろ? 俺はいくらかかるかって聞いてるんだ」
     苛立たしげに尋ねてきた男に、ガンスミスは慌てた口ぶりで答える。
    「ああ、ええ、すみません。ええと、そうですね、4ドル半、いえ、4ドルで」
    「ああ?」
     値段を聞いた途端、男はバン、と台を叩く。
    「高すぎる。2ドルに負けろ」
    「無理言わないで下さい。ほとんど全ての部品、換えなきゃいけませんし」
    「全部だぁ? ここはどこだ? ホットドッグ屋か? あの万力はパン挟むヤツか? 違うだろ? ここがガンスミスだって聞いたから俺は来たんだよ、ここに」
    「ですから、4ドルいただければ」
    「高いって言ってんだろうが!?」
     男はいきりだち、腰の右に付けていたホルスターからもう一挺、拳銃を抜いて構えた。
    「2ドル、いいや、1ドルでやれ。さもなきゃてめーにくれてやるのは1セントの鉛弾だ」
    「……はぁ」
     ガンスミスは台の上に置かれた、泥だらけの拳銃に視線を落とす。
    「盗品だな、このSAA」
    「な、なんだと? てっ、てめっ、適当こいてんじゃねえぞ!」
    「職業柄、適当は嫌いでね。
     あんたが普段愛用してる2インチモデルは利き腕ですぱっと抜ける位置にあったけど、こっちのはそうじゃない、左のホルスターから抜いてた。そのホルスターにしても、ベルト穴が2つほどズレて広がってる。あんたのじゃないってことだ。
     銃にしても、泥は付いてても錆や腐食は無い。そんなに長時間、水に浸かってた感じじゃないな。本当の持ち主を撃ち殺した後、沼の中に落っこちたのを奪って自分のものにしようとしたけど、泥や石ころが詰まったせいでどう頑張っても引き金引けなかったから、僕のところに持ってきたってところかな」
     ガンスミスの推理は、どうやら寸分の狂いも無く的中したらしい。男の顔色が、みるみるうちに青くなっていったからだ。
    「だっ……、だ、だったら、どっ、どうだってんだ!?」
    「もういいよ。相手するの、めんどくさいし」
    「は?」
     男がけげんな顔をした、次の瞬間――ぱす、と小さな音と共に、男の額に穴が空いた。

    「君みたいな馬鹿を相手にする気は無いよ。じゃあね」
     その陰気なガンスミス――ディミトリ・アルジャンは硝煙をくゆらせる、妙な銃身の付いたデリンジャー拳銃を台の上に放り投げ、ぶつぶつと一人言をつぶやきながら、壁に掛けられた電話に向かった。
    「あと5日だっけ。……やれやれ、せめて兄貴が来るのが明日だったら、手間も省けるのにな。
    『ゴミ掃除』も面倒になったもんだ」

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    2018 あけましておめでとうございます

    雑記

    新年、最初の記事です。
    本来ならば新年のご挨拶を申し上げるところですが、
    昨年に祖父が他界しましたため、差し控えさせていただきます。
    (とは言え93歳の大往生ですので、
    親戚一同、さして悲しんではいない模様ですし、
    僕自身も同様の心持ちですが)

    上述の通り、2017年も不幸がありましたし、金銭的にもしんどかったです。
    帰省でいくら飛んだか……。



    話は変わりまして、昨年の実績について。
    昨年立てた目標と比較して述べていきます。
    ・イラスト30作:21作。ドット絵も含めれば32作と、どうにか達成はしたと言えますが。
    ・「DW」2作掲載:DW7とDW8を掲載。文句無く目標達成です。
    ・「琥珀暁」3部まで進行:2部まででした。書くだけなら書けてはいるんですが、掲載までには至らず。
    ・クルマ購入:おカネを貯めるどころか、貯金が無くなりました。

    そして今年の抱負と目標。
    ・今年もイラスト30作。できればドット絵含めて40作
    ・「DW」11まで掲載
    ・「琥珀暁」第4部まで掲載
    ・「DW」をまとめた本を制作
    (クルマはとりあえずいいや……現状いらないし)

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    壁紙15点

    カウンタ、ウェブ素材

    今年の待受に使った素材を流用して、またPC用の壁紙を作ってみました。
    スマホやタブレットにも使えます。ただしサイズは1920*1080のみ。

    ねこ。




    きつね。




    うさぎ。


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    2018年1月携帯待受

    携帯待受

    JAGUAR XE(X760)

    JAGUAR XE(X760)

    JAGUAR XE(X760)  JAGUAR XE(X760)

    2018年版携帯待受、開始します。
    第1弾はジャガーのXE。

    ながーい間ほったらかしにした企画「クルマのドット絵 ヨーロッパツアー」、
    無理やり終わらせにかかります。
    2018年の待受はすべてイギリス車です。
    と言うわけで、次回もジャガー。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



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    クルマのドット絵 その74

    クルマのドット絵

    引き続き、今年の待受に使用したものから、アメリカ車3種。
    今回はこれで一区切り。

    CHEVROLET CORVETTE(C7)

    DODGE VIPER

    FORD GT

    ・シボレー コルベット(2014)
    ・ダッジ バイパー(2014)
    ・フォード GT(2016)

    久々に、どれも納得行く出来に仕上がりました。素材がいいからか。
    アメ車のスポーツ/レーシングモデルはみんないいデザイン。
    描くのには苦心しましたが。

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    「双月シリーズ」イラスト ~ 克天狐(あまね つかささん、南木リヴ助さん、野川真実さんより)

    他サイトさんとの交流

    天狐ちゃんのイラストがほしぃ(´・ω・)」と言う駄々をこじらせてたところ、
    ツイッターで交流のあったあまね つかささん(@amane_sanga)がこのツイートにて、
    イラスト練習の題材を募集されていたので、応募してみたところ快諾していただけました。
    翌日のツイートがこちら

    そしてそのイラスト。

    僕の中のイメージとして、天狐ちゃんは狩衣風の和装だったんですが、……書生もアリだなぁ、と。
    現在連載中の双月シリーズ「琥珀暁」には、今のところ出演機会は設けていないんですが、
    次回作では出てもらう予定。その時には書生風の描写を入れてみようかなぁ。
    そう思うくらい、この天狐ちゃん、かなり気に入りました。

    これだけでも非常に嬉しかったんですが、さらにこのお題に参加していただいた方が2名。
    まず、南木リヴ助さん(@manmosda11)。

    天狐ちゃんの性格がイラスト全体ににじみ出てる。
    めっちゃケンカっ早そう。いや、実際結構な回数キレてました。

    そして野川真実さん(@MsTarepanda)。

    可憐な天狐ちゃん。
    不敵に笑う雰囲気もまた、この子らしい。



    皆様、ありがとうございました!
    ……またリクエストの機会があった時には、お願いしたいです。

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    クルマのドット絵 その73

    クルマのドット絵

    今回も、今年の待受に使用したものから。
    ドイツ車2種。

    PORSCHE 918 Spyder

    AUDI R8 coupé

    ・ポルシェ 918 スパイダー(2013)
    ・アウディ R8 クーペ(2016)

    ちなみに今年の待受には、ドイツ車としてもう一つ、メルセデスのSLRマクラーレンを使っていましたが、
    前回クルマのドット絵にて掲載した時と比較し修正した箇所が無かったため、今回は取り上げていません。

    また、R8は以前にも描きましたが、モデルチェンジしてたので新たに描き起こしました。
    隣のうさぎちゃんもリニューアル。

    ポルシェはリアが魅力的ですね。
    いつか911も描いてみたい。新型が出たら。

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    クルマのドット絵 その72

    クルマのドット絵

    今回も、今年の待受に使用したものから3点。
    イタリア車3種。

    Alfa Romeo 8C Competizione

    LAMBORGHINI HURACA'N

    FERRARI LaFerrari

    ・アルファロメオ 8C コンペティツィオーネ(2008)
    ・ランボルギーニ ウラカン(2014)
    ・フェラーリ ラ・フェラーリ(2013)



    8Cは以前に描いたものをちょっと手直し。
    なんかマイナーチェンジしてたみたいで。

    ちょっと気を抜くとすぐ、ランボルギーニは新車出してるような気がする。
    ちょっと前までムルシエラゴとかガヤルドとかの話してたのに……
    アヴェンタドールだってまだ描いてないのに……。
    (あ、でもムルシエラゴとか描いたのって、2011年のことかー……)

    今までフェラーリ描く時、いつも難航してましたが
    今回は会心の出来でした。



    どうでもいいけど皆、腕組んでるなぁ。
    高級車らしく、態度もお高いのか。

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    クルマのドット絵 その71

    クルマのドット絵

    1年間の間に溜まったので、放出していきます。

    NISSAN GT-R(R35)

    HONDA NSX(NC1)

    LEXUS LFA

    ・日産 GT-R(2007)
    ・ホンダ NSX(2016)
    ・レクサス LFA(2010)

    日本のクルマ販売が家族向け、かつ、低燃費・軽量化に重点を置くようになったと評されて久しいですが、
    一方でこの10年の間にも、大柄でスポーティな高級車も、依然として製造されています。
    例えばこの3台。

    大きな企業は「フラッグシップ(旗艦)モデル」と呼ばれる製品を、積極的に作る傾向があります。
    その企業が持つ技術の粋を集めた、その企業を代表するような超々最高級品。
    つまり「ウチはここまでのモノが作れる」と宣伝するために作られた製品。
    クルマのメーカーだと、いわゆる「スーパーカー」がそれに当たります。

    この3台はいずれもそのスーパーカー、フラッグシップモデルに相当するクルマ。
    各メーカーの本気が詰まっています。
    勿論、それ相応にめっちゃ高価ですが。

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    2017年12月携帯待受

    携帯待受

    FORD GT

    FORD GT

    FORD GT  FORD GT

    2017年12月の壁紙。
    フォード・GT。

    アメリカ車でスーパーカーと言えば、何と言ってもフォードのGTですね。
    今年1年続けてきたスーパーカー特集も、これで終了。



    考えていたんですが、「クルマのドット絵のヨーロッパツアーやる」と言っていて、
    2015年から全然進んでいませんでした
    あと1ヶ国、イギリスだけで完結する予定なんですが、まったく手を付けていない状況。

    ずーっとこのままなのは気分的にしんどいので、無理矢理終わらせにかかろうと思います。
    つまり来年はイギリス車。12ヶ月全部。できれば古いのから新しいのまで。
    ついでに新しい柄も制作します。イギリスっぽいのを。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
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    「双月シリーズ」イラスト ~ 克天狐(矢端想さんより)

    他サイトさんとの交流

    天狐ちゃんのイラストがほしぃ(´・ω・)」と駄々こねてたら、
    いつもDWシリーズの挿絵でお世話になっている矢端さんから、素敵な贈り物が。



    ありがとうございます!
    この天狐ちゃんなら優しく指導してくれそうだ……。

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    イラスト;克天狐(4回目)

    イラスト練習/実践

    タブレット買ったので試しに描いてみよう、……と思ったんですが、設定がうまく行っていないのか、
    どうしてもタップするとブラシ種類選択ウインドウが表示されてしまい、結局描けずじまい。
    いつも通りのマウス描きです。

    線画版。

    どうでもいいことですが、描いた後にウエストマーク付けるの忘れてることに気が付きました。
    とは言えバストアップなので、無くてもいいんですが。

    カラー版。

    ちなみにツイッターでこんなことをつぶやいてます。
    https://twitter.com/au_ring/status/921404554280701952
    金毛九尾の赤黒オッドアイの三白眼で和装男装風でぺったんこの狐っ娘が見たい。
    そしてそれを元にイラストの練習がしたい。


    と言うわけで誰か描いて欲しいな、……と。

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    双月世界地図;琥珀暁(第2部)

    世界観・補足・考察

    「琥珀暁」第2部の地図。



    エリザとモールの旅路は、おおよそ6~7年か、それ以上と考えています。
    その行程、
    )エリザの村を出てラボの村へ行き着き、
    )そこから壁の山で数年修行後、
    )一旦ラボの村に戻り、
    )クロスセントラルに討伐隊を借りに行き、
    )壁の山を超えてラボの村に一時逗留後、
    )エリザの村でバケモノ退治。

    ……一桁~10代前半くらいの女児が歩く距離じゃないなこれ。
    逆算すると、モールとの旅の後半くらいのエリザは、もうちょっと歳、年代が上なのかも。
    (第3部がえらい内容になってしまっているので、そのためのエクスキューズです)

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    2017年11月携帯待受

    携帯待受

    DODGE VIPER

    DODGE VIPER

    DODGE VIPER  DODGE VIPER

    2017年11月の壁紙。
    アメリカ車。ダッジのバイパー。
    緑色にするとイギリス車みたい。
    アメリカ車のナショナルカラーって何色なんでしょうか。水色かなぁ……?

    ボチボチ来年のことを考える時期です。
    来年の待受はどうしましょうか。
    ちなみにこの数年の流れとしては、

    2013:日本・世界のハッチバック
    2014:世界の高級車
    2015:世界の大衆車
    2016:日本の軽車両
    2017:世界・日本のスーパーカー

    来年はまた、日本中心に進めようかなぁ。
    何か希望・リクエストがあれば、そちらを優先しますが。



    次回もカラーに関して、twitterにてアンケートを行う予定です。
    ブログトップページ、もしくはこちらから、私、黄輪のTLに飛ぶことができます。
    よろしければご参加下さい。



    Calender picture application by Henry Le Chatelier

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    双月世界地図;琥珀暁(第1部)

    世界観・補足・考察

    そう言えば「琥珀暁」の地図描いてなかった。
    と言うわけで、今更ですが掲載。



    とは言え、紀元前1年の話。
    これ以前の歴史は皆無なので、あんまり特筆すべき箇所も無く。
    強いて言えば「火紅狐」以降の時代に比べて、大きな川が少ないくらい。
    と言うのも、あの川は双月世界における巨大政治組織、「中央政府」成立以降に、
    央北各地に水を供給することを目的として引かれた水路。
    元々の川はこんだけシンプルでした。

    あと、「南旅伝」と「襲跡伝」でゼロたちが旅した道のりも記しておきます。
    緑の線が往路、青の線が復路です。
    さらに言えば、「南の村」は「火紅狐」以降のサウスボックスとは違う街。
    鉱山が枯れたり別の鉱山が見付かったりで、ちょくちょく移動しているようです。
    また、「大交渉」以降は歴史的建造物ができたり大小様々な商会が集まったりして、移動してない模様。

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 15

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第15話。
    31日、決断のとき。

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    15.
     局長はギルマンの目星を付けてすぐに、イクトミへ連絡した。
    「……と言うわけだ。そのジャック・スミサーと、彼の会社を調べれば、ギルマンへの手がかりが得られるだろう」
    《ありがとうございます。やはりあなたは優れた探偵王だ》
    「喜んでもらえたようで何よりだ。
     それよりイクトミ。今、私の側には誰もいない。人払いしているからね。エミルたちにも席を外してもらっている。
     この会話が誰かに聞かれると言うことは、無いと思ってくれていい」
    《ふむ……?》
     イクトミのいぶかしげな声が返ってきたところで、局長も再度、周囲に怪しい気配が無いことを確認してから、こう尋ねた。
    「Aはそこに?」
    《ええ、おります。お互い、今は一人でいると大変危険ですから》
    「状況は切迫している、……と言うことか。であれば早い内に、行動を起こさねばならんな。
     教えてくれるかね、イクトミ。アルジャン兄弟は今、どこにいる?」
    《A州のスリーバックス、メリー通りにあるレッドラクーンビル。そこにディミトリ・アルジャンの工房があります。
     そして2週間後の31日、ディミトリは兄トリスタンに、新たな拳銃を提供するとの情報を得ております》
    「その情報、どうやって入手を?」
    《何を隠そう、私とムッシュ・ボールドロイドは今、その隣室に潜んでいるのです》
    「何だって?」
     驚く局長に、イクトミはこう続ける。
    《電話回線に細工をし、ディミトリが電話で交わした会話はすべて、筒抜けになっております。一方で、わたくしたちの会話が傍受されないよう、スイッチ式に盗聴の可・不可を切り替えることもできます。
     普段から銃のことしか頭にないディミトリのこと、自分の電話に細工をされていることなど、まったく気付くはずも無い。事実ここに潜んで2日が経とうとしておりますが、今日も彼は、電話で兄と会話を交わしております。
     組織のことについて、それはもう明け透けに、そして何の隠し立てもせずに、です》
    「ほう……」
     と、電話の声がアーサー老人のものに変わる。
    《おかげで色々と、情報を得ることができました。情報源としては、もう十分にディミトリは役立ちました。
     我々はすぐ、ここを発つ予定です。入手した情報を頼りに、組織からの攻撃をかいくぐりつつ、ギルマンを追うつもりです。
     エミル嬢に襲撃させても、別段、何の問題も発生しないでしょう》
    「そうか。ではすぐ、準備する。今日、明日中には連邦特務捜査局の人間も連れて、A州へ発つことができるだろう」
    《幸運を祈ります。では》
     がちゃ、と電話が切れる。
     そしてすぐ、局長は別のところに電話をかけた。
    《こちら司法省、連邦特務捜査……》「やあ、ミラー。私だよ。ジェフ・パディントンだ」
     相手の挨拶をさえぎり、局長が名乗る。
    《……あんたか。一体何の用だ?》
     相手――連邦特務捜査局局長、ウィリアム・ミラーは、あからさまに邪険そうな声で応対する。
    「合同捜査をお願いしたい。極めて重要かつ、危険度の高い依頼だ」
     しかし局長がそう切り出した途端、その声色は真剣なものに変わった。
    《詳しく聞かせてくれ》
    「相手は『猛火牛』こと、トリスタン・アルジャン。
     N州でのリゴーニ地下工場事件やO州のトレバー銀行強盗事件、W州のユナイテッド製鉄工場爆破事件などの主犯ないしは重要関係者と目されている人物だ」
    《ほう》
    「出現する場所がつかめた。情報源は明かせないが、確かだ。
     確実に逮捕するため、人員を貸して欲しい。何人寄越せる?」
    《見繕ってみよう。……その、なんだ》
     ためらうようなミラーの口調から、局長は彼が言わんとすることを察する。
    「分かっているさ、危険な捜査になる。あの子は呼ばんよ」
    《恩に着る。1時間ほどくれ。こちらから連絡する》
    「分かった」
     ふたたび、電話が切れる。
     局長は局員たちが集まるオフィスに入り、声をかけた。
    「ネイサン。エミル。それから、ビアンキ君。
     仕事だ」

    DETECTIVE WESTERN 8 ~悪名高き依頼人~ THE END

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 14

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第14話。
    組織を討つために。

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    14.
     わたくしは本懐を隠すため、そしてわたくしが組織に「アレーニェ」だと悟られぬために、怪盗「イクトミ」を演じることにいたしました。
     まったく何の価値も無い、盗んだとしても何の被害も出ないようなモノを、さも価値があるかのように仰々しく盗み出すと言う、滑稽な道化を演じたのです。
     その裏で、わたくしは組織がどれだけの人員を有し、どこに本拠や基地を構え、何を計画しているのか探り、明らかになったものから逐次、潰しておりました。
     はじめのうちは、それは少しずつながらも成果を上げておりました。わずかながらも組織の力を削ぐことに成功し、地道に続けていればいつかは呪いを振り払い、ふたたび幸せで穏やかな生活を獲得できるのではと、淡い期待も抱いておりました。
     ですが現幹部の一人、フランシスコ・メイを倒した辺りから、組織もわたくしがかつての「アレーニェ」だと気付いたようでした。それを境に、組織はあちこちに兵隊を撒き、わたくしを襲わせ始めたのです。
     それに加え、組織はわたくしがガラクタのためにメイを殺害したと言ううわさを広め、かつてわたくしを投獄した時のように、警察や司法権力の力を借りてわたくしを捕らえようとしたのです。
     わたくしは改めて、組織の執拗さと陰湿さを認識しましたが、最早、後には引けません。その汚名をあえて否定せず、むしろ汚名を借りる形で、2人目の幹部を殺害しました。そう、黄金銃のポートマン老人です。
     しかしこれは、結果的に言えばかなり悪い事態を引き起こしてしまいました。あなた方パディントン探偵局を敵に回した挙句、わたくしの部下、相棒となっていた男を失うことになりましたからね。

     とは言え、あのマドモアゼル・エミルと再会できたことは、わたくしにとってこの上ない喜びでした。あの女(ひと)もわたくしと共に組織を憎み、共に戦ったことがあるのですから。
     旧組織陥落の折に生き別れとなり、二度と逢えぬものと諦めておりましたが、こうしてふたたび巡り逢えたのは、まさしく運命なのだと、組織を今度こそ潰すために神がお遣わしになったのだと、そう確信したのです。

     あの女(ひと)と共に戦うことができれば、わたくしは今度こそ、組織を完膚無きまでに潰し、人並みの生活と、ささやかな幸せを獲得できると――そう信じているのです。



    「つまり組織が崩壊し、君が殺害した2名がその幹部であると言う証拠が出れば、強盗殺人の容疑は帳消しになる。
     窃盗行為にしても、価値の無いガラクタ品ばかりだ。被害を訴え出る者などいるはずも無い。
     組織を潰すことができれば、君にかけられている数々の嫌疑・賞金は消える。我々と手を組んでいたことが分かったとしても、潰れた後であれば何の問題も無くなる、と言うわけだ」
     空になったバーボンの瓶を床に置き、アーサー老人はうんうんとうなずく。
    「しかし安直に『協力してくれ』『よかろう』などと話を進めるのには、無理がある。
     将来的に組織が無くなれば万々歳だが、その前に組織が手を打ち、我々と君との関係が明るみに出れば、組織を追うどころではなくなるだろうからな。
     とは言え手はある。少し待っていたまえ」
     アーサー老人はニヤ、と笑い、電話に向かった。



    「まさか君がAと接触していたなどとは、夢にも思わなかった」
     ブルース・ジョーンズ・カフェの奥で、パディントン局長はクスクスと笑いながら、イクトミと卓を囲んでいた。
    「流石のパディントン局長も、面食らったと言うわけですな。ボールドロイド氏も、一矢報いたと言う気分でしょうな」
    「勝率はトントンだよ。私が勝つこともあれば、Aが一杯食わすことも、往々にしてある。
     ま、そんなことよりも、だ。君と連携することとして、今後について策を講じていかねばなるまい。相手は『組織』、1人や2人じゃあないんだからな。
     初手は3人で話した通り、我々がアルジャン兄弟を捕らえ、君がギルマンを討つ。それによって組織は強い駒を失うと共に、兵站活動も滞ることとなる。言わば『腕』と『脚』を失うことになるのだ。
     仮にこれが狩りだとしたなら、腕と脚を失った獣を、次はどう攻略する?」
    「ふむ……。トリスタンさえいなくなれば、わたくしに恐れるものはございません。首尾よくギルマンを討てていれば、組織は兵隊を動かすこともできなくなるはずです。相手からの攻撃は、まず無くなると見ていいでしょう。
     となれば後は、『頭』を撃ち抜くばかりでしょう」
    「よかろう。その時は私の方でも全力を挙げ、君を援護する。いや、援護だけじゃあない。エミル嬢も説得し、前線に向かわせよう。
     君とエミル嬢がいれば、確実とは言えないまでも、かなり高い勝率を得られるはずだ」
    「はい、善処いたします」
     局長とイクトミは同時に立ち上がり、固い握手を結んだ。
    「では、ギルマンの手がかりが分かり次第、連絡するよ」
    「よろしくお願いいたします」

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 13

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第13話。
    独白。

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    13.
    「人に歴史あり、か。だがそれを私に聞かせて、何をしたい?」
     アーサー老人に2杯めのバーボンを注がれ、それもイクトミは飲み干す。
    「誰かに私の人となりを知っていただきたい、……などと言うのは厚かましいですな。いや、そんなことは申しますまい。お願いの話を、先にいたしましょう。
     組織と戦い、壊滅させることは、わたくしに課された宿命。この生命を賭してでも、成し遂げねばならぬ役目です。ですがわたくしには今、味方がおりません。
     どうか組織と戦うため、力をお貸しいただけませんでしょうか?」
     アーサー老人もバーボンを呷(あお)り、静かにうなずく。
    「どの道、私もFも組織と戦おうとしていたのだ。我々にとっても、君と言う凄腕の協力が得られると言うのならば、断る理由は無い。
     だが君と手を組むと言うことは、即ち探偵が犯罪者と手を組むと言うことでもある。関係を明かすことは、我々にとってマイナスになるだろう」
    「ご心配なく。いくつかの理由から、結果的にその心配は無くなるでしょう」
     イクトミの回りくどい言い方に、アーサー老人は首を傾げる。
    「どう言う意味かね?」
    「わたくしが公に殺害した人間については、ご存知でしょうか」
    「2件――1人目はN州レッドヤードの投資家、フランシスコ・メイ氏が秘匿していたと言う、18世紀製の気球用バーナーだったか、それを強奪するために殺害。
     そして2人目は、全純金製のSAA(シングル・アクション・アーミー)を強奪するため、グレッグ・ポートマン氏を。……と記憶している」
    「ええ、左様です。世間一般には、わたくしがそれら『ガラクタ』の蒐集のため、彼らを殺害したものと認識されているでしょう」
    「『ガラクタ』だと?」
     思いもよらないイクトミの言葉に、アーサー老人は自分の耳を疑った。
    「お前は、……まさか、……まさか、数々の窃盗行為は、偽装だったと言うのか?」
    「左様です。それについても、詳しく説明せねば、何が何だか見当も付きますまい」



     わたくしが組織との戦いを始めたのは、およそ1年半か、2年ほど前でしたか……。

     あの狂気の集団から逃れ、気ままな生活を謳歌していたのですが、そこへ突如、無くなったはずの組織からの召集令状が届きました。
     偽名で生活し、犯罪とは縁遠い職業に就き、少しばかりの友人に囲まれていた、わたくしのところに。
     当然、わたくしは令状を無視しました。今更あんなところには戻れない、戻りたくない、……と。
     そして、半月ほど経った頃でしょうか――わたくしは突然、町の銀行を襲ったコソ泥としての汚名を着せられ、訳の分からぬままに拘束・投獄されました。
     わたくしには、その一日はとても、とても恐ろしく、冷たく、おぞましい一日でした。昨日まで淡々と仕事に勤しんでいた職場を叩き出され、昨晩まで仲良く酒を飲んでいた友人たちに口汚く罵られながら、わたくしの新たな人生には無縁と信じていた監獄に突然、放り込まれたのですから。

     しかし、さらに恐ろしいのは、ここからでした。
     檻の中で打ちひしがれていたわたくしの前に、あの紋章を持つ者が2名、現れたのです。彼らはわたくしに、こう告げました。
    「これで我々の力が、良く分かっただろう。
     素直に我々の下に戻ってくるなら、すぐにでもここから出してやる。断ると言うのならば、君は明日にでも絞首刑になるだろう。
     窃盗と、友人殺しの罪でね」
     そう告げられた瞬間――わたくしの心の中に突如、天啓のようなものが飛来しました。いや、それはむしろ呪詛(じゅそ)、呪いの言葉と言ってもいいようなものだったのかも知れません。
     組織がこの世にある限り、わたくしには未来永劫、平和で幸せな生活などと言うものは訪れないのだと。

     わたくしは立ち上がり、檻の鉄柵をこの両の腕で引きちぎって牢を抜け、慌てふためく彼らを殴り据えて気絶させ、牢の中へ投げ捨てました。
     そしてわたくしは、町から逃げたのです。

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 12

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第12話。
    イクトミ襲撃の夜。

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    12.
    「ごきげんよう、ご老人。騒がしい夜になりそうですな」
     そこには全身真っ白のスーツに身を包んだ伊達男が、拳銃を構えて立っていた。
    「……貴様……イクトミ……!?」
     アーサー老人は戦慄する。
     そして――銃声が、サルーン内に轟いた。



     だが、アーサー老人は傷一つ負うこと無く、その場に立ち尽くしたままだった。
    「……な、……なぬぅ?」
     流石のアーサー老人も、何が起こったのか把握するのに、数秒の間を要した。
     そして周囲の人間が、一人残らず射殺されていることに気付き、アーサー老人はもう一度イクトミに視線を向けた。
    「どう言うことだ? 何故彼らを殺した? まさかこいつらが一人ひとり、リーブル硬貨(18世紀までフランス王国で使われていた貨幣)を握っていたと言うわけでもあるまい」
    「ええ、左様です。
     彼らはあなたを狙っていたのです。そしてわたくしはあなたを探していた。であれば彼らを排除せねば、当然の帰結として、わたくしの目的は達せられません」
    「彼ら? こいつら全員が、私をだと?」
     アーサー老人はどぎまぎとしつつ、もう一度辺りを見回す。
    「彼らの懐を探ってみて下さい。その証明が見付かるはずです」
    「……うむ」
     イクトミの言う通りに、アーサー老人はカウンターに突っ伏したバーテンの懐を探り――そして、あの「猫目の三角形」が象(かたど)られたネックレスを発見した。
    「こいつら……!」
    「あなたはいささか、組織について知りすぎました。組織があなたや、あなた方を消そうとしています」
    「それを私に知らせるために、ここへ来たと言うのか?」
    「それも理由の一つです。あなた方がいなくなれば、わたくしもまた、早晩倒れることとなりますから」
    「どう言うことかね? ……ああ、いや」
     アーサー老人は長年の経験と勘、そして磨き抜いた人物眼から、イクトミに敵意が無く、友好的に接しようと距離を図っているのだと察し、フランクな声色を作る。
    「立ち話もなんだ、バーボンでもどうかね?」
     アーサー老人はカウンターの内側に周り、バーテンの死体をどかして、グラスを2つ取り出す。
    「ご厚意、痛み入ります」
     イクトミはほっとしたような顔をし、恭しく会釈をしてから、カウンターの席に付いた。

     カウンター周辺に漂っていた血と硝煙の匂いが、酒とつまみのバターピーナツの匂いに押しやられたところで、イクトミは話を切り出してきた。
    「わたくしのことを、いくらかお話してもよろしいでしょうか?」
    「うむ、聞かせてくれ」
     イクトミはバーボンを一息に飲み、ふう、と息を吐き出した。
    「インディアンとしての本名は、わたくしにも分かりません。
     仏系の父親からは一応、『アマンド・ヴァレリ』なる名をいただいておりましたが、10歳、いや、11歳くらいの頃から、自分からそう名乗ることは無くなりました。
     父はインディアンであった母のことを、家畜程度にしか思っていなかったことが分かりましたからね。その血を引くわたくしのことも、どう思っていたか。いや、悪感情を抱いていたことは間違い無いでしょう。
     そんな事情でしたから、11歳の頃に家を出ました。そんなわけで幼いながらも放浪の日々に入り、間も無く組織が『人材育成のため』と称して、わたくしを略取・誘拐しました。
     そこで私は、新たに『アレーニェ(蜘蛛)』と名付けられました。身体能力が他の子供と比べ、飛び抜けて高かったからでしょう。……しかしその名も結局、組織を抜けた際に捨てました。
     その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て――わたくしは、己で自分自身を『イクトミ』と名付けたのです」

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 11

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第11話。
    怪盗紳士の真の顔。

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    11.
    「それじゃ殺人犯として名前が知られ出したのは、最近の話なのね?」
     エミルにそう尋ねられ、局長はうなずく。
    「うむ。しかし妙なのは、それに関する風説の流れの、その『速さ』だ。
     確かに『強盗殺人』などと言うものは卑劣で恥ずべき犯罪であるし、故に悪評として広まるのが早いことは、想像に難くない。だがそれにしても、他の凶悪犯の名が知れ渡る速度と比較すれば、あまりにも早すぎるのだ。
     例えばあの『スカーレット・ウルフ』の場合、1881年にW州における大量殺人が発覚し、それを東部の司法当局が知り、懸賞金の額が上がったのは、そのさらに半年も後だった。
     80年代のはじめであれば、既に電話網が確立されて久しいし、鉄道網だって成熟の度合いは今とほとんど変わらない。にもかかわらず『ウルフ』は半年、イクトミは数週間だ。
     3桁を超える無差別殺人を犯してきた『ウルフ』と、資産家2人だけのイクトミであれば、人民に危険を及ぼす可能性は、どう考えたって前者だ。当局にしても、イクトミなんぞを『ウルフ』以上の危険人物だと捉えていたとは思えん。
     となれば、考えられるのは――風説を操り、司法当局へ伝わる速度を早めた者がいる、と言うことだ」
    「つまり組織の奴らが、イクトミを捕らえるために、世論と司法当局を利用したってこと?」
     エミルのこの問いにも、局長は同様にうなずいて見せた。
    「無論、『捕まえるのはあくまで自分たちだ』とは、考えていただろうがね。……おっと、話が逸れてしまった。
     ともかくイクトミを拿捕、拘束、あるいは殺害せんと、組織は全力を挙げている。風説の流布にしてもそうだし、滅多やたらに襲撃しているのも、そうと言える。
     であればギルマンも大忙しだろう。組織の兵隊たちに、じゃぶじゃぶと武器・弾薬を供給していたに違いない」
    「……! つまりO州・K州・N州で頻繁に武器の輸送を行っていた奴が……」
     アデルの言葉に、局長はニヤっと笑った。
    「そうだ。我々が黄金銃事件で得た、イクトミの犯行ルート及び盗難品リストと、その密輸送の情報を合わせれば……」
    「自ずとギルマンの動向がつかめる、ってワケね」



     3日後、ロドニーから伝えられた情報と、自分たちの資料を基にし、局長は見事、目標を割り出すことに成功した。
    「ジャック・スミサーなる、この人物が怪しいな。
     いかにも偽名だが、それだけじゃあない。イクトミが盗みを働く前後数日、決まって貨物車1~2台分の武器・弾薬をその近辺に送っている。
     この人物を洗えば、かなり高い確率でギルマンを突き止めることができるだろう」
    「ねえ、局長。あなたの話しぶりから、ずっと考えてたんだけど」
     と、エミルが口を挟む。
    「イクトミが『美術品』を盗むのは、もしかして口実だったんじゃない?
     そしてあなた、それを知っていたか、イクトミから聞いていたんじゃないかしら?」
    「……うむ」
     局長は目線を資料に落としたまま、小さくうなずく。
    「私も世間から見向きもされぬ、しかし一部の愛好家には高く評価されると言うような逸品にはロマンがあると考えるタイプであるし、多少は蒐集(とくしゅう)もしている。
     だがそんな私の目からしても、イクトミの集めた美術品のほとんどは、はっきり言ってガラクタとしか映らなかった。
     事実、黄金銃事件で押収し、持ち主のところに返そうとしたモノのほとんどは、『いらない』と突っ返された。元の持ち主もゴミとしか思っていなかったような、益体(やくたい)も無い代物ばかりだったんだよ。
     とすれば彼が盗みを働いていたのは、本来の目的を隠すための偽装(フェイク)なのではないか? ……と、そう考えていた。
     その考えが確信に変わったのは、リゴーニ事件だ。彼は『ガリバルディの剣』なるものを盗もうとうそぶいていたらしいが、地上の屋敷にも地下工場にも、それに該当しそうなものは無かったそうだ。
     リゴーニ、あるいは彼の部下が持ち去った可能性も無くは無いが、剣を置く台座であるとか壁に掛けるフックだとか、そう言うものも、どこにも無かったと聞いている。つまり『元々剣があった』と言う形跡は、まるで無かったんだ。
     その上、君たちをわざわざ、自分の隠れ家に連れ込んだこともおかしい。そんなことをすれば間違い無く、隠れ家は司法当局に抑えられる。血道を上げて集めたはずのコレクションが押収されてしまうことは、容易に想像できたはずだ。
     なのに彼はあっさり隠れ家に君たちを入れていたし、さらにその後、一つとして取りに戻ったような様子も無かった。
     つまり彼は剣を口実にして君たちに協力を求め、最初から地下工場を暴くつもりだったのだ」
    「え、……じゃあ」
     目を丸くするアデルに、局長は目線をチラ、と向けた。
    「そうだ。彼の正体は、フランス絡みの美術品を蒐(あつ)める怪盗紳士でも、卑劣な強盗殺人を繰り返す凶悪犯でも無い。
     彼は組織を潰すため、たった一人で行動していた、義勇の士だったのだ」

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 10

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第10話。
    鉄道犯罪。

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    10.
    「そうだな、まずは、……不審な鉄道車輌、なんてのは?」
     尋ねたアデルに、ロドニーは苦い声を返してくる。
    《『何でも』って言ったばっかりで悪いが、それは答えられん。いや、『言えない』ってことじゃなくてな、『言い切れない』んだ。
     俺みたいな大鉄道愛好家や各鉄道会社、その他警察とかその関係者だとかにゃ残念でならんが、鉄道を使った犯罪やら不正なんて話は、あっちこっちでうわさされてる。お前さんが今尋ねた『不審な車輌』なんてのは、それこそあっちこっちで目撃されてるし、捕まえようも無い。
     ティム・リード鉄道強盗団みたいなのを捕まえられたのは、マジで奇跡ってヤツだろうよ》
    「そんなに多いのか? その鉄道強盗団を捕まえた辺りの頃は、そんなに跋扈(ばっこ)してるなんて話は聞いて無かったが……?」
    《そうだな、正確に言えばその直後から増えだしたって感じだ。恐らくあの時聞いた、ダリウスって野郎のせいだろう。
     俺もあの時、サムとかから話を聞かせてもらってたんだが、盗まれた車輌やその部品を使ってるだろうなって言う不審車輌の情報は、かなり聞く。それに『ゲージ可変機構』が取り付けられてるらしい車輌があるってのも、最近良く耳にしてる。
     多分だけども、ダリウスがあっちこっちにバラ撒いてるんだろう。何の目的かは分からんが、パテント料みたいな感じでカネもらってるとしたら、相当稼いでるだろうな》
    「ふーむ……」
     アデルがロドニーから聞いた情報を書き留めたメモを見て、局長がうなる。
    「確証は無いがそのダリウスも、組織の一員なのかも知れないな。
     私の記憶しているところでは、ダリウス氏が活動を開始したのは3年か、4年前だったはずだ。そして組織の活動再開は、少なくとも2年以上前から。時期はかなり近い。いや、重複していると見てもいいだろう。
     ダリウスが資材と資金を集め、組織の活動に充てていた可能性は、十分に考えられる」
    「そうね……」
     エミルたちが話しているのを背に受けつつ、アデルは質問を続ける。
    「じゃあ、そのダリウスについて、何か知らないか?」
    《そっちについては、さっぱりだ。
     あの一件以来、鉄道関係に指名手配が回ってるが、ダリウスを見たって奴は出てこない。そのくせ、あいつにつながってるっぽいうわさはポロポロ出て来る。
     まるで幽霊かなんかだよ、まったく》
    「そうか……」
     その後もあれこれと質問を重ねるが、ギルマンにつながりそうな情報は、一向に入手できない。

     と、局長がトン、トンとアデルの肩を叩き、代わるよう促してきた。
    「あ、はい。……いや、局長が話をしたいって」
     受話器が局長に渡され、彼はこう質問した。
    「すみません、突然。いや何、私からもちょっと、聞かせていただこうかと思いまして。
     リーランドさん、鉄道輸送に関して尋ねたいのですが、お詳しいでしょうか」
    《ああ、まあ、そりゃ、それなりには》
    「ではここ1年か2年の間に、大量の武器・弾薬が――そうですな、一小隊が十分活動できる程度の量で――頻繁に運ばれたと言う記録はございますか?」
    《んー……? ちょっと待ってくれ。思い出す。……あー、と、そうだな、ちょくちょく聞いてる》
    「O州やK州、N州近辺ではどうでしょう? 特に多いのではないですか?」
    《……局長さん、なんか知ってるのか? いや、確かにこの2年、その辺りで武器が運ばれまくってるって話を聞くからさ》
    「やはり、ですか。
     もしやと思いますが、その輸送の中でも非正規と思われるものについてですが、それらに最も使用されていた路線は、W&Bのものでは?」
    《あ、ああ。確かによく使われてるって話は、……聞いてる》
    「なるほど。可能なら、その関係者をピックアップしていただきたいのですが」
    《ちょっと時間をくれれば、まとめられると思うぜ。あっちこっち電話して、多分明日か、明後日くらいには返事できる》
    「では3日後の同時刻辺り、またこちらからご連絡を差し上げます。よしなに」

     電話を切り、局長はふう、と息を吐いた。
    「やれやれ、当たってしまったか」
    「局長……? 何か、つかんでたんですか?」
     尋ねたアデルに、局長はこう答える。
    「イクトミが襲撃された、と言っていただろう? そこから推理したんだ。
     そもそもイクトミに指名手配がかけられたのは1年ほど前だが、その容疑は何だったか、知っているね?」
    「ええ。殺人が契機となった、と」
    「そこだ。それが起こる前までは、彼は奇抜な紳士、風変わりな窃盗犯としての評判しか無かった。いわゆる『怪盗』と言うやつだ。
     だがN州における強盗殺人――西部方面への投資家として知られていたフランシスコ・メイ氏の殺害が、全米への指名手配の契機となった。
     そして指名手配の直後、2件目の殺人が起こる。それがグレッグ・ポートマンSrの件だ。これがイクトミの名を『悪名高き卑劣漢』として、決定的に知らしめることとなったわけだ」

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    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 9

    DETECTIVE WESTERN

    ウエスタン小説、第9話。
    霧中の敵を追え。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    9.
    「参ったね、これは」
     リロイ副局長が帰った後、局長は腕を組んでうなった。
    「リロイでも、か。なるほど、イクトミが依頼してくるわけだ」
     常より局長から「情報収集能力に長けている」と称される彼でさえも、ギルマンについては、何の情報も持っていなかったのである。
    「一応、ツテを頼るとは言ってましたけど……」
    「望み薄だな。しかし、だ」
     局長はパイプを手に取り、火を灯す。
    「東洋のことわざには、『火の無いところに煙は立たぬ』とある。
     生きている以上は何か食わねばならんし、となれば店で買うなり、畑や牧場を持つなりすることが予想される。であれば店で聞き込みを行うなり、土地台帳を照会するなりすれば、素性は割れる。一人の生きた人間がこの世界で活動している以上、必ずその痕跡は、どこかに残るものだ。
     ましてやギルマンと言う男は、兵站管理を任ぜられていると言うじゃあないか。となればどこかで武器・弾薬の買い付け、もしくは製造を行い、それを各拠点に運ぶと言う活動を積極的に、かつ、大規模に行っていることは予想できる。
     リゴーニ地下工場事件にトリスタン・アルジャンが関わっていたことを考えれば、あれが組織の一端であったことは、想像に難くない。となれば武器の製造は恐らく、地下活動的に行っているだろう。そこからギルマンを探すのは難しいかも知れん。
     しかしその輸送はどうだろうか? 全米に鉄道網が充足しつつある昨今、彼らがそれら公式な鉄道網を押しのけ、独自の鉄道路線を何千マイルも占有しているとは考えにくい。少なからず公共の路線を流用していると考えて間違い無いだろう。事実、リゴーニ事件においてはW&Bやインターパシフィックの路線が使われていたと言うしね。
     としても、それが一々、どこそこの鉄道会社に運行を届け出ているとも考えにくい。多少なりとも偽装していることは考えられるが、それでものべつ幕無しに届け出ていれば、秘密でも何でもなくなってしまう。
     さてネイサン。ここで一つ、私にアテが思い付いたわけだが、君はどうかね?」
     局長に問われ、アデルもピンと来る。
    「つまり鉄道関係に詳しい奴から、不審な人物や車輌なんかの目撃情報を集めてみる、と」
    「そう言うことだ。そしてネイサン、君の友人にいただろう? 西部の鉄道網について非常に詳しい、機関車ギークの男が」
    「なーるほど」

     アデルは早速、その「機関車ギーク」――マーシャルスプリングスの道楽者、ロドニー・リーランドに電話をかけた。
    《も、……もしもーし?》
     数年前に廃業されたと言っていたものの、会社が使っていた電話回線はまだ、生きていたらしい。
     受話器の向こうから、ロドニーのいぶかしげな声が聞こえてきた。
    「おう、俺だ。アデルバート・ネイサン」
    《あ、ああ、お前さんかぁ。こないだはどうもな。
     っつーか、びっくりさせんなよ。いきなりデスクの電話鳴ったからさ、驚いて椅子から引っくり返っちまったぜ》
    「悪いな、突然。って言うか、電話なんてそんなもんだろ」
    《そりゃそうか。んで、どうしたんだ?》
    「ちょっと聞きたいんだが、……そうだな、そっちで何か、事件だとか、悪いうわさだとか、そう言うの無いか?」
    《は?》
     ロドニーのけげんな声が返って来る。
    《あんたいつから、ゴシップ記者になったんだ?》
    「いや、そうじゃない。詳しい事情は話せないんだが、ある男を鉄道関係から追っててな。そっち方面でそれらしい情報が無いか、調べてるところなんだ」
    《ああ、まだ探偵屋だったか。そう言うことなら色々、教えてやるが……。
     何が知りたいんだ? 鉄道情報なら何でもござれだ。各鉄道会社の景気から、どこの駅のコーヒーがうまいかまで、何でも聞いてくれ》

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