緑綺星・奇家譚 4
【 緑綺星 第3部】
シュウの話、第81話。
橘家の食卓。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
七瀬の予想に反して――彼女が「商談」している間に、海斗は家に戻って来ていた。
「ただいま。……いないの、七瀬さん?」
汗を拭きながら家の中をうろついていると――。
「あたしはいるけどね。おかえり、海斗」
「あ、美園。いたの」
そっけなく返事した途端、居間から虎耳の娘がぴょこんと顔を出した。
「ママじゃなくて不満? このマザコン」
「そんなんじゃないって」
海斗は肩をすくめながら、自分の部屋に刀を投げ込む。
「七瀬さんはさっきまでいたし、美園はさっきまでいなかったじゃん」
「さっき『商談してる』ってTtT来たよ。海斗のスマホには入ってないの?」
「ん……」
言われて海斗は、自分のスマホを取り出して「あ」と声を上げる。
「見てなかった」
「アンタ、スマホはアクセサリじゃないのよ? ……って何回も言われてるじゃん」
「うるさいなぁ……」
「ソレより海斗、お腹空いてない?」
美園に尋ねられ、海斗は自分の腹に手を当てる。
「うーん……空いてるかも」
「じゃ、何か簡単なの作るわね。一人分だけって作んのダルいしさ」
「ありがと」
手をぺら、と振り、部屋に引っ込もうとしたところで、美園が「ちょっとアンタ」と声をかける。
「手伝いなさいよ。人にご飯作らせといて、自分はゲームするワケ?」
「……分かったよ。何すればいい?」
「粉測ってふるい掛けて。300グラム」
「ん」
二人並んで台所に立ち、料理を始める。
「また素振り?」
「うん」
取り留めのない会話を交わしつつ、小麦粉と水、卵を混ぜ、生地を作る。
「キャベツ入れる?」
「流石に粉と卵だけじゃ食べた気になんなくない?」
「だよね」
「あ、キャベツって言えばさ、今日学校でスミのヤツが持って来た弁当、中身全部キャベツだったんだよね。ご飯も無しでマジでキャベツだけしか入ってないの。ダイエットしてるって言ったけどさ、案の定5限終わってすぐ『おやつ無い?』って。結局食べてんじゃんって」
「……ふふ」
美園が生地を焼いている間に、海斗は皿とソースを取り出す。
「楽しそうだね、相変わらず」
「まーね。……ねえ、海斗」
出来上がった粉焼きを皿に載せながら、美園が神妙な顔で尋ねる。
「やっぱ学校行きたいんじゃないの?」
「……いいよ、別に。行ってもあんまり楽しくなさそうだし」
「楽しいって。……いや、ま、アンタがガチ陰キャであたしたち以外と話すの大嫌いだってのは知ってるけどさ、でも『仕事』以外はずーっと素振りするかゲームするかじゃん」
「僕にはそれが楽しいんだよ」
「……ん、まあ、うん。アンタがソレでいいなら、……まあ」
冷蔵庫からペットボトルを取り出しながら、美園は話を続ける。
「でも将来の不安とか無いの? 今どき学歴ナシってヤバいと思うんだけど」
「ウラじゃあんまり関係ないもん」
「オモテでだって生活があるじゃん」
「適当にごまかすよ。みんな学歴書いたボードを首から提げなきゃいけないわけじゃないし、偉そうにしてたらみんな、『ふーん、そう言うタイプか』って勝手に勘違いしてくれるよ」
「……んもー、あー言えばこー言う。んなトコわざわざ似なくていいのに」
「ここで暮らしてたらそうなるよ」
と――玄関から、「ただいまー」と声が飛んで来る。
「おかえりー」
二人揃って応じたところで、七瀬が「あれ?」と返してきた。
「なんか焼いてる?」
「小腹空いたから粉焼き作ってた」
「いーなー」
「多分そー言うだろーなーって思って、ママの分も生地作ってるよ。ね、海斗」
「うん」
買い物袋を提げて台所に入って来た七瀬は、嬉しそうに尻尾を揺らした。
「やった! スーパーでコロッケおやつにしよーかどーしよっかって悩んでたけど、買わなくて正解だったわ。すぐしまうから一緒に食べよ」
「手伝うよ、七瀬さん」
「ありがと」
二人で買い物袋の中身を冷蔵庫に入れている間に、美園が3枚目の粉焼きを焼き始める。
「先に二人で食べてて」
「ありがとね、美園」
「じゃ、いただきます」
海斗と七瀬は同時にテーブルに着き、揃って合掌した。
橘家の食卓。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
七瀬の予想に反して――彼女が「商談」している間に、海斗は家に戻って来ていた。
「ただいま。……いないの、七瀬さん?」
汗を拭きながら家の中をうろついていると――。
「あたしはいるけどね。おかえり、海斗」
「あ、美園。いたの」
そっけなく返事した途端、居間から虎耳の娘がぴょこんと顔を出した。
「ママじゃなくて不満? このマザコン」
「そんなんじゃないって」
海斗は肩をすくめながら、自分の部屋に刀を投げ込む。
「七瀬さんはさっきまでいたし、美園はさっきまでいなかったじゃん」
「さっき『商談してる』ってTtT来たよ。海斗のスマホには入ってないの?」
「ん……」
言われて海斗は、自分のスマホを取り出して「あ」と声を上げる。
「見てなかった」
「アンタ、スマホはアクセサリじゃないのよ? ……って何回も言われてるじゃん」
「うるさいなぁ……」
「ソレより海斗、お腹空いてない?」
美園に尋ねられ、海斗は自分の腹に手を当てる。
「うーん……空いてるかも」
「じゃ、何か簡単なの作るわね。一人分だけって作んのダルいしさ」
「ありがと」
手をぺら、と振り、部屋に引っ込もうとしたところで、美園が「ちょっとアンタ」と声をかける。
「手伝いなさいよ。人にご飯作らせといて、自分はゲームするワケ?」
「……分かったよ。何すればいい?」
「粉測ってふるい掛けて。300グラム」
「ん」
二人並んで台所に立ち、料理を始める。
「また素振り?」
「うん」
取り留めのない会話を交わしつつ、小麦粉と水、卵を混ぜ、生地を作る。
「キャベツ入れる?」
「流石に粉と卵だけじゃ食べた気になんなくない?」
「だよね」
「あ、キャベツって言えばさ、今日学校でスミのヤツが持って来た弁当、中身全部キャベツだったんだよね。ご飯も無しでマジでキャベツだけしか入ってないの。ダイエットしてるって言ったけどさ、案の定5限終わってすぐ『おやつ無い?』って。結局食べてんじゃんって」
「……ふふ」
美園が生地を焼いている間に、海斗は皿とソースを取り出す。
「楽しそうだね、相変わらず」
「まーね。……ねえ、海斗」
出来上がった粉焼きを皿に載せながら、美園が神妙な顔で尋ねる。
「やっぱ学校行きたいんじゃないの?」
「……いいよ、別に。行ってもあんまり楽しくなさそうだし」
「楽しいって。……いや、ま、アンタがガチ陰キャであたしたち以外と話すの大嫌いだってのは知ってるけどさ、でも『仕事』以外はずーっと素振りするかゲームするかじゃん」
「僕にはそれが楽しいんだよ」
「……ん、まあ、うん。アンタがソレでいいなら、……まあ」
冷蔵庫からペットボトルを取り出しながら、美園は話を続ける。
「でも将来の不安とか無いの? 今どき学歴ナシってヤバいと思うんだけど」
「ウラじゃあんまり関係ないもん」
「オモテでだって生活があるじゃん」
「適当にごまかすよ。みんな学歴書いたボードを首から提げなきゃいけないわけじゃないし、偉そうにしてたらみんな、『ふーん、そう言うタイプか』って勝手に勘違いしてくれるよ」
「……んもー、あー言えばこー言う。んなトコわざわざ似なくていいのに」
「ここで暮らしてたらそうなるよ」
と――玄関から、「ただいまー」と声が飛んで来る。
「おかえりー」
二人揃って応じたところで、七瀬が「あれ?」と返してきた。
「なんか焼いてる?」
「小腹空いたから粉焼き作ってた」
「いーなー」
「多分そー言うだろーなーって思って、ママの分も生地作ってるよ。ね、海斗」
「うん」
買い物袋を提げて台所に入って来た七瀬は、嬉しそうに尻尾を揺らした。
「やった! スーパーでコロッケおやつにしよーかどーしよっかって悩んでたけど、買わなくて正解だったわ。すぐしまうから一緒に食べよ」
「手伝うよ、七瀬さん」
「ありがと」
二人で買い物袋の中身を冷蔵庫に入れている間に、美園が3枚目の粉焼きを焼き始める。
「先に二人で食べてて」
「ありがとね、美園」
「じゃ、いただきます」
海斗と七瀬は同時にテーブルに着き、揃って合掌した。
- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
最新コメント